第21話:告白〜コンフェッション〜

「やった……勝った……」


 やばい、涙が出そうだ。

 ミニ四駆を始めて3年、念願の勝利だ。


「おにぃーぢゃーーーん!」


 ぶほぅ!


 叫びながら抱きついてくるハク。

 思いっきり腹に向かって頭から突っ込んでくるなんて……息が止まるかと思った。


「ぐぉ、お、おぅ、勝ったぞ」

「おにいぢゃん!ずごいの!優勝なの!!」

「やったね!さすがぶちょー♪」


 横からレイまで飛びついて来る。

 その様子をやれやれと言った眼差しで見つめるルキ、そして少し涙目のトモ。


「ぐぇぇ苦しい、わかったから離してくれ」

「あぁっと、ごめんごめん、うれしくってつい」

「あの、師匠、おめでとうございます。あとありがとうございます、これで兄の夢に一歩近づけました」


 そうだ。

 これで全国への切符を手に入れたことになるのだ。

 つまりトモの亡き兄が戦った舞台に挑戦できることになる。


「全国大会もこの調子でがんばっていこうな!」

「あ、はぃ!」


 喜びを噛み締めていると、マイスターちゃんが艶然と微笑みながら拍手をしてくれた。


「とりあえずおめでとう、なかなかやるじゃない」

「完敗です、すごい走りでした」


 俺と戦った田中も潔い。

 基本的に礼儀正しく、気持ちのいい奴らだ。


「俺もギリギリを攻めてのギリギリの勝利だったよ、安定度ならそちらのほうが上だった」

「レースですから、やはり速度で負けてしまって、セクションでも負けていた。言い訳はできません」

「というかこのコースがきついよ、ラジ4ジャンプはないわ」

「たしかに、いきなり出されても対応できないですよね」


 田中と談笑をしているとマイスターちゃんがこちらをじーっとみている。


「……ど、どうしたんだい、マイスターちゃん」

「うーん……よし決めましたわ、あなた、わたくしの彼氏になりなさい」

「……はぁ?」

「ちょっと待てぇコラぁ!!いきなりしゃしゃり出て何言い出すんじゃ!」


 なぜかルキが切れている。


「ルキ……あんた……」

「しゃしゃり出るってなにー?」

「……いや、そのなんだ、狭間の心情をだな、そのな、な、狭間?」

「そんなフリ方されても困るが」


 しかしなんだ突然。

 様子を伺っているとニンマリとした顔でマイスターちゃんが語り出す。


「わたくしの伴侶が勤まるのはわたくしの認めた方のみ。あなた、見込みがあるわ」

「認めるって……ミニ四駆で勝っただけだが」

「それが重要なの」


 意味がわからん。

 しかしこういうタイプは早々にお断り申し上げないと後々めんどうだからな。


「いやすまない、俺には心に決めた人がいるんだ」


 別に嘘を言っているわけじゃないし、これで難を逃れられるのであれば問題なしだ。

 しかし。


「なっ」「えっ」「あっ」「ほー」


 振り返ると部員のみんなが目を見開いていた。


「あんた今さらっと言っちゃってますが……」

「おにいちゃん、好きな人いるんだー」

「あ、なるほど、なるほど……」

「ほーん……ちっとおもしろいぞこれは……」


 にんまりと笑う女性陣に、何がおかしいと胸を張る。

 しかしこうも視線を浴びると次第に恥ずかしくなるもので、俺の啖呵は尻すぼみになる。


「なんだよ、そりゃ俺にだって好きな人くらい……その……いるさ……」

「なんだよー、今度詳しく聞かせてよー♪わたし恋バナ大好きなんだよねー」


 レイがやけに嬉しそうだ。

 俺は選択を間違えたのだと悟る。

 マイスターちゃんは余裕いっぱいに微笑んだ。


「まぁでもわたくしには関係ありませんわ。また近いうちにお目にかかることになるでしょうから、よろしく。そちらのハクさんも、遊びにいらっしゃいね」

「うん!ありがとうねー!」


 ハクとアドレス交換したあと、玉座とともに去っていくマイスター。

 嵐がやっと過ぎ去った気分だ。


「……んでは改めて。俺たちの勝利だ!!」

「ほんと、うれしい!でもそれ以上に……恋バナ……」

「はーぃ、あたしも気になりまーす」

「あ、私も」

「だな、オレも」


 こいつら……。

 いつまでもこの話題に食いつかれちゃ面倒だな。

 こういうときはこの手だ。


「よっし、じゃ祝勝会ということでスイッパラにでも行こうじゃないか、な、ハク!ケーキ食べ放題だぞ!?」

「わーぃ、ケーキ!ケーキケーキ!あたし、ケーキが食べたいでーす」

「よーし、じゃ表彰式終わったら向かおうなー、さぁ、ひょーしょーしきだー」


 脇目も振らず表彰台に向かう。


「ちょ、ちょっと待ってよジn」

「ケーキ、ケーキ、ケーキ」

「ケーキ、ケーキ、ケーキ」

 

 ハクと共に肩を組みながら有無も言わせず表彰台へ。

 式典ともなるとそれ以上は騒ぐこともできず、ようやくレイたちも黙ってくれた。

 主催の方に案内いただき表彰していただく。


「何はともあれ、これで全国だ」

「うん、なんとしても……勝ちたいよね!」

「あたしのソニックも、もう1回!作り直すぞー」

「あ、そう言えば全国行く場合、引率の顧問が必要だそうですよ」

「あー、そっかそれなら任せろ、宛がある」


 顧問の先生か。

 出来たばかりの部活だ、まだ決まってなかったってのも無理はない。


「宛がある、って誰なんだルキ」

「まぁ……ちとめんどうなやつだが、ミニ四駆の知識があって使えるやつだと思う」


 まさか学校にそんな先生、いるのか?

 しかしルキが頼りにならなかったことなどない。

 ここは彼女に任せよう。


 そして週明けの月曜。

 ルキと共に職員室、ではなく体育教官室に向かった。


「ミニ四駆に詳しいってのは体育の先生なのか」

「おぅ、2年の体育を見てるやつでな。ミニ四駆昔やってたって言ってたからたぶん、引き受けてくれるとは思うんだ……ただちょっとアレでな……」


 アレってなんだ。

 ガラガラっと扉を開けて中を覗き込み、ルキが「土井先生はいますかー?」と声をかけると、妙に甲高い声が返ってきた。


「……あれれー、ルキちーーーん!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・スィッパラ

スイーツパラダイスのこと。

スイーツ食べ放題チェーン店です。

女子率高すぎで男子が行くのは抵抗ありますw

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