第26話:ToLOVEる

「ご機嫌よう、遅かったわね」


 巨大な玉座には小さな女王様、マイスターちゃんが足を組んだ状態で偉そうに鎮座していらっしゃった。


「あー、ヒロコちゃんだー!」

「ハクさん、ご機嫌麗しゅう」


 県予選決勝で当たった京華商業高校、ミニ四駆部部長であり美術部員でもあられる人呼んでミニ四駆マイスター、鵙屋ヒロコ嬢であらせられる。

 ゴスロリというやつなのか、今日はゴテゴテしたドレスを着てらっしゃって大変麗しうございます。


「久しぶりだな、マイスター」

「我が君もお元気そうでなによりですわ。わたくし達に勝利して神奈川代表になられたのですから、相応の走りをしていただかないと」

「我が君ってのは聞かなかったことにしておくよ」

「ヒロコちゃん、応援しに来てくれたのー?」

「ハクさんにもがんばっていただかないと」

「うん、ヒロコちゃんの分もがんばるから!見ててねー」


 予選会後、ハクはたまに京商に行って走り込んだりしていたそうな。

 マイスターとはもうマブダチになっている。


「前回大会ではわたくし達が出場してましたし、いくらかのアドバイスをしてあげてもよろしくてよ」

「言い回しはアレだが、それは助かる。強豪校とかあるなら聞いておきたい」

「そうね……」


 マイスターはちょっと考えると、大会パンフレットを取り出し、指差し確認しながら話出す。

 しかし、玉座の上にいるから少し位置が高い……。


「ちょっとパンフが見にくいので、玉座から降りられませんかね?」

「あら、じゃあエスコートしていただけるかしら?」


 手を伸ばすマイスター。

 その華奢な手を取った思ったそのとき、彼女がバランスを崩した。

 慌てて懐に飛び込み、抱きかかえるような形で受け止める。


「あっぶなかった、大丈夫か?マイスター」

「……はい……」


 なんだかえらく殊勝だな、いつもならふんぞり帰って「あらお見事」とか言いそうなのに。


「ジン、手、手!」


 レイが何やら慌てた感じで俺の手を指差しているが、手がどうしたんだ。

 ……あぁなるほど、腰と胸に手を回す形で受け止めてしまっていたのだな、うん。


「……わ、ごめん!!」


 すぐ体制を立て直しマイスターを降ろす。


「わ、わざとじゃないからな、ほんと不可抗力で……」

「……こ、婚前交渉と思うことにいたしますわ!とりあえず父と母に連絡して挙式とハネムーンの準備を……」

「わーわー、やめてくださいごめんなさいお願いします!!」


 とりあえずスライディング土下座で平謝り。

 土下座で許されるなのならこの頭、何度でも下げますよ。


「なんでもしますので、どうかどうかお許しを」

「……まぁ不可抗力ですし、大目に見ますわ」

「ほんとうか、よかっt」

「なんでもします、の言質は頂きましたので、その時が来ましたらご対応いただきますわ」


 マイスターがにんまりと笑う。

 しまった、なんて思っても後の祭り。

 しかしこの場は仕方がないとも思う。

 同意もなく触れてしまったことは申し訳ないが、それで結婚まで推し進められてしまうのは勘弁だし。

 ……しかし。

 俺はマイスターを抱きかかえた手をグーパーした。

 レイはそんな俺の肩を掴み、がくがくと揺する。


「ちょっと!そんなこと言って大丈夫?無理難題吹っ掛けられても知らないからね?」


 なぜか彼女の口調には怒りが混じっている。


「いや、いいんだ……。そんなことより……」


 俺はひどく驚いていた。

 大いなる発見に、ぼうっと我が手を見つめる。


「……どうしたのよ」

「女子って……やわこいんだな……」


 俺がそう言うや否や、女性陣が騒ぎ始めた。


「ジンのスケベ!!」

「あ、見損ないました師匠、おまわりさんこっちです」

「ぴーぽーぴーぽー、こちらホンカンさんです、逮捕だー」

「ピーポーだと救急車だぞ」

「ま、待ってくれ。いやそういうんじゃなくて!不可抗力だし!勘弁してやってください……」


 なんでこんなことで責め立てられなきゃいかんのだ。

 いや、余計なことを口走った俺が愚かだったのだろう。

 当のマイスターは気を取り直したらしく、パンフレットを広げながら上体を反らしている。


「こほん!それでは説明してさしあげますわ」

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