第40話:幼馴染とはラブコメにならない

「……うん?」


 門をくぐると、そこには家の玄関まで続く飛び石。

 そして右手に見える松の古木。

 見覚えがある。

 というかここ、来たことあるぞ。


「どうした狭間?」

「いや、なんだろ、ここ俺来たことがある気がする」

「おぉ、面白いこと言うじゃん」


 何が面白いだ、俺的にはちょっと怖いぞ。

 いったいいつだ?何で覚えがあるんだ?

 オロオロしていると、先に来ていたレイがすっかり寛いだ様子で手招きをする。


「ささ、ジンも上がって上がって」


 いつもハーフアップにしている髪を下ろしているだけで、ずいぶんと雰囲気が違う。

 しかしスカートが短いのは制服と変わらない。


 みんな私服だ、って当たり前か。

 そういや制服以外の姿を見るのは初めてだ。


 ハクはひだの多いレイヤードスカートの上に厚手のピンクのパーカー、そこにいつもの黄色いスカーフを合わせている。うむ、ガーリーで可愛らしい。

 ルキは足元まであるロングのワンピース、上はいつものスカジャンを羽織っていて、いつもの格好より大人っぽく見える。

 トモは黒にシルバーアクセサリーを合わせたパンクなファッションに身を包んでいた。

 バンギャっぽいというか、厨二っぽいというか。

 いやまあ、驚いたけれど彼女らしい。


 玄関で靴を脱いでいると、奥からルキのご家族とおぼしき女性が「いらっしゃい」と出迎えてくれた。

 俺は慌てて立ち上がり、「お世話になります」と頭を下げる。

 すると彼女は懐かしそうに目を細めた。


「あーら、めぐみ君、大きくなってかっこよくなったわねー」

「え?」

「あら、覚えていない?ユキンコのおばちゃんよ?」

「……あ、あーーー!!!」


 思い出した!ここユキンコの家だ。

 ユキンコは母方のイトコで小さいころよく一緒に遊んでた男の子のことだ。

 そういや俺、親に連れられてよくこの家にも来てたんだ。


「小さいころ、瑠姫の名前呼べなくてユキになっちゃって。ユキンコユキンコって呼んでてかわいかったのよ」

「へ?じゃユキンコって……」

「オレだよ」


 ふぁーーーーー

 全然気づかなかった。

 脳内で完全にユキだと思っていたし、ユキは男子だと思ってたし。

 いつも真っ黒に日焼けしてて髪も短かったし……今のルキと共通点は目元くらいしかないじゃないか、そりゃ思い出せないわ。


「やっと思い出した、そっかユキンコだったのかよ、なんだ早く言ってくれよ」

「いやぁ全然覚えてないみたいだったから黙ってたほうが面白いと思ってよ」

「苗字は?」

「あぁ前は父ちゃんの方の苗字だったんだけど、いまは別れちゃって母ちゃんのほうの苗字になったんだよ」

「なるほど、そりゃ気づけないって」

「ははは、わりぃわりぃ」

「もう瑠姫、いっつもそんな男の子みたいな喋り方で。そんなんじゃめぐみ君のお嫁さんになんてなれないわよ。昔は一緒にお風呂まで入ってた仲なのに」

「ま、ちょっと母ちゃんやめてよ!」

「あらあら、あ、みんなお昼まだよね、これから用意するから待っててね」


 そう言うと、おばちゃんはいそいそと奥へ戻っていった。

 レイがいかにもびっくり、といった表情で俺とルキを見る。


「……へぇ、親戚だったんだ、ジンとルキ」

「みたいだな、たぶん俺が1番びっくりしているが」

「一緒にお風呂も入ってて?」

「小さい頃だからな!」


 そういえばお風呂一緒に入ってて、なんでこいつ付いてないんだろ、とか思ってたんだ。


「あの頃から男まさりだったもんな、ほんとびっくりしたよ」

「オレだってびっくりしたよ、ミニ四駆のレースに行ったらめぐタンがいるんだぞ」

「めぐタンやめろw」


 そういえばガレージでレースしたとき、借りがあるとか言ってた気もするな。

 ルキがユキだってことは分かったが……それ以上は何があったかは思い出せない。

 彼女はそんな俺にお構いなしに、レイたちを二階に誘った。


「じゃオレの部屋に行こうぜ」

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