第51話:ソニック・ザ・ヘッジホッグ

「いっくよーソニック!」


 ハクの表情にも力が入る、無論俺も同じだ。

 黒いボックスに埋め込まれた赤色LEDのシグナルが緑色にうつる。

 同時に一斉にスタート、トップに躍り出たのはソニックだ。


「スタート速いな」

「前にモーター置くとトルク出るねー、パワーダッシュにしたのも良かったかもー」


 それにスイカタイヤのグリップがあればスタートダッシュが速いわけだ。

 しかしいくつかの障害を抜けたあたりで俺のエンプレスが差し返す。


「やっぱりお兄ちゃん速いなー」

「速度が乗り出せばマッハは速いぞ」


 みかどさんに頂いた光るマッハはルキに教えてもらった慣らし方で、40000回転以上回りながらも低燃費というとんでもないモーターになっている。

 その分トルクは控えめだが、加速しきればスプリントより速度が出る。

 4週目、先にカルーセルに入ったのはハク。

 5レーンの公式はストレートが多いが、FM-ARはロングホイールベース──つまりタイヤとタイヤの感覚が広い。

 ミニ四駆は蛇行走行するものだが、壁に当たると当然速度が落ちる。

 その点、ロングホイールベースは直線走行時の蛇行が抑えられ速く走ることができるので、5レーンに向いたシャーシであると言える。

 しかし、それでも俺のエンプレスとはじわりじわりと差が開いていく。


「よーっし、いけーソニックー!」


 ソニックもカルーセルを難無く走破する。

 スカイタイヤのグリップが良い仕事をしているようだ。


「おー!ピボットで走れてるな!」

「うん、ルキちゃんちでいっぱい練習したからねー、いいセッティングできたよー」


 最終5週目、俺のエンプレスがカルーセルに飛び込む。

 アイガーで十分な減速からの進入で安定走破。

 下ってからの走行も問題なくそのまま1位でゴール。

 その後にソニックがゴールとなった。


 スイカタイヤは安定性はあるが、グリップが効きすぎるので速度が出ない。

 ロングホイールベースがコーナーで速度を落とすことも相まって、ソニックは1次予選二位という結果に落ち着いた。


「やっぱり届かなかったかー」

「でも俺がカルーセルでヘマしてたらハクが勝ち抜けてたわけだし。ほんと速くなったな」

「へへへーありがとー。2次予選もがんばってねー!」

「おぅ!ハクの分も頑張るからな!」


 ハクは参加賞をもらう待機列に、勝ち抜けた俺はそのまま2次予選のためマシンと共にコース脇で待機となる。

 1次勝ち抜けが5人出たとき、その場で2次予選が始まる。

 つまり電池交換ができないのだ。

 この2次予選が大会でも鬼門になっており、速いだけのマシンでは勝てない難しさとなっている。

 ここを越えるには、電池消費を考えたマシンでなければならないのだ。

 俺のエンプレスに搭載されたマッハダッシュは消費電力が無負荷時0.7Aという破格の性能となっている。

 低速時のトルクに若干の不安はあるが、このコースだとそれがいいように作用している。

 登坂力が低いせいかアイガー登りでスピードが出にくく、少しのブレーキだけで走れるのだ。


 しばらくして5人の勝者がそろい2次予選がスタート。

 やはり1次予選に比べてスピードが格段に落ちてしまったマシンが大半だ。

 逆にモーターが小慣れてしまってコースアウトしてしまったマシンもあった。

 マシンは急に覚醒してしまうことがあるからな……それがレースの恐ろしいところでもある。

 そんな中、他のマシンの追随を許さず、俺のエンプレスがトップのままフィニッシュ、無事予選を勝ち抜くことができた。


「よっしゃ!薄紙ゲット!」

「やったじゃんジン!」


 レースを見ていたみんなが駆け寄ってきてくれた。


「ありがとうレイ、みんなも俺に続いてくれ」

「もち!わたしも勝ちに行く。そんでジンと走りたい!」

「あ、わ、私も勝って師匠と対決したいです」

「準決勝からはくじ引きだったと思うから、当たる可能性は全然あるな、相手に取って不足はない、勝ち上がってみんなで勝負だ!」


 予選走行が続き、無事全員予選を突破できた。

 ジャパンカップ初出場のレイとトモは随分と肩に力が入っていたようだが、大会常連のルキが二人の緊張をほぐしてくれたようだ。

 おかげでスタートでミスをすることもなく、マシンもその実力を発揮できたようだった。

 ハイタッチで喜びを分かち合う三人。

 俺はわずかに息を呑んだ。


「ルキも勝ち上がって、これでハク以外全員予選突破だな。これはすごいことだと思う」

「だな、オレだって毎年予選は抜けられるかヒヤヒヤしてるが、初出場で突破はすげぇよ」

「ルキの家での合宿のおかげだもん、もー!ほんとありがとね!」

「あ、やっぱり合宿の成果すごいです、コピーとはいえほぼ同じコースで練習できたのは大きいです」

「みんなー、からあげ串買ってきたよー」


 ここからが本番だ。

 速い人だけしか残っていないこの本戦、ここを勝ち抜けなければならない。

 今までも薄紙までは来れたことがあるが、準決勝突破は1度もない。

 予選は安定走行で行くために電池の電圧をおとしていたが、ここからは上げていく必要がある。

 どこまで上げるかで難易度も変わってくるため、やはり塩梅が難しい。

 ちなみにジャパンカップ会場での電池の充電は禁止である。

 充電した電池をマシンに入れてカラ回しさせるか、電源を必要としない放電機を使用し電圧の調整を行う必要がある。


「行くぞ準決勝!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・パワーダッシュ

片軸のみにあるモーターの1つ。

ハイパーダッシュ以上のトルクと回転数を誇るミニ四駆界最強と謳われるモーター。

片軸を使う意味の1つ。

ただ当たりハズレが大きく、いいパワダを当てられるかが問題に。

両軸にパワダがあったら、と何度思ったことか…


・マッハ

マッハダッシュモーターPROのこと。

以前は片軸版も存在したが、現在は生産されておらず、レギュレーション的にも使用禁止のモーター。

マッハPROは両軸最高回転数を誇る高速モーターになっている。

ただし消費電力が激しく、トルクも控えめなので扱いが難しい。


・スプリント

スプリントダッシュモーターは片軸のマッハのポジションにあるモーターです。

マッハ以上の回転数と消費電力、そして低トルク。

スプリントを活かせるコースはほぼない?と言われるくらいの高速過ぎるモーターです。


・ブレーキ

ミニ四駆は人の操作介入ができないので、任意のブレーキができない、と思われているが、ブレーキあります。

通常の車ならコーナー侵入前に速度を落とすためにブレーキだと思いますが、ミニ四駆のブレーキはスロープ、ジャンプ台で使用されます。

フロントやリアの底面に通常走行時はコースに当たらない位置にウレタン製のシートを貼ります。

スロープでマシンが坂道に差し掛かると、坂の角度で平面時に当たらなかったブレーキが床面に当たり、減速する、と言った仕組みです。

種類も複数あり、摩擦率や厚さが違うのでこのあたりの調整も難しく奥深いです。


・からあげ串

ファミマの鶏つくね串のことかと。

安くてボリュームもあって美味い

ちなみに品川会場近くにはファミマとローソンがあり、喫茶店も数軒あるので休憩などもできる。

バーガーキングが特に混み合うので、バーキンしたい人は早めの会場入りがお勧めです。


・放電機

充電池をフル充電だと早過ぎるが、少し減った辺りだと完走できる、なんてことがよくあります。

この状態、少し減ったあたりで走りたい!

となったとき。

例えば1.4Vに調整したい!場合。

充電して1.4Vに調整はとても難しいので、満充電から放電して任意の電圧で止める、といったことができる放電機を使用します。

田宮純正は電圧確認ができず不便でw

有志の方が作っているものをメルカリなどで購入して使ってる場合が多いです。

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