第24話:舞って!セーラー服騎士

「さぁ、舞うのよDD!」


 同時のスタート思いきや、ダンシングドールの一気の加速で引き離される。


「な……」

「うわ、すごい加速!」

「こりゃぁマッハダッシュか、小径マッハはセオリーになりつつあるが……それでも速いな」

「このDDちゃんの売りはこの加速力よ♪ほんと痺れるわー」


 22mmのハーフのフロントローフリクション、リアスーパーハード。

 加速だけでなくコーナーも激烈に速い。


「全然追いつける気がしない……」

「あ、レーンチェンジも安定して抜けました」

「ヒクオ連動ATだからレーンチェンジで困ることはほとんどないわん」


 テーブルトップを登ってからバンク、その後に降りからストレート1枚でコーナー。

 狭い部室のコースでの最難所となっている部分だが。


「あれ、バンクで少し減速した?!」

「ワザとよ。バンク1カ所だけだし少しくらい擦って減速しても他が大丈夫なら問題ないでしょ。このバンクでブレーキして1枚着地に備えれば……」


 DDは土井先生の言う通りに1枚着地を綺麗に決めて曲がっていく。


「こんな具合に入っちゃうんだなぁ、こ・れ・が⭐︎」

「すごーい!このキラキラマシン、速いなー!」


 俺のマシンもバンクで少し追いつく姿勢を見せるが、やはり小さなアクロバティックコースでこのマシンに勝つのは難しいだろう。

 最終的には大差を付けられての俺の負けだ。


「はいあったしのDDちゃんの勝ちね♪」

「ジンのマシンにあっさり勝っちゃうなんて……」

「完敗です、めちゃくちゃ速いですね」

「まぁでもこのコースに向いてたってだけでもあるわよ。ストレート長いコースだとこの子じゃ難しいわ」


 とはいえフレキの精度、制振性やタイヤの作り込みだけでなく、モーターから電池までフルカスタマイズしていなければこんな速度は出せない。

 ミニ四駆に関してだけ言えば、この人かなりすごい。


「ってな感じでみんなたちの顧問になっちゃってもいいかしらーん?かしらかしらー?」

「テンションたっかいなぁ。でもうん、ミニ四駆に関しても詳しそうだし、顧問お願いいたします!」

「あ、わ、私も大丈夫です、よろしくおねがいいたします」

「でもなんでそんなにゴージャスな頭なのー?」

「頭?あドレッド?これにはふっかーいマリアナ海溝よりも深いわけがあるわけなのよ。聞いてみたい?聞いちゃう?」

「どうでもいいでーす!よろしくおねがいしまーす!」

「あらやだもぅイケズな子ね。でもその感じ好きよ♪」


 土井先生はあっという間にレイたちと打ち解けてしまった。

 お姉系というのはやはり女性とのコミュニケーションが上手いのだろうか。

 しかし、ミニ四駆をやっていていろんな大人にも会ってきているが、この町で土井先生を見かけたことはない。

 町田宮高校に勤めているうえに、ここが母校なのであれば、近所に住んでいる可能性が高いーーつまり行きつけのコースやショップも被ると思うのだが。

 いったいどこでミニ四駆をやっているのだろう。


「先生はいつもどんなところで走らせてるんですか?」

「ん?Gsガレージで走らせてるけど?」

「え、であれば大会とかも出てるんですか?」

「ううんあったしは大会とかには出ていないわね。あそこの経営者とマブダチってだけなの。それでたまにお店に集まって身内だけの走行会とかやってるかな。ホームパーティーみたいな感じね」


 そういうことか、どうりでお店でハチ合わないわけだ。

 しかしミニ四駆ショップの経営者と友達で現役の走行会で走らせてるのであれば、やはりガチ勢であることは間違いない。

 こんな人の知識がこの部に活かされるのであれば、戦力アップ間違いなしだ。


「じゃ〜まずみんなたちのマシンの走りを見せてもらってその後に全国用の対策立てていきましょっか」

「はーい、先生、質問でーす」

「あらなぁにハクちん」

「全国大会ってどんな感じなんですかー?」


 目指せ全国大会!……とは言っていたが、そういえばルールからなにからまだ調べてなかったな。


「あったしが出た頃と変わってなければたぶん予選と本戦で分かれているけど……5レーンコースだからコースの入れ替えはない感じ。で5人参加でレースごとに3人を選出。先鋒、中堅、大将の順かしら。それで先に2勝したほうが勝ちだったと思うわ」

「であれば地方大会とほとんど同じルールなんですね」

「ただ会場の広さが違うのと5レーンになるからマシンのセッティングも変えなきゃダメかもねん」


 土井先生の口ぶりから察するに、彼はどうやら高校時代に全国大会にも出ているらしい。

 体験談というのは貴重だ。

 当事者にしか知らないことがあるからな。

 この際、気になることは全部聞いてしまおう。


「以前参加されたころはどんな感じだったんですか?」

「あったしたちが全国に行ったのは3年の最後の大会でやっぱりタミヤ本社で走らせるってのは緊張したわね。5レーンなんてガレージにもあるけどジャパンカップと同じスタート台があるのよ。あれってやっぱりテンション上がるわー」


 5レーンだとすると、いろいろ変更点が出てくるな。

 3レーンと5レーンのコースはかなり違いがある。

 3レーンは市販のジャパンカップジュニアサーキットを使用しているので、プラスチック製で薄く柔らかい素材だ。

 ストレート、コーナー、バンクなどがあり、それらを繋いで行ってコースに仕立てる。

 レーン自体が柔らかいので、たわみが発生しやすく安定して走らせることが難しい。

 また店舗によるがコースの汚れを拾いやすので、すぐタイヤのグリップが落ちてしまう。


 一方5レーンだとどうなるか。

 5レーンコースは木製で硬い。なのでたわみなどが発生せず安定した走行が可能だ。

 一見、簡単そうに感じるが、コースが硬いということはジャンプからの戻りで弾かれやすくもなる。

 また、素材が厚いのでコースのつなぎ目に段差ができやすく、この段差を吸収できるようなマシン構成が必要になる。

 この段差はコースの床側にもあり、常時つなぎ目で小ジャンプしてるような走りになるーーつまりジャンプに強いフレキがものすごく有利になっている。

 他にもグリップが落ちにくいのでローフリクションタイヤの効果が高い、など細かい差もたくさんある。


「5レーンを走らせるから9mmローラーはちょっと不利になるわね。コースの段差を拾いやすいのよ」

「じゃーあたしのソニックはローラー変えちゃおうかなー」

「そうね13mmが使えると思うからローラー変えておきましょ。フレキが有利とはいえそんなの3レーンでも一緒でしょん?片軸には両軸にできない走りがあるからそこを狙って攻めて行けるといいと思うわ」


 とりあえずの対策はしていけるだろう。

 ルキといい土井先生といい、強力すぎる戦力がそろった。

 これなら本当に全国制覇、狙っていけるのではなかろうか。

 すげぇ楽しみになってきたぞ。


「じゃあ、みんなのマシンも5レーンに合わせたセッティングにしていこう。もともと5レーン向けなレイとルキはそのままチューニングしていけばいいだろうが、ハクとトモはかなり改修が必要だろうな」

「あ、はい、私のブラックウイングは硬くAT的な機構が1つもないので、5レーンはちょっと難しいです。なので新規で新しいマシンを作ってみます」

「お、であればフレキとかやってみるのか?」

「5レーンで勝ちに行く、と考えるならフレキはやはり外せないと思いますし。兄のマシンでリベンジと考えていましたが、師匠に言われた通り、私自身の翼で羽ばたく必要があると思いました」

「わぁ!それほんといい考えだと思う!わたしも手伝うからがんばってみようねトモ!」

「あ、うん!よろしくね、レイちゃん」

「……うみゅう。あたしのはローラー変えるだけで大丈夫かな?もう少しやれることありそう?」

「そうだな、ホエイルらしくピボットバンパーを作ってみようか」

「ピボット?体育の授業でバスケやったときに習った、あれ?」

「そうそう。バスケのピボットターンと意味は同じで旋回軸って意味だ。バンパーに折れ曲がる軸を入れて、ゴムで調整してコーナーでの安定性を狙うんだ」

「はぇぇ……難しそうだー、でもがんばってみる!教えてねお兄ちゃん!」

「おぅ、がんばろうな」

「……」


 ……ん?なんだか土井先生からの視線を感じる。

 何か気に触ることでも言っただろうか。


「……先生、俺の顔になんかついてますか?」

「ジンちん、なかなかいい男よね♪」


ーーーーーーーーーー


解説:


・小径マッハ

マッハダッシュモーターとペラタイヤの組み合わせをこう呼びます。

コースによって適正なタイヤもモーターも違うのですが、テクニカルなコースをこの組み合わせで走ると強いです。

適度なトルクの無さがいい感じに作用するイメージです。


・ヒクオ連動AT

ハクのホエイルにも搭載されているものと同じで、ヒクオでボディが傾くとバンパーも連動して傾き、スラストがついてレーンチェンジを攻略しやすくなります。


・ジャパンカップジュニアサーキット

通称JCJC。

円形のコースが構築できるセットで、レーンチェンジとウェーブが1つ付いている。

家庭でもミニ四駆の練習ができるが、だいたい6畳間くらいのスペースが必要なため、けっこう広いお家でないと常備は難しい。


・9mmローラーはちょっと不利

5レーンコースの壁のギャップを拾いやすく、減速やひどい時は引っかかってギャップ停止します。

大きい径のローラーであればあるほど対策になるので、できれば最大径である19mmを使うべきです。

自転車とスケボーで小石に引っ掛かったらどうなるか?と考えるとわかりやすいです。

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