第32話:暗黒神話
「いけ!ブラックウイング!」
ドラゴンバックを飛び出した黒い翼はウイリーのような前上りの飛翔スタイルでバンクに突っ込んだ。
バンクの斜面にスパン!と入りエアターンのような軌道でバンクを高速で駆け抜ける。
ブラックウイングがバンクの斜面に着地せず飛び立つような軌道で走り抜けたのを見て、俺は肌が粟立つのを感じた。
「な、なんじゃそりゃ……」
「これがトモの言っていた作戦か!?」
通常、ジャンプの飛型は前下がりのほうが安定する。
ミニ四駆は構造上、リアのほうが跳ねにくい。
なのでフロントから着地させ、それらの衝撃をリア側に流しながら提灯の開閉やマスダンで吸収させる。
しかしリア提灯やノリオのようなマシンは、リアから着地させたほうがマスダンの効きがよくなり安定する。
さっきのブラックウイングは、その動きとバンクへの侵入角度を合わせ、一気に走り抜けることでスムーズにクリアさせているのだろう。
「こりゃあかんわ、このペースで走られたらウチでも追いつけんわ。えらい隠し球持っとるな」
「驚いてるのはこちらも同じだ。このマシンのポテンシャルが高いことはわかっていたが、ここまでとは」
周回ごとに差をつけていくブラックウイング。
途中、着地で引っかかりそうな動きもあったが、ATバンパー化が功を奏し無事クリア。
大差を付けての勝利となった。
「……完全な速度負けです。めっちゃ速いですね」
「あ、ありがとうございます。このコースにセッティングがマッチしたおかげです」
マシンを受け取り小走りで戻ってくるトモは、今までに見たことがないような顔をしていた。
笑みと恥ずかしそうな表情が混ざりあった……そう、勝利の歓喜を内に押し込めたような面持ちだった。
「トモ!おめぇめっちゃ速いじゃんか、こりゃ今回のレコードタイム出てるんじゃねぇか?」
自分のことのようにルキがはしゃいでいる。
電光掲示板に学校名とタイムが上位10名分表示されているのだが、先ほどの結果が反映され大差をつけて町田宮がトップとなった。
「すごいよトモ!1位じゃん!全国1位のタイムだって!」
「1位すごいなー!トモちゃんのお兄ちゃんマシン、すごいんだねー」
「お兄さんのマシンの素性も素晴らしいが、この結果はトモの実力だよ、おめでとう!」
「あ、ありがとうございます……」
涙交じりの笑顔で受け応えるトモとブラックウイング。
これはすごいことだぞ。
そこに麗子が水を差す。
「これであんたらのチーム、参加校全部から目ぇつけられるで」
その顔からはさっきまでの笑顔は消え、勝負師の顔になっている。
「さて、こっからが本番や、覚悟しぃ」
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解説:
・エアターン
コーナーを空中に浮いたまま走り抜ける技術。
技術といったが、相当な速度と安定性の両立がないとできない。
ミニ四駆以外のレースでは不可能な高速コーナーリング方法である。
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