第53話:F

「では最初のグループ、コースに集まってください」


 俺は次の組のようだが、待機列に着くととなりにはレイとトモがいる。


「……ひょっとしてもう俺たち当たるのか?」

「そーゆうことみたいよ」

「あ、じゃ3人でレースですね」


 こういう対決は最後まで取っておいてほしかったが、これも運命だ、やるしかないだろう。


「誰が勝っても恨みっこなし!」

「あ、はい、私の紅の翼で羽ばたきます!」

「お前らにも勝ってお姉さんにも勝つ!」


 前の組が全員コースアウトだったようで、次のレース、俺たちの勝負が始まる。

 1レーンが俺で3レーンがトモ、5レーンがレイだ。


「シグナルに注目!」


 MCガッツの掛け声とともにランプが赤く染まる。

 緊張の間が明け、緑のランプ点灯と同時にレーススタート、3台ほぼ同時の走りだしだ。

 先頭を走るのは5レーン、レイのDQだ。


「あ、レイちゃん、速すぎます!」

「朝までガッツリ充電してたやつだからね!放電せずに使うしかないと思って。これがわたしの今のMAXだよ!」


 レイのDQを先頭にトモのレッドウイングが続き、そのすぐ後から俺のエンプレスが追う形だ。

 5レーンスタートのDQが最初にカルーセルに入る。

 アイガー上りでも速度が出ていてかなりの速度でカルーセル突入。


 かん!がんがんがん!


 速度超過でカルーセル内で跳ね返ってしまう。


「お願い!頑張って!!」


 レイの祈りが通じたのかなんとかコースに復帰するが大幅なタイムロスとなり、残り2台との差が開く。


「あっぶない、ギリセーフ……でもあとは結果を祈るしかないか」


 2週目、3週目とレッドウイングが先頭のまま。

 すぐ後ろにエンプレスが虎視眈々と付け狙う形だ。


「あ、引き離せない……と言うかこのままじゃ追いつかれる……」


 3週目、レッドウイングが程よい減速から理想的なラインでカルーセルを抜ける。


「さっすがトモ、上手い……」

「あ、でも抜かれました」


 カルーセルで減速している間にエンプレスが追い抜く。

 どのマシンも電池が垂れてきているのが一目で分かった。

 そんな中でエンプレスの省電力性がきらりと光る。

 ここからだんだんと俺のマシンが他を引き離していく。


「後半になって速度上がってない?なんなのこのマシン」

「あ、モーターだけでなくもしかして電池も後半型なのかな」

「最大の違いはタイヤかな」


 全国大会での「やらかし」から俺は徹底的にタイヤについて考えたんだ。


「なにが違うの?」

「前後スーパーハードに見えるだろうが、実はリアは普通のハードタイヤなんだ」

「あ、グリップがいいからですか?」

「5レーンでもマルーンが性能的には1番いい。ただ長いコースを走っていると空転が多いせいか電池が垂れるのが早い気がしててな。試しに前後スーパーハード使ってみたら電池が長持ちしだして。ならどこまで行けるか、の最適解を探して行き着いたセッティングなんだ」

「でもグリップあると滑らないからコーナー遅くなるのがミニ四駆なんじゃないの?」


 ご尤もな意見だ。

 マルーンが速い理由はそこにある。

 擬似的なドリフト状態を作り、速くコーナーリングするためのタイヤだからだ。


「マルーンのドリフト走行は確かに速い。でも実車でもグリップとドリフトの性能は拮抗している。つまりミニ四駆でグリップ走行も可能なのでは、と考えたんだ。その答えがこのセッティング、ローグリップフロント内側トレッド、ハイグリップリア外側トレッド化だ」

「あ、なるほど、後輪のワイドトレッド化になるんですね」

「さすがトモ、わかりが速い」

「あ、でもワイド化で速度上がるんですか?」

「リアがレーンの内側に行くことになるから旋回性能が上がるのだと思う。特にアウトリフトするとコーナーが速い感じだ。走行時のスライドはフロントは大きいがリアはフロントの動きに追順して角度が変わるだけでほぼスライドはしていない。そう考えるとハイグリップでも細ければ走れるはずなんだ」

「めっちゃ考えてるじゃん」

「1から再考したんだ。常識を疑うところから初めてるから大変だったが……このまま行けば……」


 そして俺のエンプレスが先頭のまま最後にカルーセルが来る。


「たのむ!超えてくれー!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・ドリフト走行

ミニ四駆にはハンドルがないので、コーナーリング中は常に壁に押されてマシンがスライド、滑っている状態になります。

ドリフト状態になっているので、グリップがあるタイヤだと滑りにくく、ブレーキになってしまうのです。

昔のミニ四駆だとスポンジタイヤが速い!と言われていましたが、軽いからよりもノーマルタイヤよりグリップがないからだったと言われています。

現在、スポンジタイヤがほとんど使われていないのは、それよりグリップが低いタイヤが3種類もあるからです。

それがハードタイヤ、スーパーハード、ローフリクションになります。


・ワイドトレッド

トレッドとはタイヤの取り付け位置のことで、内側だとナロー、外側だとワイドとか言うと思います。

ワイドトレッドだとスライド抵抗が高くコーナーが遅くなる傾向があるが、直進安定性は高くなる。


・アウトリフト

コーナーリング中に外側のタイヤが浮き上がる現像をアウトリフトといいます。

ちなみに内側が上がるとインリフトです。

インリフトは遠心力に負けている可能性が高いので、スタビの調整など行うべきですが、アウトリフトはコーナーリング時のタイヤの抵抗が減るので速くなる場合があります。

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