第25話:嵐のチャンピオン
「ジンちん、なかなかいい男よね♪」
「ふぁっ!?」
変な声が出てしまった。
ちょっとあの、俺は異性愛者で、心に決めた女性がいるんだ……。
「まぁとりあえずこれでやれることは大体決まったから全国に向けての準備ね♪あったしはちょっと理事会に顔出してくるわ。何かあったら呼んで頂戴⭐︎」
「わかりました、ありがとうございます」
「がんばりなさいよジーンちん!」
ばっしーん!と背中を思いっきり叩かれる。
息が一瞬止まったぞ。
「ぶっはぁ!」
「じゃっはねーん♪」
がちゃん!ばーーんっ!!
土井先生は再び回転しながら、嵐のように去って行った。
「だ、大丈夫、ジン?」
「げほっ、ごほ……はぁびっくりした」
「すっごい先生だったねー」
「ルキがすごい先生がいる、って言ってて顧問お願いしたらこれだよ」
「オレが思っている以上にすごかったよ、いろんな意味で」
「あ、あの、とりあえずみんなで買い出し行きませんか?MSシャーシがもうなかったはずなのでついでにパーツ類も追加購入したいです」
「おっし、それじゃ気合入れてやるか!」
「はーい!あたしシュークリーム食べたいでーす!」
そんな感じで俺たちは全国への準備を始めた。
各々のマシン調整し、トモの5レーン用新マシンは土井先生がフレキを見てくれている。
あのフレキが搭載されるのであれば、かなりヤバイマシンに仕上がるだろう。
ハクのピボットは俺が一緒に作ることで大体の形にはなった。
「すごいねこのバンパー、ぴぽぴぽするよ!」
「ぴぽぴぽするからピボットバンパーって言うんだもんな」
「へぇーそうなんだー」
「うそでーす」
「しゃーーーーー!(威嚇」
「ふふふ、あんたらほんとに兄妹みたいだね」
そんなこんなで全国大会当日。
タミヤ本社にみなで向かうので、朝早く駅前に集合している。
「あとは土井先生か……」
5人で待っていると柱の影からあの男が回転しながら現れた。
「くるくるくるくる……はーいみんなたちー!おーはよーう、はりけーーーん♪」
おっ、今日はタンゴのリズムだな。
「あ、おはようございます土井先生」
「なんでそんなに落ち着いた対応なのよトモちん。もう少し驚いたり蔑んだりラジバンダリあるんじゃないの?」
「あ、ないです。あとフレキいい感じに仕上がりました、ありがとうございます」
「みんなだんだんスルースキル上がってきてない?ちょっと寂しい……けどマシンが間に合って良かったわ。あそうそう。部費から旅費なんかも出せるように理事通して生徒会にお願いしてきたからあとで精算しましょう」
「え、部費そんなに降りるんですか?」
「うん。理事にもミニ四駆部OBがいるのよ♪そこからちょちょいとやっていただきましたぁん」
やはりいろんな意味ですごい先生だ。
しかし理事にもミニ四駆部関係者がいるのか……あ、だからこのナリで先生やっていられるのか。
いろいろ納得できた感じがする。
「みんなそろったことだし、さっそく静岡に乗り込もうぜー!」
「「「「おぉーーー!」」」」
白状しよう。
正直なところ、俺は少し不安だった。
タミヤ本社がある静岡県まで、土井先生は新幹線の座席で大人しく座っていられるだろうかと。
しかしそれは杞憂に終わった。
「レイちん!足を広げて座らないのよっ!他のお客さんの迷惑になるでしょおっ?」
「はぁい」
「ハクちん!こんなときは新幹線のホームでしか買えないものを食べるのよっ!ホラ車内で食べるまい泉のカツサンドは最高でしょっ?!」
「ホントだ、さいこー!!」
「トモちんもレイちんもしっかり水分補給なさい!冷たい静岡茶は飛ぶわよ?!」
「あ、おいし……」
「はは、先生オカンみてぇ」
短い旅を楽しんでいると、あっという間に静岡だ。
タミヤ本社へは静岡駅からバスで向かうことになる。
バスの中から双星のマークを冠した社屋なが見えると、俺たちの気分は否応もなく高揚した。
「まず受付だな!」
全国大会というだけあって、会場は人でごった返している。
受付の場所を探していると、中でも黒山の人だかりができているのが見えた。
「なにかあったのか……?」
恐る恐る近づいてみると、見覚えのある巨大なオブジェがこちらに振り返った。
「ご機嫌よう、遅かったわね」
ーーーーーーーーーー
解説:
・ピボットバンパー
バンパーの端に支点を作り、その軸で折れ曲がるようにビスを取り付ける。
作用点あたりをゴムリングで巻き付ければ、ゴムの弾力でコーナーリング時に折れ曲がり、ショックを吸収するバンパー、ピボットバンパーになります。
ホエイルといえばこれ、って感じのギミックでスラダンとともに人気のある仕組みになります。
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