第18話:とんがり帽子のメモル

「わたくしの山椒、甘くみないことよ」


 山椒、サンダーショットか。

 見てみるとオレンジとピンクのMSシャーシ、ポリカのサンダーショットMK2。

 ボディはスカイブルー、全体的にパステル調でメルヘンチックに仕上がっている。

 しかしこのマシン……。


「ノーマスダンなのか?」

「えぇ、あんな不恰好なものつけたくないもの」

「このアクロバティックなコースをマスダン無しで走れるのか?」


 レイもルキもびっくりしている。

 しかもシャーシ以外のパーツ……ホイール、ローラーに至るまで全てに軽量化が施されている。


「そして超小径タイヤ、22.5mm。フレキシブルシャーシとの組み合わせで障害なんて全て亡き者にできるのよ」


 モーターもライトダッシュか。

 ハクのマシンと同じだがタイヤの径はこちらが勝っている。

 とは言え、このコースでは無意味だろう。


「大丈夫だよー、タイヤこれに変えたのー」


 自分から改造したようだが。

 見慣れないこの蛍光緑のホイールは……。


「ぷにょぷにょタイヤでーす」

「……ハク、それアカンヤツや」


 ハクは頭にクエスチョンマークを浮かべているが、これは中空ゴムタイヤ。

 薄いゴムでできていて、中身が中空になっている。

 着地衝撃を抑えるという謳い文句だが、どちらかといえば夢パーツと言われるものだ。

 効果が薄く、使っている人はほとんどいない。


「大丈夫だよー、このタイヤけっこうおもしろかったよー」

「うーん、もう今からタイヤ交換は間に合わん、こいつにかけよう!」


 仕方がない、一か八かだ。

 決勝のスタートラインに2人が並ぶ。


「プラボディに中空タイヤ、やっぱりひよっこちゃんのようね」

「ふーんだ、そっちだってピヨピヨさせちゃうから、覚悟しろー」


 にらみ合う2台と2人のちびっ子。

 スタートグリッドに2台が並ぶ。


「シグナルに注目!」


 少し間を置いてのオールグリーン、2台同時のスタート。

 スタートは超小径の山椒が飛び出す。

 つかこの速度、ほんとにライトダッシュか?

 軽さが速度に直結しているような、そんな走りだ。

 軽快ってのはこういうものなのだろう。

 ブレーキングも的確、重量が軽いということはブレーキング勝負にも強いということ。

 スッと止まってパッと走る、スポーティないいマシンだ。

 対するハクのソニックは速度が乗せにくいコースが逆に幸いしてか、安定して走ってる……というかあれれ、これも速くないか?


「おぃハク、なんか速くなってないかこのマシン?」

「モーターをね、ルキちゃんに慣らしてもらったのー」


 なるほど、であればパワーソース的によくなっているのか。

 しかし着地がいいな。

 山椒もノーマスダンなのに安定してるのがすごいが、ソニックも着地が綺麗だ。

 いや、着地が良過ぎるぞ、こんなに綺麗に走るマシンじゃなかったハズだが。


「中空タイヤがいいのか……」

「ちがうよ、これはぷにょぷにょタイヤだよー」

「そういやさっきもぷにょぷにょ言ってたな、いったいなんなんだこれ?」

「緑のホイールの内側の出っ張りを切り取ってね、空気抜く穴を開けてね、跳ねにくいスポンジのタイヤつけて、その上にゴムでカバーしたのー」


 2重タイヤか!?

 こんな改造あったのか、俺も知らなかった。


「あぁ、それスイカタイヤっていうらしいんだ」

「ルキ、これもお前の差し金か」

「モーター慣らすついでにな。簡単お手軽のわりによく走るな。オレも初めて使ってみたんだが、こりゃぁ掘り出しモンだわ」

「触るとぷにょぷにょだからね、ぷにょぷにょタイヤなんだよー」


 ぷにょぷにょタイヤとパワーソースを手に入れたソニックの快進撃が続く。

 なんと2週目で山椒に追いついていた。


「ちょっとやるじゃない。わたくしの山椒を追い回せるなんて、ヒヨコの皮を被った狼……ちがうわね、ワンちゃんかしら?」


 両者とも安定した走りで最終周、最終コーナー前のレーンチェンジでソニックが前に出た。


「いっけー!そぉーにぃーっくー!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・サンダーショット

もとはRCだったがサンダーショットJRとしてミニ四駆に登場した。

丸いキャノピーが戦闘機のようでかっこいい。

ノーマル、MK2、エアロの3バージョンあるが、MK2のポリカがレア度高い。


・中空ゴムタイヤ

通常のタイヤと違い、薄いゴムでチューブ型になっていて、中に空気の層がある。

実車のタイヤに近い構造で、この空気の層で衝撃吸収しバウンド抑止を狙っている。

たしかに跳ねにくいのだが、若干グリップ力が高く幅広なタイヤなのでコーナーでの減速が激しい。


・夢パーツ

効果が薄い、もしくは逆に遅くなったりしてしまう、そんなパーツ群のこと。

代表的なパーツにワンウェイホイールがある。

ただスラダンのように一時期は夢パーツと言われていたが、効果があることが発見されることもあるので馬鹿にはできない。


・跳ねにくいスポンジのタイヤ

低反発スポンジタイヤというタイヤで、素材が衝撃吸収素材なため、驚くほど跳ねない。

ただやはり激烈にグリップがよく、近代ミニ四駆的には使いにくいタイヤである。


・スイカタイヤ

スイカさんという方が考案したからこの名前らしい。

けっこう画期的なタイヤで簡単で効果が高い。

子供でも加工できるので、安定させたいちびっ子にオススメしてあげてください。

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