第31話:SHADOW SKILL black wing

「あ、はい、考えがあります」

「どんな考えなんだ?」

「あ、その、これです、この子を使います」


 出したマシンはレイホークガンマ、いやブラックウイングだった。


「おぉブラックウイングか。確かにこのコースなら走ることは可能だろう。しかし旧片軸マシンで公式5レーンの床ギャップは大丈夫か?」

「あ、はい、問題ないです、走れることはガレージのコースでも確認できています。もちろんフレキの新マシンのほうが安定はすると思うのですが、未知の相手には未知のマシンをぶつけたほうが良いと思いました」


 一理あるな。

 トモのマシンは予選でも未使用で情報漏れはないはずだ。


「えっとその、それとこの子でしかできない走り方を思いつきましたので、それを試してあげたいです」

「もしかしてハンマーGクラッシュか?」

「あ、それはまだ内緒の方向で♪」


 よほど自信があるのか、トモはびしりとポーズを決めてみせる。

 それはハクがノリノリで提案したGHKの決めポーズ。

 ウインクまでされたとあっては、俺も許可せざるを得ない。


「わかった、トモ、任せるぞ!」

「は、はい!ルキさんも見ててね、仇取ってきます!」

「おぅ、任せたぜ」


 トモがセッティングをしていると百野瀬の次鋒がスタート台近くまできていた。

 金髪のショートカットを涼しげに揺らした、背の低いボーイッシュな少女。

 マシンはビークスパイダーのようだ。

 元子のブロッケンといい、大神チームのラインナップだな、狙っているのだろうか……。


「うちの次鋒の海ちゃんやで。ちっこくてかわいかろう……ただ速度なら元子より上、うちのナンバー2や」


 さっきのブロッケンより速いというのか。

 さすが全国、強敵しかいないな。


「あ、セッティングできました、それでは行ってきます!」


 小走りでスタート台に向かっていくトモの姿に自信を感じる。

 彼女の考察力には毎度度肝を抜かされるが、今回はどんな作戦なのだろうか。


「レイホークガンマですか。プラボディとはわかっていますね」

「あ、はい。でもこの子の名前は『大地裂く昏き光・黎明の翼ブラックウイング』です」

「……不思議ちゃんって感じですかね。しかし公式で旧片軸はリスキーでは?」

「あ、はい。でも大丈夫です、負けません」

「言いますね。では勝負です!」


 スタート台に並ぶ2台。

 制服以外、全身黒尽くめのトモにはやはりブラックウイングがよく似合う。

 対するビークスパイダーもメタリックブルーとシルバー基調で彼女のクールな風貌ととてもマッチしている。

 俺はマシンの見た目はその人の個性や内面まで現れると思っている。

 ミニ四駆の世界だけじゃないと思うけど、こういうとこから見られる人となりって面白い。


「シグナルに注目!」


 MCの掛け声と共にレッドシグナルが点灯。

 一瞬の間の後、グリーンに切り替わる。

 同時にスタート台を降る2台だが、トモのブラックウイングの加速が鋭い。

 一気に前を取って最初のバンクに突入する。

 バンクでも減速する素振りすらなく、黒翼は颯爽と駆け抜けていく。

 その疾走に百野瀬のメンバーも驚きを隠せないようだ。


「へぇ、こりゃ速いわ。バンクの抜けがMAみたいやんな」

「そうか、グラスファイバーTZが5レーンで生きてくるということか……」

「グラファイTZとかまたエグいもん使とるな、ひと財産やぞ」


 『5レーンで使うならMS』と言ったが、MSシャーシの唯一の弱点がバンクで減速しやすいことだ。

 センターシャーシがバンクで可動してしまうと、カウンターギアとスパーギアが離れてしまう。

 しかもバンクの登坂途中でパワーが抜ける場合があるので減速しやすいのだ。

 今回のコースはバンクだらけ、つまりMS以外のシャーシにも勝機があると言える。

 しかもトモのグラスファイバーTZなら剛性も高く、まさにこのコースに打って付けなマシンだったのだ。


「ほんま速いが……海ちゃんのマシンも負けとらんで、バンク以外の平面で速度が乗るとパワダよりマッハのが速い。最後のバンク抜けてからのストレートで挽回すればえぇんや」


 麗子の言う通り、両者はバンクで間が開き、平面で詰める、を繰り返す展開が続く。

 だが総合的には互角に見える。

 最後のストレートで抜かれる可能性もある。

 海もそれを考えているのだろう、顔には余裕の笑みが見える。


「ふっ、ドラゴンバックから最後のバンク後が勝負です!」

「あ、その前に勝負決めます」

「えっ……」


 最終バンク前のドラゴンバックでその黒き翼が旗めく。


「いけ!ブラックウイング!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・ビークスパイダー

大神研究所の三人衆が1人、沖田カイの愛機。

カマイタチを発生させ相手マシンを切り裂くバトルマシンだが、当然そんな機能はない。

ちなみに海と書いてウミと読みます。


・旧片軸

VSシャーシより前のシャーシを旧片軸と呼んでいるかと思います。

S1、TZ系、Type系、旧FM系など。

調整が難しいものが多く、使用者は少ない。

またType系シャーシはタミヤレギュレーションでは使用不可となっています。


・カウンターギア

回転する軸や車輪の周りに配置され、他のギアと連動することで回転方向や速度を変えることができるギヤです。

両軸シャーシの場合、モーターのピニオンギアの回転を車軸のスパーギアに中継しています。


・スパーギア

平歯車のことです。

ミニ四駆の場合、車軸に通している平ギアのことを言います。

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