第37話:全部君のせいだ
「あ、やっぱりここにいた」
ショップの入り口に目を向けるとレイがいた。
「もう、みんな探してたんだから。学校サボってなにやってたの?」
「うん、ちょっと1人で考えたくて」
「……泣いてた?」
「んな、泣いてなんかない!」
もう涙は引っ込んだはずだけど、目の周りをゴシゴシと擦ってみる。
皮膚がヒリヒリして、きっと肌が真っ赤になっているのだと思われた。
レイが眉を八の字に曲げて俺の顔を覗き込む。
「レースで負けたのはしょうがないことだと思うよ」
「いや、それが全然しょうがなくなかったんだ。全部俺のせいだったんだ」
「何があったの?」
説明しようと口を開きかけると、再び自動ドアの音がした。
残りの部員も全員、ガレージに来てしまったようだ。
「レイちゃんもお兄ちゃんもいたー」
「あ、こんにちわ」
「お、やっぱここかー」
とりあえず立ち上がり、みんなの前で頭を下げる。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「みんな、大会で不甲斐なくてすまない。負けたのは全部俺のせいだ」
「だからどうしてジン1人のせいになるの?」
「顔上げろよ、狭間。オレだって1勝も出来なかったんだ、大見栄切っておいてよ」
頭を下げると、再び涙が溢れ出す。
それでも構わず喋り続けた。
「そうじゃないんだ、俺のマシンには重大な欠陥があって、それに気づけていなかったんだ。こんな状態でいたのにみんなにはデカい口叩きまくって。みんな結果を出して、でも俺は大事なとこで負けて。こんなんじゃほんとダメダメで」
溢れるままに言葉を紡ぐ。
頭に血が昇っているようで、何を言っているのか途中からわからなくなってきた。
「でもさっきここのオーナーさんと話をさせてもらって気づいた。まだまだやれてないこと、出来ることはたくさんある。これからも続けていこうと思えたから……ダメダメなときもあると思うけど、これからもよろしく……おねがいs」
ぐっと頭をさらに下げようとしたところで、レイにヘッドロックをかけられる。
「いでで、レイ……」
「いろいろ考えてくれていたんだね。わたし達のために頑張ってくれた人をダメダメだなんて言わないよ。また頑張ればいいし、こちらこそよろしくお願いします」
「レイちゃんずるいーあたしもぎゅってするー」
ハクが抱きつこうと頭から突っ込んできた。
「おぅふっ!」
「あ、わ、私もよろしくお願いします!」
どーん!がらがっしゃん
トモまで突っ込んできて全員で床に倒れ込んでしまった。
「いててて……おまえらいい加減にしr」
文句を言おうとしたが、みんな目に涙を浮かべていて、俺は何も言えなくなる。
その表情は怒っているような、笑っているような。
「……ありがとな、また頑張ってみるよ」
みんなを起こしながら立ち上がると、ルキがしょうがねぇなって感じの顔で待っている。
「……頼りにしてんぜ」
「ああ。ルキも、改めてよろしくな」
俺とルキは拳を軽く突き合わせた。
彼女も選手権で勝てなかったことを悔やんでいた。
けれど、後ろ向きな気持ちとはこれで決別だ。
「狭間の決意が固まったならさ、年末のジャパンカップ、みんなで出ようぜ」
ルキからの提案。
俺もまだできることがあるって分かったとき、脳裏に浮かんだのがこの大会だった。
「もちろん、そのつもりだったが」
「じゃあよ、合宿でもしてみねぇか?」
合宿!部活動っぽくていい感じだ。
他のメンバーも合宿という言葉にわっと盛り上がった。
「いいね!やろうやろう!」
「あ、私も賛成です」
「合宿したいです!美味しいご飯出ますか?」
「んじゃ、決定だな」
「あとは場所をどうするかだな」
土井先生に相談してみようかと考えていたが、またまたルキからの提案があった。
「じゃぁよ、ウチで合宿しねぇか?」
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解説:
・ジャパンカップ
タミヤ主催のミニ四駆イベント、ミニ四駆公認競技会のうち最も開催規模の大きい全国大会。東京をはじめとして、全国10数ヶ所で開催される。
一般部門であるオープンクラスにて優勝するとチャンピオンズ認定を受けられる。
それはチャンピオンズクラスというミニ四駆最高峰のレースへの参加権にもなっており、界隈最強を表すステータスシンボルにもなる。
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