第30話:クラッシャージョウ
「なんだこのマシン!?」
ブロッケンが下り坂を一気に加速してサンダードラゴンを引き離す。
「びっくりやろ?めっちゃ当たりのパワダ引きよって、トルクのオバケみたいなマシンなんや。この加速とパワー、重量であっても5レーンコースの強度なら抑え込める、公式特化型マシンやで」
そんなバカな……。
いくら滑りにくい5レーンとはいえ、グリップの低いローフリクションタイヤでこの加速はできない……いや、グリップを出すために重量をつけたのか。
レースはストレート2枚分ほど差を付けられた状態で展開されていく。
「まぁ慌てるなって、こっから巻き返すぜ」
ルキの言う通り、3週目に入ったあたりから2台の距離がつまり始めた。
「へぇ、やるやんけ。省電力型のモーターつんどるんか」
「当然だろ、5レーンは走行距離が長いんだ、高出力モーター使うなら電力抑えた上で回るモーターを選別しないと勝てないだろ」
「その通りや、さすが神奈川最速のブルーサンダー、わかっとるやん」
どうやら彼女はルキのことを知っているらしい。
全国を勝ち抜くためにしっかり関東の情報も集めているようだ。
「だがな、元子のブロッケンGはこんなもんやないで」
「ふーん?もう電池垂れ出してるぜ、これなら最終ラップでまくってオレの勝ちだ」
「……そうは問屋が降ろさへんのや」
青龍は、最終5週目に入った辺りですでに並走に近い距離までつめていた。
このまま行けば最後のドラゴンバックあたりで追い越せるはずだ。
「よし、行けるぞルキ!」
俺たちが勝利を確信した、そのときだった。
「……ここや、やったれブロッケン!!」
「いっくぜーーーハンマーG、クラーーーーッシュ!!」
2台同時に最後のドラゴンバックを飛び出し、バンクの斜面に着地した瞬間……ルキの青龍のフロントが浮き上がる。
そしてそのまま、バンクをカタパルトにして青龍はコース外に飛び出してしまった。
「なっ……!?」
空高く舞い上がる蒼き龍。
それは虚空でゆっくりと放物線を描き、地面に衝突した。
マシンにハクが駆け寄る。
ブロッケンギガントはそのままバックストレートを駆け抜け悠々のゴールイン。
「よっしゃぁ!決まったな元子!」
「おぅ、レーコの計算通りだったぜ!」
「……これを計算してたってのか……」
俺には何が起こったのか分からなかった。
だって普通に走らせていれば、ルキの青龍はバンクで飛ぶはずなんてなかったのだ。
元子が何かしたっていうのか?
まさか、一度コースに放たれたマシンは人の手で制御することなどできないのだ。
麗子はふふんと鼻を鳴らした。
「あぁそうや、あんたのサンドラが走っとる動画はいろんなとこで見さしてもろてたんでな、速度感わかっとったんや。バンクに飛び込むタイミングに合わせたセッティングで飛び込ませ、コースの共振で吹っ飛ばす!先鋒戦は勝ちが絶対欲しいやろから、エースのあんたが出るとこまで読みきっとったんや」
……無茶苦茶だ。
ブロッケンの速度を青龍がバンクに飛び込むタイミングに合わせた?
しかもコースへの着地の共振でマシンを吹っ飛ばした?
不可能だ。
そう言い切ってしまいたかったが、それを彼女たちはやってのけたのだ。
あまりのことに、あのルキがマシンの回収も出来ず呆然としている。
「ルキちゃん……サンドラちゃん、壊れちゃったかも」
ハクが回収してきたマシンはフロント側のシャーシが破損した状態だった。
「あ、あぁ、ありがとなハク……すまねぇなみんな、負けちまったわ」
「そんな、すまないとかないよ、いい走りだったし」
「いや、先のレース考えて余裕を持たせて舐めてかかっちまってたわ……もっとガチ目なセッティングで挑んでいれば結果は違っていたかもしれん……クッソ、やられたわ」
「マシン大丈夫そう?」
「ん?あぁ、フロントフレキが逝っちまったな。直せはするが、微調整が出来ねぇから今まで通りの走りができるかわからんな……」
負けたのもピンチだが、次戦以降でルキのマシンが使いにくくなってしまったのもヤバい。
これだけテクニカルな戦い方をする相手に、どんなマシンを出せば良いっていうんだ。
俺が逡巡していると、トモがおどおどと前に進み出た。
「あ、あの、師匠!私が次戦でます!!」
俺は目を剥いた。
まさかトモが自分から動くとは。
しかしGHKきっての頭脳派が、なんの考えもなしに手を挙げるとは思えない。
「何か勝算があるってことか?」
「あ、はい、考えがあります」
ーーーーーーーーーー
解説:
・当たりのパワダ
パワダはパワーダッシュモーターのことで、ハイパーダッシュ以上のトルクと回転数を誇る、片軸最強のモーターです。
ただ、当たりハズレが激しく、なかなかいいモーターと巡り合わないことでも有名です。
・ハンマーGクラッシュ
ブロッケンギガントの必殺技。
標的に接近し、マシン前方が持ち上ったウィリー走行になった状態から一気にマシンの重量で踏み潰す。
実際のレースではもちろん不可能でw
でも着地衝撃の共振は3レーンの場合、けっこう頻繁する現象です。
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