第20話:怒りのロードショー
「あとは俺に任せろ、勝ってみせる」
ここが正念場。
予選決勝最終戦、勝てば全国だ。
だが俺はミニ四駆を始めてから一度も大会で優勝をしたことがない。
デカい口を叩いてはいるが、ルキのような歴戦の猛者でもなければマイスターちゃんのように小学生の頃からやってるわけでもない。
自信があるか、と聞かれると正直、ない。
しかしだ。
こいつらはそんな俺を頼ってくれている。
応えてやりたいんだ。
「そちらの部長さん、震えているようだけど大丈夫なの?」
「ジン……」
「レイ、心配するな、武者震いってやつだ。俺に任せてくれ」
「……うん」
作戦はある。
0着にダイレクトで入れる。
テーブルトップのストレート部分に着地せず、直接スロープの降りに叩き込む。
これが決まればかなり優位な展開を作れる。
ただそうなると困るのがラジ4ジャンプだ。
0着ダイレクトの飛距離を出すセッティングでは飛びすぎてしまうはずだ。
だが、こいつなら行ける。
行けるはずだ。
ルキが俺のマシンを見て、目を見開いた。
「狭間、お前のマシン、新しくしたのか?」
「あぁ、タイヤは変えてないが、その他は全取り換えと言えるから新マシンとみてくれていい」
「前後アンカー、MS4.0ホエイルか」
「そういうことになる」
俺の新マシンはフロント、リアともに1軸のアンカー搭載のマシンだ。
昨今ではリアアンカーが安定度が高く好まれているが、こいつはフロントもアンカーとすることで安定度をさらに上げている。
回帰性だけで言えば、部内のマシンでも最強クラスになったと思う。
ボディもお姉さんのリバティはとりあえず置いてきた。
今回はポリカのウイニングバードフォーミュラー、こいつをフロントヒクオで乗せている。
「3レーンで前後アンカーはどうかと思うけど。レーンチェンジ超えられるのかしら?」
マイスターちゃんの言う通りだ。
アンカーは柔らかい仕組みで、フロントに搭載するとスラストが効きづらく、問題点も多い。
「うちの田中のマシンも仕上がりは良好よ。そちらの大将も気合いを入れて臨むのがよろしいかと」
田中と呼ばれた男もファイヤードラゴン、こちらは青いボディだ。
佐藤と同じくMSフレキ、しかし相手のタイヤは中径23mmくらいだろうか、かなり小さなタイヤだ。
フロントATスラダン、リアアンカーのもっともトレンドと言える改造方法だ。
先程の佐藤のマシンとは違い、ルキの青龍と同じタイプの戦略だろう。
平面は速く、各セクションではキッチリ減速して安定させてくるはずだ。
田中が俺のマシンを見て頷いた。
「アンカーホエイルは初めて見ます、これは楽しい勝負になりそうだ」
「よろしくたのむよ」
「とはいえ全国出場のかかった最終戦、負けるわけにはいきませんがね」
「俺だってそうだ。こいつで勝ちにいかせてもらう」
2台がスタートグリッドにつく。
全員が息を飲んだ状態、緊迫の一瞬。
グリーンに輝くスターター、二人同時にマシンから手を離す。
2台がほぼ並走して走って行く。
「平面での性能差はほとんどねぇな、相手のファイドラも速いわ」
「田中のマシンはうちの部でも最速、平面とはいえ付いてこれるなんて、大したものよ」
「おにいちゃんがんばれ!!」
最初のレーンチェンジ、ウイニングバードが飛び込む。
がん、ばっしゅん!
「速度を出したままレーンチェンジを抜けた!?」
「すごいわ、このアンカーマシン、この速度で3レーンLCを抜けられるの?」
京商の連中が驚いている。
「アンカーが下から衝撃を受けない限り、ロックできるような仕組みにしている。だからこいつは平面では基本リジッドだ。レーンチェンジの衝撃があってもマシンを支えられるように作り込んだんだ」
ルキがくっと笑った。
「そんなことできるのかよ、オレも知らねぇぜ?」
「オリジナルの作りだ、思いつきでやってみたが簡単なわりによくできたと思うぞ」
「レース終わったら見せてくれ」
みんなが驚きの目で俺のマシンを見つめている。
これはちょっとうれしいぞ。
レースは俺のウイニングバードが少し前を行っている。
そしてこのコースの山場、0着につながるテーブルトップ。
「たのむ、超えてくれ!!」
ほとんどブレーキをかけずにテーブルトップに差し掛かる。
「まさか、その速度で!?」
……さしゅん!!
一気にストレート部分を飛び越し、テーブルトップ降り斜面にダイレクトに飛び込む。
斜面のレーンにフロントバンパーが触れたが、アンカーのいなし力でするりとレーンに戻る。
MSフレキ、フロントヒクオとアイアンテイルで見事に着地、0着コーナーを物ともせず駆け抜けて行く。
「な、なによそのマシン!?」
「0着ダイレクトインとは……そのためのフロントアンカーか」
「……ふっ」
そのため、というわけではない。
Gシステム、C-AT、簡易ホエイル、片軸高速、と個性あるマシンが揃っているのだ。
こいつらを引っ張って行くなら、生半可なマシンではダメだ。
そこから考え出した1つの答えがこいつだ。
「すっげぇなこのマシン、アンカーでこれだけ走れるもんなのか」
「走破性を殺さず、尚且つ安定を求めた結果行き着いたんだよ」
抜けて最終コーナーのスラローム、しかし最後の難所、ラジ4ジャンプが手前で待っている。
「さっきのテーブルトップのブレーキセッティングでこの速度じゃ、ラジ4ジャンプで飛び過ぎちゃうんじゃないの?」
「見てろよ……いけるはずだ!」
ざん!しゅっ……
低いジャンプ、ほんの少しだけ前下がり、理想的なジャンプ姿勢でラジ4ジャンプを攻略するウイニングバード。
「な……なんなんですの……」
「地を這うようなジャンプ!すごい……」
「よっしゃ、狙い通りだ!!」
今まで俺がどれだけこのラジ4ジャンプに苦しめられたと思っていやがる……。
無策で突っ込んで前から転がり、ブレーキを強化して挑めばフロント上がりになりコーナーに入れず……。
何度も何度も何度も何度も泣かされた経験がここに来て生きた。
「どうやったらこんな綺麗に飛べるの?」
「ふっふっふ……。教えてしんぜよう。まずフロントにブレーキ貼らない」
「えっ!大丈夫なのそれで?」
「その代わり、リアは赤ブレーキでガッツリかけてる。通常スロープではかするくらいしか当てないセッティングでだな。で、フロントはFRPを貼り付けてアンダーガードにしてる。高さは……1.9mm」
「2mmじゃだめなの?」
「2mmでも1.8mmでも大丈夫だけど、最速で抜けられるのが1.9mmだ」
「なんでアンダーガードだけなの?」
「アンダーガードはリアブレーキを強烈にかけるために使うんだよ」
「???」
レイがよくわからんと言った顔をしている。
無理もない、これはやった人間にしかわからないだろう。
「あ、つまりフロントをラジ4ジャンプの入り口に当てて浮かせて、その反動でリアを強く押し付けてるってことですね?」
ぐぬぬ。その通りです。
やはりトモの洞察力はすごい。
「その通り。ブレーキやマルチテープだとショックを吸収してしまうから直接アンダーガードをつける。ラジ4ジャンプは入り口がスロープより反ってるから、1.9mmっていう高さがちょうどいいんだ。そして、リアローフリクションとの組み合わせでブレーキは強烈に引っ掛けて、しかし蹴り足は弱くさせることでこの走りが可能になるのさ」
2週目以降も差を広げ、最終ラップでは田中のファイドラがラジ4ジャンプでコースアウト、勝負がついた。
「やった……勝った……」
ーーーーーーーーーー
解説:
・テーブルトップ
スロープを直接2つ接続するとドラゴンバックだが、スロープの間にストレートやコーナーを挟んだものをテーブルトップという。
いろんなバリエーションがあり、攻略難易度も高いセクションとなっている。
・MS4.0ホエイル
前後アンカー搭載のホエイルマシンのこと。
このタイプの特徴として、MSシャーシのフロントとリアを入れ替える「前後逆転」フレキであることが上げられる。
こうすることでローラーベースが短くなり、旋回性能が上がるのだ。
・アンカー
1本の軸にバンパー搭載し、スタビキャップの球面を軸に
はめ込むことでボール型のジョイントを作る。
これを上からバネで抑えて、上下前後左右にフレキシブルに動くバンパーとなる。
これをアンカーと呼んでいます。
作るのは比較的に簡単だが、制御が難しい。
・ATスラダン
上下に動くATバンパーの基礎部分にスラダンを乗せたバンパーのこと。
安定度、走破性も高く、現在主流のギミックとなっている。
・アイアンテイル
ミニ四駆キャッチャーを加工し、ミニ四駆の尻尾のようなものを作る。
そこにシャフトなど貼り付けオモリとし、マスダンのように使用する。
また、ジャンプ時飛型を安定させる効果もある。
・アンダーガード
バンパーなどの底面部にガードとなる素材を取り付け、ジャンプからの復帰時に抵抗を少なく戻りやすくするためのパーツ。
今回はブレーキの代わりに使用しているので用途は違うが、名前的には同じかと。
・マルチテープ
タミヤから販売されている多用途テープ。
マスキングテープにように剥がしやすく、でもしっかり付くような適度な粘着性がある。
カラーも豊富で、補強やネジ山隠し、ブレーキの下地など多用途に使える。
・ブレーキ
ミニ四駆の前後バンパー下にスポンジのような素材を貼り付けることで、ジャンプ台などの斜面に入った時のみ接地し、速度を落とせる。
この調整でジャンプの距離などを調整できる。
素材の違いで効き目が違ったり、溝を掘ってブレーキ力を高めたりと、ここでもいろんな個性が出せる。
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