第33話:風光る

「さて、こっからが本番や、覚悟しぃ」


 麗子がレイを睨みつける。

 レイも睨み返し一触即発の雰囲気が漂う。


「トモの走り見せられたら俄然燃えてきた。5レーンでの勝負はわたしの真骨頂!ここで勝たなきゃいつ勝つの!」

「行けそうか?」

「ルキとトモの走りで大体掴めたよ。わたしのマシンならバンクのもう少し奥まで飛べるはず。そこで差を付けるためにノーブレーキで突っ込ませる感じで。あとはタイヤをどうするか、ね」


 マシンを整えスタート地点に向かうレイ。


「あんさん、負ける準備と神奈川に帰る支度は終わったんか?」

「どっちもしてないよ。勝って次に進ませてもらうんだから」

「ウチに勝とうなんて、100億万年早いわ。大阪最速のマシン、見せたるで」


 スタートラインに並ぶ2人。

 スタートレーンは自由選択だがレイが真ん中3レーンを選択すると、すぐとなりの4レーンを選択する麗子。

 わざわざ隣に着くとは挑発的だ、レイも体に力が入るのがわかる。

 シグナルオールグリーンでスタート、開幕ダッシュはレイが速い。

 スタートタイミングジャストでいきなり差を付ける。


「んなっ、あんたフライングなんちゃうか?」

「あなたに勝つためにギリギリを攻めたの。レースが止められてない以上、大丈夫」


 いくつかのバンクを抜けて行くが2台のマシンにほとんど差はない。


「へぇ、やるやんけ、しっかりバンク対策したフレキになっとる感じやな」

「あ、あったりまえじゃない!」


 スタート時点での差をキープしたままレースは進む。

 俺の隣では土井先生が静かに勝負の行方を見守っていた。

 この人、黙ってることもできるんだな。


「……それにしても、フレキなのにバンクが速いですね、2台とも。なんか対策してるんですか?」

「あったりまえじゃないのジンちん。あったしが教えてあげたフレキはバンク対策ができる仕込み入れ込みマクリマクリスティよ」

「いったいどんな仕組みが入ってるんですか?」

「フレキが動きすぎてギアの剥離が起こらないように、ギアボックス脇にスペーサーを入れて可動を抑えさせるのよ。彼女のマシン、いまはフレキ1mmくらいしか可動しないはず。これだとバンクもかなり高速で抜けられるわよん」


 トモのフレキを作る際、レイも自身のマシンを見直すために一緒に取り組んでいたが……それがここに来て効いてくるとは。


「そんなやり方でここまで劇的に変わるんですね、知らなかったです。今度教えてください」

「いいわよジンちんにならどこまでも教えてあ・げ・る♪」

「は、はは……」


 レースは最後の難関、ドラゴンバックからのバンクに差し掛かろうとしていた。


「行け、艶雷!」


 C-ATの入りの良さを期待しての大ジャンプ。

 飛行距離を伸ばしながらも強引にバンクのコーナーにねじ込む。


「よし!行ける!」

「おもろいなC-AT、しかし勝負はまだまだこれからや!」


 続いて麗子のレイスティンガーもドラゴンバックから飛び出す。


「あ、このジャンプ、ブラックウイングと同じ!?」


 フロントを上げた飛型でバンクに水平に飛び込み、そこからのエアターン。

 先ほどのトモの走りは麗子によってトレースされていた。


「これえぇな、めっちゃ速いわ」

「ちょっ、ズルくない?」

「何がズルいんや、いいもんあれば取り込んでどんどん速くしたったらえぇんや」


 レイの艶雷は強引にねじ込んでいるので、若干のロスが生まれている。

 ここの小さな差で周を重ねるごとに麗子のレイスティンガーが追い迫る。


「この勝負、もろたで!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・ジャストスタート

グリーンシグナル確認後にマシンから手を離しスタートするが、人間の反射神経には限界がある。

ジャストでスタートさせる場合はシグナルが変わる前に手を離す必要があり、それはそれで無理があるのだ。

ギリギリを攻める攻防はこんなところにもあったりする。


・マクリマクリスティ

たぶんビジュアル系バンドのラクリマクリスティーあたりからの何かw


・100億万年早い

ポポロクロイス物語のガミガミ魔王のキメ台詞。

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