第14話:メルモちゃん

「チーム名、どうしよっか?」


 神奈川県民ホールの大会議室。

 そこが全国高校生ミニ四駆競技会の地区予選会場だ。

 なんで「町田宮高校」が神奈川県の予選に出るのかって?

 当たり前だろ?町田は神奈川なんだし。

 会場でははすでに他校の生徒が準備に取り掛かっているらしく、室内からモーター音が聞こえてくる。

 俺たちはその会場受付で、チーム名をまだ決めていないことに気がついた。

 率直に「町田宮高校ミニ四駆部チーム」とするのが最適なのだろうか。

 しかし、せっかくチームを組んでいるのだから、もっと良い名前にしないとな。

 

「G・H・Kってのはどうだ?」

「なんの略なの?」

「グレート・ヘルズ・キラーだ」


 我ながらいきなりかっこいいのを思いついたものだ、惚れ惚れする。


「はい、却下」


 レイに2秒で却下された。

 目が冷たい。

 ギャルのジト目は怖い。

 おかしい、めちゃくちゃかっこよく決まったと思ったのに。


「でもGHK自体は悪くないかな……うん、グレート・ハッピー・キッスって感じはどうかな?」


 俺のメタルで漆黒なチーム名が、いきなりガーリーにされてしまった。

 合言葉は「ハッピー⭐︎キーッス!」って感じでさ!とレイがはしゃぐ。

 決めポーズなんかもあると良いねとハクが乗っかる。


「そ、それはちょっと乙女チックすぎないか?」

「でもかわいくない?」

「かわいくていいのだー」

「オレはなんだっていいけど、さすがにヘルズキラーはウケる」

「あ、私もどっちでも大丈夫です」

「じゃ決まりね♪」


 ぐぬぬ。

 まぁ仕方がない、女所帯のこのチームではこっちのほうがいいだろう。

 それにどちらにせよ書類上、このチームは「GHK」なのだ。

 ハッピーのハの字も出てないからな、心の中ではヘルズキラーと呼んでおこう。


 受付を済ませて対戦表を確認する。

 1回戦の対戦高校は青島学園、男子校だ。 

 タイミングを見計らったかのように、背後から嘲笑を帯びた声が聞こえた。


「町田宮高ってなんだ、女ばかりじゃねぇか!?」


 振り返ると学ランの男子生徒の軍団がいた。

 リーダー格は2人。1人が赤、1人が青に髪を染めている。

 タミヤ魂的な気合いを感じる風貌だ。

 赤髪はひょろりと背が高く、青髪は押してもびくともしなさそうな巨漢。

 彼らの人相も相まって、青島学園チームは

治安の悪そうな空気を醸し出していた。

 うーん、トゲトゲがついた革ジャンが似合いそう。

 そして、我がチームにも治安など気にもかけないメンバーが一人。


「あん?女じゃわりぃのかよ、コラ」


 ルキがスカジャンの腕をまくり、ずんずんと青島学園チームへと向かっていく。

 だめだ、暴力沙汰はまずい。

 俺は慌ててルキを羽交締めにした。


「学校同士の試合なんだ、そういう争いはよしてくれ」

「わかってるって、だが今回初戦はオレにやらせてくれよ、こいつら黙らせてやるぜ!」


 そう言いつつも、ルキはメンチを切るのをやめない。

 わかってるようには見えないのだが大丈夫だろうか。

 試合形式は2先、つまり先に2勝したほうが勝ちとなる方式、なので最大で3走まであることになる。

 ふと青島学園のテーブルの上を見てみると驚きの光景が広がっていた。


「なぁ、ルキ。ちょっと見てみろよ、アイツらのマシン」

「ん……?なんだ……と……」


 青島学園の男子たちのマシンは全て同じ形をしていた。

 MSフレキ、前後ATバンパー、ボディもウイニングバードで統一されている。

 全員の知識を共有して、同じようなマシンを作り、安定した勝利を狙っていく。

 チーム戦の作戦としてはとても優秀な方法だ。


「仲良しこよしのコピーマシン軍団か、おもしれぇ、蹴散らしてやる!」


 ヤル気マンマンで少し怖い。

 相手は赤髪の背の高い男のほうだ。

 赤髪はルキの隣に並んでも、彼女を揶揄することをやめなかった。


「へぇ、女だてらにホエイル……ってそれG-Systemかよ!?ヤベェっ、ガチじゃんw」

「ふん……コース前でそんなこと言ってられるたぁ余裕だねぇ」


 2台がグリッドにつく。


「行くぜ青龍!!」


 シグナルがグリーンに切り替わる瞬間。


「……おっと」


 赤髪の男がルキの肩にもたれかかるように押したように見えた。

 ルキがバランスを崩した瞬間にシグナルグリーン、一瞬の戸惑いからスタートが遅れてしまう。


「……!!?」

「今押したよね!?あいつらー!」

「待てレイ、証拠もなしに訴えてももう無理だ、レースは始まってしまった」

「でも今の見たでしょ!?汚いマネして……」


 レイがキレるのも無理はない。

 彼らはルキとマシンを馬鹿にした。

 さらに反則行為にまで及んだのだ。

 それは俺たちがコツコツとマシンを作り上げてきた時間を笑い、踏み躙る行為だ。

 それだけではない。

 反則行為をしたことで赤髪は自分のマシンを侮辱していることに、気がつかないのだろうか。

 思わずルキの横顔を見たが、そこには何の気負いもなかった。


「まぁそうキレるなって、マシンを見てみろよ」


 ストレート一枚分ほど遅れてスタートしていたルキのマシン。

 しかし青龍はすでにウイニングバードに追いついていた。


「なんだこのサンドラ、めっちゃくちゃ速いじゃねぇかー」

「ま、まて、青いサンドラ……聞いたことあるぞ、青いサンダードラゴンの女……」


 青島学園の連中がざわつき始めた。

 そりゃそうだ、このあたりのレースに出てればこいつのこと知らない奴はいないだろう。

 彼女は町田最速のブルーサンダー、青龍使いのRUKI、その人である。


「オレに喧嘩売ったこと、後悔させてやるぜ!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・町田は神奈川

東京から神奈川にはみ出した地域が町田市で、東京都内ですが実質神奈川と言われていますw

町田宮高校は架空の学校で町田+田宮ってだけなのですが、住所は神奈川県設定ですw


・青島学園

架空の学校ではあるが、まぁほら、田宮的にね、ライバル的なね、意味合いがあってもね、いいかな、と。


・ATバンパー

オートトラッキングバンパーの略。

ホエイルから始まった技術だが、今はいろんな組み込み方で発展してきている。

一般的なものは上下の可動のみで、ホエイルのような0スラスト機構は搭載しない。

スラストを保持するためのギミックなども搭載されていることが多い。

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