第28話:ミナミの帝王

「ウチらやね」


 背後からの声に振り返るとそこには5人の女子チームがいた。

 話しかけてきたのはリーダーらしき女子。

 マイスターちゃんがつんと顎を上げる。


「あーら。たしか去年、わたくしたちとレースをしてくださった、百野瀬女子高さんだったかしら?」

「京華はんたら、去年の雪辱を果たそう思っとったら予選で負けはって、もぉ堪忍してほしいわぁ」


 マイスターちゃんと百野瀬のリーダーがにこやかに睨み合う。

 黒髪セミロングのストレートヘア、少し目付きは鋭いが口元には笑みを湛えている。

 余裕を感じさせる表情だ。

 詰襟型の白い学ランのような制服は女子高には珍しい。

 意思が強そうな、いかにもリーダーといった感じの子だ。

 俺たちは二人の間に割り込んだ。


「初めまして、神奈川代表、町田宮高校ミニ四駆部部長、狭間です。今日はよろしくお願いします」

「そんなかしこまらなくてもえぇわ、もちっとフランクにしてえぇよ。ウチは百野瀬の部長さしてもろてる、土方麗子、レーコでえぇわ。よろしゅうたのんます」


 そこで我が部のレイがにこっと微笑んだ。


「あなたもレイコなの、あたしもレイコなの!よろしくね!」

「あん……?」


 麗子のまとう雰囲気が冷たいものに変わった。

 レイの頭のてっぺんから爪先まで、ねっとりと眺めてため息を吐く。


「なんや、あんたもレーコって言いますのん?おもろいやんけ、ちっとウチとレースしようや。まぁ……大将戦まで持ち込めたらの話やがな」


 なぜか麗子の言葉がトゲトゲしくなる。

 レイは一瞬面食らったようだが、剣呑な雰囲気に負けじと強気に笑って見せた。


「言ってくれるじゃないの。いいわ、その勝負受けて立つわ!」

「あんじょう気張りぃな……ほな」


 よかった、殴り合いでも始まるかと思ったがどうやら杞憂だったようだ。

 麗子はそのまま大小さまざまな女子を引き連れて去っていった。


「なーんか感じ悪かったね……わたし、気を悪くさせちゃったのかな」

「いや普通の会話だったと思うが」


 あの目つきの変わりよう、確かに普通ではなかった。

 何が彼女の気に障ったのだろうか。

 マイスターが俺たちを案じるように眉を八の字にした。


「お気をつけくださいまし。あの子、かなりやばい子よ」

「なにがやばいんだ、マイスター」

「ご存じないのかしら?去年の冬のジャパンカップ、大阪大会の優勝者。チャンピオンズよ、あの子」

「「「「えっ」」」」


 公式大会チャンピオンズ。

 つまり5レーンの大会の実力者ということになる。

 高校生のチャンピオンズなんて全国に何人もいないと思うのだが……本当の意味でやばい子だった。


「去年、うちに負けて相当悔しがっていましたし……そこから猛練習してチャンピオンズにまでなってしまったみたいね。まさに難波のど根性娘って感じなのよ」

「オレは気づいてたよ。相手にとって不足はないが、やはりちとやべぇかもな」

「どうしようルキ……わたし勝てるかなぁ」

「こうなった以上仕方ないさ、初戦はオレが出て勝ちに行く。で中堅戦で狭間か他のみんなで決めちまえばいいのさ」

「なるほど、さすがルキ♪」

「いやお前それじゃダメだろ」

「あらそろそろ開会式みたいだわね。みんなたち集まってー」

「「「「「はーい」」」」」


 前回優勝校である新橋高校から優勝旗返還、選手宣誓、そして田宮会長からのありがたいお言葉。

 全てが厳粛に行われ、その後マイクがMCガッツに渡された。


「それでは第10回、全国高校生ミニ四駆選手権、開催いたします!」


 高らかに大会実行が宣言された後、各学校毎にピットスペースに案内される。

 うちの学校はBリーグ初戦だから急いで準備する必要がある。


「ルキ、任せていいのか」

「初戦は相手を牽制しつつ様子も見たいだろ?」


 ルキがメッシュの入った前髪を揺らして笑う。


「ってことで先鋒はオレが行く。蹴散らしてきてやるぜ」

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