第29話:はだしのゲン

「ってことで先鋒はオレが行く。蹴散らしてきてやるぜ」


 ルキがやる気だ。(2回目)

 気合いが入っているのは頼もしいが、相手もチャンピオンズ率いる強豪だ。

 この1試合目が重要になってくる。


「ルキ、頼んだぞ!」

「任せな!」


 対戦側はすでに準備万端で、百野瀬の子たちはもうコースの確認をしている。


「今回のコースは……」


 コースはバンクとコーナーが多いが、完走するだけなら比較的優しめなレイアウトだ。

 ジャンプスポットはただ1箇所、ドラゴンバックがあるだけで、そこからバンクに飛び込み、抜けると最終ストレートになる。


「バンクスルーだけできていれば問題はなさそうに見えるな」

「少し大きめのタイヤに交換しておくか。24mmでマッハ、ノーブレーキでいけそうだ」

「ノンブレで入るのか?」

「G-Systemだからな、余裕だよ」


 さすがルキ、頼もしい限りだ。

 百野瀬の連中も確認が終わったようだ、先鋒の選手がでてk……


「な……デカい……」


 先鋒の生徒はまるで壁を思わせるような佇まいだった。

 おかっぱ頭でガタイが凄まじくデカい。

 180cm以上はあるだろう、土井先生より上にも横にもデカい。

 立っているだけでも異様な威圧感がある。


「ボクの相手はどいつだ……?」

「オレだよ、よろしくな」

「……ボクは近藤元子」

「オレは鬼龍院瑠姫だ」

「ふん、ボコボコにしてやるから覚悟しろよ」

「あんだと、そっちこそボコられて泣いて帰ることになるぜ」


 ルキはそんな相手にも臆した様子はなかった。

 しかし、なぜだか彼女の相手は毎回DQNなのでハラハラする。

 二人はマシンを手に斜め下45度からのメンチを切りあっていた。

 奇しくも、二人の口にはチュッパチャップス。

 ルキはマシンを走らせるとき、決まってコーラ味を咥えているのだが……もしかしたら二人は気が合うのかもしれん。

 相手選手のマシンはブロッケンギガント。

 見た目とマシンのマッチング完璧だな、わかってらっしゃる。


「図体がデカいだけやないで、うちの先鋒」


 百野瀬の部長が隣にやってきた。


「うちの特攻隊長やからな、舐めてもらっては困るで」

「大会でプラボディは珍しいですね」

「やろ?ちなみにうちのガッコ、全員プラボディのプラボディ至上主義集団やで」

「え?じゃ土方さんもプラボディ?」

「苗字呼びやめぇや、レーコでえぇよ。せや、これがウチのマシンや」


 そう言ってケースから取り出されたマシンはレイスティンガーだ。

 肉抜き+メッシュで物凄く軽量化されていて、カラーリングは赤を主体にしたデザインになっている。

 ということはプラボディでジャパンカップを勝っているのか。


「やっぱ好きなボディで走りたいやん、ウチこいつやないと走った気ぃなれへん」


 しかし元子のブロッケンは軽量化の跡が見えない、ノーマルのボディに見える。


「元子のマシンよぉ見てみ、アルミホイールにノーマルプラボディ、しかも重量いっぱいまでマスダン搭載、超重量化したスーパーヘビー級マシンなんやで」

「な……」


 マシンの軽さは速さに直結する……と言っても過言じゃない。

 最高速も再加速もブレーキの効きも、全て軽いマシンのほうが勝る。

 それなのにレギュレーションいっぱいまで重くした超重量マシン、これで勝てるわけがない。


「不思議やろ?でも断言するで、この勝負、元子の勝ちや」

「そんなことあるわけない、こちらの先鋒はうちのエースだぞ、そんなマシンに負けるなんて」

「エースやから負けるんや。まぁ見ててみぃ」


 2人がスタート位置に立った。

 シグナルに注目の掛け声とともに緊張感が先に走り出す。

 そしてレッドからグリーンに切り替わると同時に2人がマシンから手を離す。

 タミヤ公式大会専用スタート台を一気に駆け降りる2台。

 元子のマシンはその走りで俺たちの視線を釘付けにした。

 思わず叫ぶ。


「なんだこのマシン!?」


ーーーーーーーーーー


解説:


・バンク

登り坂とコーナー、そして降るまでの一連の斜面のことをバンクと呼びます。


・バンクスルー

スロープでの減速用にブレーキを貼りますが、位置調整することでバンクではブレーキが斜面に当たらなくなります。

これをバンクスルーセッティングと呼びます。

これが出来ないとバンクでもブレーキで減速してしまいます。


・ノンブレ

ノンブレーキの略。

減速無しで走るミニ四駆は時速30kmを超えることもあり、なかなかの迫力になります。


・ブロッケンギガント

大神研究所の三人衆が1人、近藤元の愛機。

当時は唯一のフロントモーターで異形を放っていたが、無骨なデザインとホイールガード、フロントボディ部分の可動ギミックなど、とても人気があった。

ちなみに元子と書いてモトコと読みます。


・レイスティンガー

大神研究所の三人衆が1人、土方麗の愛機。

赤外線誘導で走りを変化させたり、マシン前部からニードルを出して相手マシンを粉砕することもできる。

強力なバトルマシンだが、実際のミニ四駆にこのギミックは搭載されていないので安心して欲しい。


・肉抜き+メッシュ

プラボディは重いので軽量化のために余剰な部分などに穴を開けたりする。

開いたままだと不恰好なので、裏側からメッシュを貼り付けるとかっこいいのだ。

80年代ミニ四駆の改造ではポピュラーなものだったが、やり過ぎてコースアウトからボディが粉々になる、なんてこともw


・アルミホイール

通常のミニ四駆はプラ製のホイールが付属されているが、強化パーツとしてアルミホイールも販売されている。

着地で跳ねにくい、シャフト差し込み部分のブッシュパーツの取り替えが効くなどメリットも多いが、重量があり一般的なマシンに搭載するのは難しい。

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