第5章:俺と女帝とジャパンカップ

第50話:Ride Your Dream

「これがジャパンカップ!」


 新宿駅からりんかい線に乗り変え、品川シーサイド駅で降りる。

 オーバルガーデンの2階側、大きなイオンの前に大型の5レーンコースが2つ並べられている。

 この広場は屋外だが屋根付きなので、小雨くらいなら大会開催可能なのがうれしい。

 右奥のスペースでは物販コーナーもあり、会場限定グッズなどが並ぶ。


「人がいっぱいだねーすごいなー」


 東京大会の参加者は毎年だいたい2000人前後と聞く。

 国内最大の人が集まるミニ四駆イベントだ。


「あ、ちびっ子たちもたくさんいますね」


 ジュニア部門があり、小学生以下はこちらでエントリーすることになる。

 ジュニアとはいえ侮るなかれ、速い子のマシンは大人でさえも唸らせる改造が施されている。


「久しぶりだな、この感じ」

「だな、ジャパンカップって感じがするぜ、燃えるわ」

「じゃさ、みんなのマシンお披露目しようよ!一体どんなマシンになってるのか、気になる!」


 合宿の後は各自で仕上げをしたから、どんなマシンになっているのかはなんとなく内緒のままになっていた。

 レイの合図でマシンを取り出して見せ合う。


「わたしのマシンはエアロアバンテ!名前はダンシング⭐︎クイーン!略してDQね」

「ドラクエっぽい名前だな」

「アバンテだからABBAの曲からにしたの」

「ふふ。レイちゃん、オヤジギャグだね」

「え〜!分かりやすくて良いじゃん!」


 なるほど、ノリの良いレイらしい。

 MSフレキに市販スラダンのATバンパー、リアはアンカー、オーソドックスな5レーン仕様のマシンに見える。

 だがC-ATを作り上げたレイのことだ、何か特殊なギミックもあるかもしれない。


「あたしは新しいソニックだよー。ただねー、いろいろ変えたから大変だったんだよー」


 ハクはソニックだが形状がおかしい……これ、FM-A?…… ちがう、FM-ARか!?

 ボディもコスモソニックになっているし。

 ARシャーシはフロントモーター化することで走りが一変する。

 FMマシンはギアの噛み方向が走行に適した配置になり速くなる場合が多い。

 このFM-ARも一時代を築いたマシンだ。

 マイスターちゃんのアドバイスだろうか、面白いマシンを作ったものだ。


「あ、私はこれです、レッドウイングです」


 トモはMSフレキのウイニングバードだ。

 真っ黒いウイニングバードに黒シャーシ、カーボンホイールにスーパーハードタイヤ。

 ほんとに全部真っ黒なマシンだ。

 ワンポイントで羽の部分が赤く塗られているからレッドウイングか。

 前後自作スラダンでフロントATバンパーは連動式じゃないタイプか。

 これは速そうだ。


「オレはいつものサンドラだが1から作り直したぜ」


 ルキのマシンについては言うことはないだろう。

 町田最速のGシステムマシン。

 5レーンでも3レーンでもスキがなく、台風の目になるマシンだ。

 このルキにも勝てないと優勝はない。


「で、ジンはどんなマシンなの?」

「オレは……これだ!」

「なにこのボディ!?見たことないんだけど?」

「わー、かっこいい、戦闘機みたいだー」

「あ、これ、ウイニングエアロアですか?」

「だな、ミライトも付いておしゃれじゃねぇか」


 ウイニングバードのボディのキャノピーを切り取り、エアロアバンテのキャノピーを上から組み込む2台合体キメラボディ、それがウイニングエアロアだ。


「レイのエアロアバンテ、トモのウイニングバード、ハクの黄色いマフラーをミライトで再現し、ルキと育成したモーター積んだマシン、名前はエンプレスFフォーミュラだ!」

「「「「エンプレス……」」」」

「みんなの協力がなかったら俺はここにいなかった。お前たちに敬意を表して、こんなマシンにしてみたんだが……」

「すごーい、みんなの力が集まったマシンなんだねー」

「あ、なるほど、だからエンプレス(女帝)!」

「え〜!ジンってばエモいことするじゃん!」

「まぁそれでも同じレースになったら手加減はしねぇぜ!」

「おぅ、お互い本気で走ろうな!」


 短いようで長い戦いの始まりだ。

 まずは予選を抜けねばならない。

 参加レーサーはランダムにA〜Hまでのグループに分けられる。

 それぞれのグループ内で第1、第2予選が行われ、それを勝ち進むと薄紙と言われる決勝リーグチケットが貰える。

 勝ち抜けた人数にもよるが、そこから準決勝、決勝と続く。

 目指すは決勝戦だが、1つのグループに100人以上のレーサーがいる。

 予選を抜けるだけでも大変だ。


 Aグループになった俺とハクは1次予選のコースに向かった。

 1次は受付順にレースをすることになる。

 俺と、その後ろにぴったりくっつくハクにみんながエールを贈る。

 

「あ、が、がんばってね2人とも!」

「あぃー、がんばってお兄ちゃんぶっ倒してくるよー」

「ん、狭間と戦うつもりか?」

「そのほうが楽しいでしょ、あたしお兄ちゃんとレースします!」


 受付を終えて車検を済ませると、レーサーは二つあるコースのいずれかに振り分けられる。

 そしてそのままレースを進めていくわけだが……並ぶタイミングによっては戦いたい相手と同じ土俵に上がることができる。

 うーん、であれば、前にいる人がどう振り分けられているかを見て……こんな感じで並んでいたらイケるか?!

 運の要素も大きかったが、俺たちの画策は上手くいき、1コース側で1レーン俺、2レーンにハクという順番になった。

 他の参加者も合流し5台揃った時点でレーススタート。

 各自マシンを持ち電源を入れ、スタート台の上で合図を待つ。


「いっくよーソニック!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・FM-AR

ARシャーシを前後反転させて使ったシャーシのこと。

通常のリアモーターマシンは前方向への回転力をプロペラシャフトに伝え前輪を駆動させるが、これはクラウンギアを押すように回すので駆動力が分散している。

フロントモーターマシンはプロペラシャフトを引くように回転させているので、従来のフロント側のクラウンに負荷がかからず、回転効率がよくなる。

そう、ミニ四駆はフロントモーターのほうが速くしやすいのだ。

また、ARシャーシはホイールベースが長いため、直進安定性が高くストレートが長い5レーンで威力を発揮する。

まさに公式でのフレキキラーだったのだが…


・FM-A

なんと公式からFM-ARの上位互換シャーシが発売されてしまったのだ。

これによってFM-ARのメリットが裏側から電池入れられる、だけになってしまったw

FM-Aは最新シャーシなだけあって、無加工でも駆動周りがよく、誰でも簡単に扱える素晴らしいシャーシだ。


・コスモソニック

FM-A用に再設計された新しいソニック。

レッツ&ゴー続編にて星場烈が使用している。


・連動式じゃないタイプ

フロント提灯とATバンパーの動作を連動させることでレーンチェンジを安定させる技術があるが、これを行わずバンパーはバンパー、提灯は提灯で可動させるもののこと。

カッチリ作れるのでスラスト抜けなどが防止しやすい。


・ウイニングエアロア

「ウイニング」バードと「エアロア」バンテの合体ボディなのでウイニングエアロア。

しのぶさん考案のキメラボディで一世を風靡した。

いまだに人気のボディで亜種もたくさん発生している。


・ミライト

夜釣りでウキの動きを確認しやすくするために取り付ける小さなLED。

なので釣り具ですw

バッテリー内蔵でつけっぱなしでも2時間くらい持つ。

小型軽量なのでミニ四駆に取り付けやすく、田宮社外品ではあるが、ジャパンカップなどにもでられるので、レギュレーションを通してもらえるようです。

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