第42話:美味しんぼ
「みんなー、ご飯できたわよー」
とりあえず腹ごしらえだ。
全員で一階に向かい、案内された部屋の襖を開ける。
そこは和室……いや、大勢で宴会ができてしまいそうな大広間だ。
「あぁ懐かしいなこの部屋、よく走り回ったりして遊んでたわ」
「なにここ、ルキの部屋より広い!」
「すごーい、サッカーできそうー」
部屋の中央に巨大なローテーブルが置かれ、その上にはご馳走の数々が並ぶ。
うちの食いしん坊担当のハクが、ローストチキンに早速よだれを垂らしている。
「おばちゃん、これはやりすぎでしょ」
「何言ってんの、若い子がたくさん集まるってんだから気合い入れて仕込んじゃったのよ。全部食べないと帰れまてんよ?」
昼から鳥の丸焼きは普通食べないと思うが。
「おばちゃん、これ全部食べていいのー?」
「いいわよー、お夕飯もいっぱい作るから遠慮なく食べてってね♪」
「ありがとー!あたしここのうちの子供になりたいでーす」
「あらあらふふふ」
とりあえず皆でがっつく事にした。
むっしゃむっしゃしていると、トモがいつものように何やら書類を取り出し、プロジェクターの白幕に貼り出した。
「あ、ではこれからジャパンカップ対策会議を行います」
コースの詳細な写真と各セクションの3面図なんて資料まである。
こんなによく用意できたな……公式にもないんじゃないか。
「まず今年のコースの最難関ポイントはこれです」
指差し用LEDポインターが指された先は、2023年の夏に猛威を奮った、胃袋型のセクション「カルーセルチェンジャー」だった。
「でたな、カルーセル」
「なんなのこの形、そんなに難しいのルキ?」
「おぅ、カルーセルっていうレーンチェンジだが、まず入り口の右側のここ、出っ張りがあってここでマシンが反対方向に跳ねる。壁伝いで行ければいいが、壁で跳ねるとこの胃袋の空間でマシンがあっちゃこっちゃ跳ねまくる。うまく行けばそれでも抜けるが……基本復帰は無理だと思っていい」
ルキの説明通りだが、基本的に公式コースは無改造マシンでも走り切ることが出来る、ということになっている。
しかしロッキングストレートとカルーセル、てめぇはダメだ。
普通のマシンでの攻略はほぼほぼ不可能なのである。
「こんなのどうやればクリアできるのー?」
「あ、はい。まずスラダン、スライドダンパー必須です。ピボットバンパーでも上手く作れば行けるそうですが、統計を取ってみたところ、やはりスラダンマシンの成績が良かったです。できるだけスラダンで行くべきだと思います」
カルーセルを突破するには、いかに衝撃をいなすかを考える必要がある。
例えばピボットバンパーはゴムリングで可動部分を縛っているものだから、衝撃吸収機構の調整が難しい。
最悪、早い速度でカルーセルに入るとゴムの張力で跳ねてしまう。
しかしスラダンの場合は衝撃吸収機構を柔らかく調整しやすいので、しなやかにカルーセルを突破することができるのだ。
「となると私の艶雷のC-ATは無理だし、ハクもピボットだから難しそう。ジンもアンカーだから無理かもだよね?」
「そうなるな、この3台はフロント作り直すか、新規に5レーンマシンを作るべきかと思う」
「うーん、かんがえちゃうなー。出来る限りソニックで出てあげたいけど」
「トモはブラックウイングで出るのか?それともフレキ?」
「あ、はい、カルーセル後のアイガー降りがTZでは無謀なのでフレキを使います」
「じゃルキ以外、新マシンが良さげか」
「オレも新マシン作るぜ、こないだのクラッシュで青龍はちと寿命っぽいからな」
なんだかんだで、全員が新マシンでの挑戦となりそうだ。
「じゃ、一丁やりますか!」
ーーーーーーーーーー
解説:
・カルーセルチェンジャー
2023〜2024にかけて公式大会をざわつかせた鬼畜障害。
本文中の説明通りだが、速度が速ければ速いほど難易度が上がる。
・ロッキングストレート
いまだに話に上がることが多い、歴代ジャパンカップでの最高鬼畜と言われている障害。
ストレートの壁に左右交互に突起があり、場所によってはコース幅がミニ四駆の幅より狭い場所も存在する。
そんなとこ通れるのか?はい、通れません…
マシンの幅を小さくするか、左右独立スラダンもしくはピボットを搭載しなければ走れません。
その名の通りロッキング(急停止)して慣性で吹っ飛びます。
大人は対応できるけど、子供には無理過ぎて…ロックして吹っ飛んでバラバラに飛び散るマシンが何台も…
・スラダン
スライドダンパーの略で、バンパーの中央に溝があり、そこにバネを仕込むことでコーナーリング時にバンパーが壁面に触れるとスライドして衝撃をいなすことができます。
ピボットよりバンパーの動きが大きいため、マシン自体もスライドして大きく減速してしまうが、減速するから安定するとも言える。
上記通り基本的に遅くなるギミックで、発売当時は使えない夢パーツとされていたが、現代ミニ四駆の速度だと意味があることが判明し、一気に普及した。
・アイガー
アイガースロープ、アイガーマウンテンとも言われる障害で、高さが60cmほどあるスロープになります。
60cmは実車なら8mくらいの高さから飛び降りることに匹敵するので、かなり危険だということがわかるかと。
しっかり着地できる制振性が求められます。
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