第46話:かしましハウス

「すごいよ、ちょっと来て!」


 レイに急かされて1階に降り、玄関に出てみると蔵の方から人の声がする。


「あらおっそーいじゃないのジーンちーん」


 この声は。

 朝からテンションの高い土井先生である。


「おはようございます。一体何があったんですか」

「いやさ合宿のコトを理事に話してみたらちょうどコースの試作が出来たとかで試してみてくれってお願いされちゃって。急遽馳せ参じたってわけよ」


 蔵の中を見てみると真新しい5レーンのコースが組み上がっている。

 しかもこのコース、2023年の夏のジャパンカップのレプリカでカルーセルチェンジャーが付いている。


「ってなんで理事がこんなもの持ってるんですか?」

「ジンちんもGsガレージの常連さんでしょ?あそこのコースも理事長が自費で作ったものなのよ。なーんかそろそろガレージのコースを入れ替えたいとか言っててね〜」

「……で、これってことですか。ウチの理事長、ガレージの経営とも噛んでるんですか?」

「ガレージのオーナーと理事長は元チームメイトだし。あったしもそうだけど」


 なんてこった、こんなにも身近にミニ四駆に通じた大人達がいたなんて。

 それにしても家にカルーセルチェンジャーがあるご家庭なんて世界でも現在ここだけだろう。

 難所に挑戦し放題じゃないか。


「もちろん合宿終わったらガレージに持っていっちゃうわよ。お試しでどうぞってわけよ。これで一気に合宿っぽくなったでしょ?」

「ありがとうございます、これは凄いです。ちなみにこのコースって買ったらいくらくらいかかるんですか?」

「製作費?詳しくは知らないけどベンツ買えるくらいとか言ってたわ」


 これ自費で買っちゃうとかどんな人なんだ。


「みかどさんといい理事長といい、凄い人ばかりですね……」

「あらみかどちん知り合いなの?」

「こないだガレージでたまたまお会いできて、ご挨拶させてもらいました」

「あの子忙しく世界中飛び回ってるからなかなか会えないのよね。ひのちんも一緒でほんと楽しそうでうらやまだわ」


 ひのちんはわからないが旦那さんか何かだろうか。


「これがカルメンマキかーすごいなー」

「あ、ハクちゃん違うよ、それを言うならカルーセルマキだよ」


 ハクとトモがおかしなボケ合戦をしていると、聞き覚えのある関西弁が聞こえた。


「ちゃうわ、なんでそないマキマキすんねん、鉄火巻きか」


 そこには全国大会で戦った百野瀬学園の土方麗子がいた。

 今日は制服ではなくオレンジのワンピースに白のダウンジャケットを羽織っている。

 レイは目を見開くと、「きゃあ」と叫んでレーコに駆け寄った。


「レーコ、あんたほんとに来たの!?」

「あんたが今ミニ四駆合宿中なのーいいでしょーとか連絡かますから来てやったんや。べ、別に羨ましかったわけやないからな!」

「そ、それだけで来ちゃったのか?」

「おぅ。つぅーか来たかいあったわ、これカルーセル走り放題やろ?ヤバいわテンション上がりすぎてマキマキになりそうや」

「まったく、関西娘の品のなさったら……」


 しっとりとしたお嬢様言葉に振り向くと、マイスターちゃんこと鵙屋ヒロコ様のご登場である。

 今日もボリューミーな縦巻きロールと金の玉座が輝いておわします。

 フリルたっぷりな紺のゴシックドレスがなんともお似合いで。


「あ、ヒロコちゃんだー」

「んもう、ハクさんに合宿してるから来ないかと誘われたと思ったらこれですもの」

「はん、マキマキ言うとったら縦ロールが来おったわ。カルーセルは怖いのぅ〜」

「あら、縦ロールの素晴らしさが分からないなんて審美眼の乏しいこと。腹立ちを通り越して哀れだわ」

「ああん……?麗しのこのレーコ様を哀れやと……?金ピカ玉座の動くベルサイユが審美眼を語るとはなぁ……」

「あらまあ……。わたくしたち、どこまでも分かり合えないようね……?」


 レーコとヒロコがばちばちと火花を散らす。

 この二人、大会とは関係なくても仲が悪いのか?!

 しかしレーコもヒロコも揃って大荷物を抱えている。

 どうやら単に遊びにきたわけではなく、しっかり合宿に参加しに来たようだ。


「おまえら勝手に……ここ人様の家だぞ、少しは遠慮とかなんとか」

「あらあらいいじゃないの、たくさんいたほうが楽しいじゃない、おばちゃんもお料理作りがいがあるわ♪」

「ははは……」


 これで女子6人、かしましさ2倍だ。

 まぁこの際、何人増えても変わらん。


「じゃコースの準備をしていただいてる間にマシンの準備とかしておこう」

「どんな風に走るのか、めっちゃ楽しみ!」

「ウチは夏に走っとるからな……あんたらも地獄を味わうとえぇで」

「そんなに難しいの?」

「毎年ジャパンカップは難しいんだが、こいつは過去1レベルのヤバさや」


 俺も夏に2回走らせているが、2回ともカルーセルで撃沈している。

 速度が出れば出るほど難しい、ほんとうに難しいセクションだ。


「よし、準備が出来たら練習だ!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・カルーセルチェンジャー

劇中でこれから解説が入るのでここでは最小限に。

過去振り返っても鬼畜度でいえば最強クラスのセクションで皆を苦しめた。


・カルメンマキ

時には母のない子のように、が有名だけどその後ロックに転向。

カルメンマキ&OZの「私は風」は日本プログレの最高峰として今も君臨している。

そして今もなお現役!すごいシンガーです。


・カルーセルマキ

オネェ系タレントのパイオニア。

元気TVとかの企画めっちゃ面白かったw

とはいえすごい方です。

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