第43話:工作チャレンジ

「じゃ、一丁やりますか!」


 レイの掛け声に合わせてみなで頷き、早速ルキの部屋に戻る。


「ベースマシンやパーツ類は好きに使っていいぞ」

「あ、後で土井先生に請求すれば部費から出してくれるそうです。郊外活動費で行けるみたい」

「マジかそいつはすげぇ」


 俺とレイ、ルキはフレキの工作から始める。


「この治具、便利だから使うといいぞ」

「なんなのこの3Dプリンタ?の部品、これはどう使うの?」

「ここにシャーシを入れて、薄刃ノコ当てると真っ直ぐ切れるんだ」

「なにこれすごい!こんな便利なのあるのね。じゃあ、こっちのネジみたいな道具は何?」

「このアタッチメントは樽バネ用にドリルで穴を拡張するときに使うんだ」

「お、ホリコムンダーだな、俺も持ってるぞ」

「こういうのあると時短できてほんと助かるよな」

「ふぅん、タミヤってこんな道具も出してるんだね」

「や、タミヤ製ではないな。まあタミヤじゃなくても世の中には使える道具がたくさん隠れてるってこった」

「へー、おもろ!」


 ミニ四駆の改造にリューターなどを使用するが、精度を出すというのは本当に難しい。

 最終調整は人間の手と目が必要だと思うが、そこまでの加工は安定して同じものが作れるといい。

 正確に、そして早く制作できるこの手の手作り治具は、ミニ四駆制作において革命的だったと思う。

 難しかったフレキの加工も誰にでもできると言えるところまで来ているのだ。


「すごい、あっというまに切断できちゃった。あとはヤスリで微調整しながらできそうね」

「だろ、ほんと制作効率ダンチだからな」


 ルキがついていることもあって、フレキは着々と制作さていく。

 さて、トモとハクはどうなるかな。


「なあ、トモも今回はMSフレキ使うんだよな」

「あ、はい。フレキ自体は作ってあるのですが、スラダンをどうしようかと」

「何か悩みごとでも?」

「あ、スラダンを市販のモノを使うか、自作で左右独立にするか、迷ってます」


 実は俺も同じところで迷っていた。

 市販のスラダンは精度が高く、厚くて丈夫で素晴らしい出来だが、バネは1つだけだ。

 自作の左右独立式にすると難度は高いがバネを2本仕込めるので、柔らかさや戻り調整を左右個別でセッティングできる。

 カルーセル対策ならもちろん後者だが、純正の精度も捨てがたい。


「俺も同じとこで迷っててな。とりあえず自作で作ってみて、ダメそうなら市販のものにしようと思っていたとこだよ」

「あ、じゃ私のほうで設計してみます。それを一緒に作って搭載しましょう」

「たしかに一気に作っちゃえばいいよな、わかった。設計と作れる準備までお願いできるか?」

「あ、はい、了解です師匠!」


 これでトモのスラダンもどうにかなりそうだな。

 残りはハクだが、あぐらかいて天井を見つめて、何かを考えている。


「ハクはどんな風にしたいんだ?」

「うーん、あたしはねー、やっぱりこのソニックで出てあげたいのー」

「ARだと着地は怖いがスイカタイヤならなんとかなるかもしれんし、いいと思うよ」

「そうなるとね、スラダンが問題なのー」


 ARにソニックのボディを乗せるとスラダンのスペース確保が難しい。

 たしかにそのままだと無理かもしれない。


「んーとね、あたしはピボットのまま行こうと思います!でも、どうすればカルーセル抜けられると思う?」

「そうだな、ピボットを柔らかくするためにゴムリングは2本か1本になるな。でネジの締め込みとグリスの硬さ調整で減衰させてゆっくり戻るようにする。あとはピボットが曲がり過ぎるとタイヤにバンパーが当たるからストッパーつける必要もあるな」

「ほぇぇ、けっこう大変だー」

「ついでにカーボンで作り直したらどうだ?部費で出るし高いカーボン使い放題だぞ?」

「そだねーそうしようかなー」


 これでハクのマシンもなんとかなりそうだ。

 一安心したそのとき、背後でルキが「はい、ではよろしくお願いします」と電話を切る音がした。

 普段の口調は砕けてるけど、ちゃんとすべきところではきっちり敬語を使えるのが彼女の育ちの良いところというか。


「どした?」

「いやな。今、土井先生から連絡あって、『合宿がんばってるみんなに明日プレゼント持ってくわん♪』とか言い出してな」

「プレゼントって」


 いったい何を持って来る気なのか。

 食べ物の差し入れはいらないぞ……ここはご飯が多すぎる。


「あの人のことは予測がつかないからな……まぁそれは明日考えよう」


 そんなこんなでマシン制作を進めていたが、集中しすぎただろうか、ふと窓に目をやるとすでに空が藍色に染まっていた。

 ぶっ続けで作業してたせいか、爪の間や指の関節がカーボンの粉で真っ黒だ。


「これでよし、っと」


レイもリューターでカーボン削っていたようだが、粉塵ゴーグルとマスクを外したら顔がカーボンの粉まみれである。


「レイちゃん顔まっくろくろすけだー」

「えぇやだうそ、みないでー」

「あ、レイちゃんウエットティッシュあるよ」

「もーさいあくー、ファンデはげるー」


 彼女らのやり取りを微笑ましい気持ちで見ていると、部屋にノック音が響いた。

 おばちゃんがご飯の時刻を告げに来てくれたようだが、レイたちの様子を見てそれどころではないと察したようだ。


「あらみんなすごい事になってるわね。ご飯の前にお風呂入ってらっしゃい」

「ありがとうございます、じゃレイから入ってこいよ」


 カーボンまみれじゃかわいそうだ、まずはレイから入るべきだろう。


「あでもわたし後でいいよ、ジン先に入って」

「え、でも」

「あ、えっと、そうそう、女子はいろいろ準備ありますし」

「そうなのーお兄ちゃん先にいってらっしゃーい」


 風呂に準備?

 ……そういうもんなのか?

 とりあえず支度を手早く済ませて一番風呂をいただく。


 かぽーん


「ふぅ……」


ーーーーーーーーーー


解説:


・制作補助治具

3Dプリンターなどの普及でいろんな工作補助を行える治具を個人制作できるようになりました。

これらをメルカリなどで販売されています。

今回のフレキ制作治具やローラーのベアリング交換治具など。

中には電気工作された放電機や金属加工品まで。

大変お世話になっております。


・ホリコムンダー

フロントもリアもですが、タイヤ径を小さくするとブレーキの位置が下がってしまいます。

ブレーキ取り付け位置を上げたいのですが、この1mmとか1.5mm分、シャーシの底面を掘り込む必要があります。

左右均等に掘り込むのはとても難しく、完璧にはなかなか出来ません。

ここで登場したのがホリコムンダー!

これをドリルチャックに取り付けシャーシを掘り込むと…きっちり1mm削ってくれるのです!

他にも劇中で使っているようなフレキのバネ穴拡張用もあり。

現代ミニ四駆作成には欠かせないクラスの治具となっています。


・カーボン

ミニ四駆のバンパーなどの補強材にはFRP以外にも同じ形のカーボン素材のものがあります。

とても硬く、軽いのでミニ四駆にもってこいなパーツですが、硬いため加工が難しいことと、金額がFRP比で5倍以上するので、最初はなかなか抵抗あります。

高いものは1枚1200円以上、ミニ四駆本体より高価です。


・防塵ゴーグルとマスク

FRPやカーボンをリューターなどで切断、加工すると削り粉が舞い散ります。

この粉が目に入ったり気管に入ると危険なので、加工時はかならずゴーグルとマスクを着用してください。

特にカーボンは炭素なので人体との親和性が高く、体内に入ったら出てきません!

ナメてかかると痛い目見ますので…ご安全に。

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