第15話:進撃の巨人

「オレに喧嘩売ったこと、後悔させてやるぜ!」


 さすがウチのルキは勇ましいぜ!

 マシンだって彼女の言葉を裏切らない。

 明らかに赤髪のウイニングバードとは速度域が違う。

 最初の遅れなんてどこ吹く風か、と言わんばかりの速度でカッ飛ばす青い稲妻。

 気づけばコース半周近くの差をつけての圧勝だった。


「よっし!」

「くっそー、なんだよこいつ、めちゃハヤじゃん……」


 ぐちぐちと文句を垂れ流しつつ、チームに戻っていく赤髪。

 反則行為の謝罪がないのが気になって、その背中を追おうとする。

 それをルキが止めた。


「勝ったとは言え……妨害があったんだろ?」

「ちょっと小突かれただけだ、心配すんな」

「ルキ、お前が一等ムカついてたんじゃないのか?」

「はっ。女だからって馬鹿にされたら実力で見返してやるのが一番だ。ほら、あの赤髪、オレの顔すら見ようとすらしねぇ」


 たしかに、背中を丸めてチームメイトに隠れる赤髪は滑稽だった。

 これであいつもコースの上では老いも若きも、男も女も関係ないと思い知っただろう。


「それより次戦以降も何があるかわからねぇ、気をつけろよ」

「あぁ、ちょっとこの感じだと俺が出たほうg」

「待って!」


 マシンに手を伸ばしかけたところをレイに静止される。


「ここはわたしに行かせて」

「しかしあいつら、荒っぽそうだから男の俺が行ったほうがいい気がするが」

「ううん、ここはわたしが行く。あぁいうヤツら、ほんっと許せない」


 レイが怒りに震えている。

 たしかにレイなら気負けするようなことはないだろうが……。


「それにこのコース、レーンチェンジがバーニングチェンジャーだし、わたしの艶雷が得意な感じ。1発で決めてくるわ」


 今回の大会は初戦と決勝でコースが変わる。

 艶雷が得意なコースであるうちに出しておくのが得策だろう。


「わかった、レイに任せる」

「うん、じゃ決めてくるね!」


 コース前に向かうと相手チームの青髪が出てきた。


「ここは勝ちにいく必要がある、こっちも出し惜しみしてる暇がなくなった。青島学園ミニ四駆部部長である俺が相手をしてやろう」

「ふふんっ。よろしくぅ♪」


 メンチの切り合いはよしてくれ……。

 俺の胃がキリキリ痛む。

 まさかマシン以外のことで思い悩む日が来るなんて。

 しかし一触即発にも見えたが青髪は急に目を逸らす。

 何かあったのだろうか。


「レイ、なにが来るかわからない、気をつけていけよ」

「わかってる、心配ありがとね」


 そりゃ心配だ。

 巨漢の青髪、しかも高校生であご髭……。

 あんな厳ついのが相手だと何かあったら一大事だ。

 スタートを妨害されるついでに、怪我でもさせられたらたまったもんじゃない。


 2人がスタートグリッドにつく。

 シグナルがグリーンになった瞬間!

 レイがグッと身構えるようにしてスタート!

 青髪は……あれ、スタート失敗?

 レイの気迫に気圧されるように身引いてしまいスタートに遅れたようだった。


「くっ、しまった!!」

「いっけぇー、艶雷!!」


 ATバンパー式ホエイルマシンのウイニングバードとC-ATを積んだMS-Vライキリ。

 新旧ホエイル対決といった感じか。

 平面の走りはほぼ互角、タイヤ径がある青髪のウイニングバードがいい走りを見せている。

 コーナーは互角だが……レイのマシンはジャンプが見せ場だ。


「飛べ!」


 ドラゴンバックを勢いよく飛び出し、コーナーにダイレクトインするような走り。

 これがレイのC-AT、艶雷だ。

 青髪がぎりりと奥歯を噛み締める。


「マジか、その飛びで安定してるのか」

「それでもガッツリひき離せない……速い、こいつのマシン」


 青髪のウイニングバードも速い。

 ホエイルらしい安定した飛行、0スラストでのストレートの伸び、さっきの赤髪もなかなか速かったがそれよりさらに1枚上の走り。さすが部長といったところだろうか。


 最終コーナー、バンクからのドラゴンバック、バンクのあたりでほぼ差はないようの見える。


「飛んで!艶雷!!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・バーニングチェンジャー

コースを跨がず、バンクのような形で大回りするような形式のレーンチェンジ。

通常のレーンチェンジと違い、飛び出しにくいので高速でアタックできる。


・MS-V

ホエイルにはバージョンナンバーがついていて、そのバージョン5になるC-ATには特別にMS-Vという名前が付けられている。


・ライキリ

雷すら切り裂くと言われる伝説の刀、ライキリの流れるよう動きをイメージしたボディ。

カーデザイナー根津孝太氏(zunug design ツナグデザイン代表)がミニ四駆のためにデザインしたマシンで、実車であったとしても売れそうなかっこよさ。

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