第13話:ビンパツ1番

「で、これからどうする?」


 レイが質問を投げながら俺のほうを見る。

 トモがしっかり考察してくれたので、話はかなりラクに進められそうだ。


「うむ。まずレイのマシンは3レーン対策が必須になるな。もしかしたら大会用の3レーンマシンを別途作成したほうがいい可能性もある」


 艶雷のC-ATはまだ3レーンのレーンチェンジが難しい。

 速度をあげればあげるほどクリアが難しくなるだろう。

 であれば艶雷は公式戦用マシンとしてとっておき、3レーンスペシャルのマシンを作るべきかもしれない。


「うん、だよね、ちょっと考えておくわ」

「次はハクのソニック、今は簡易版のホエイルマシンにしているが、本格的なホエイルマシンを目指してもいいかもしれんな」

「でもそれって難しいんでしょ?あたしにできるかなー」

「大丈夫、俺たちも手伝うし、みんなで一緒にがんばっていこう」

「うん!おにいちゃんが手伝ってくれるなら、やるよあたし!!」


 ハクのマシンはホエイル化することでさらに安定性を上げていく。

 これでテクニカルコースはハクとルキに任せることができるようになるといいが。

 ただARシャーシだとMSフレキほどの制振性が望めない。

 ここをどうするかが課題になってくるかもしれない。


「トモのブラックウイングはこのままでほぼ大丈夫だろう、細かな修正と調整をしていく感じか」

「ですね、シャーシが変わったのでギアの位置だし関連を詰め直すのとモーターの育成、ベアリングなどのチェックになってきます」

「モーターの育成ならこれ使ってくれ、ワークマシンと電池使うよりずっとラクだと思う」


 ルキが持ってきた道具袋の中にはモーター育成に用いる安定化電源もあった。


「ありがとうございます、これがあれば捗ります!」

「ルキのマシンも俺らから言うことはほぼないな」

「まぁこのままいつも通りの運用と、コースや相手によってタイヤやモーター、ギアなんかも変えられるように物だけは用意しておくよ」

「あぁ、たのむ」

「で、部長はどうするの?そのマシンのままでいくの?」

「うーん……」


 考えてしまう。

 負けが許されない大会だ、ボディなんかにこだわっているわけにはいかない。

 こだわりは捨てろ、と俺がトモに言った手前、許されるわけもない。


「とりあえずボディを変えよう。プラボディ至上主義を謳っている場合ではないからな。ポリカのウイニングバードがあるからそれを使ってフロントヒクオを作る。これでギロチンよりも安定度は上がるはずだ。合わせてシャーシサイドの羽を落として、電池も落とす。軽量化も進めていこうかな」


 何気に俺が一番課題があるんだな。

 まぁいい、学校の大会ならお姉さんは関係ない、持てる知識すべてつぎ込んだ速いマシンを作ればいいのだ。


「予選はいつから?」

「あ、はい、来月の15日が予選で本戦は月末になります」

「だとすると2週間ちょいしかないのか……急いで仕上げていかなきゃな」

「とりあえず放課後は部室集合な。オレがツールの使い方とかみっちり教えてやるから」

「ありがとう、ルキ」

「かまわんよ、オレだって部員なんだからな」


 2週間、放課後は毎日部室にこもり皆でマシン製作に勤しんだ。

 部室の空気はじっとりと湿気を含み、窓からは初夏の日差しが降り注いでいる。

 レイは周りと相談しながら着実に艶雷を改善させていき、トモは持ち前の分析眼を活かしながら調整を進めている。

 ルキがやることは手慣れた作業ばかりだったので物足りなかったのだろう、積極的にアドバイスや手助けをしてくれた。

 心配なのはハクだったが、毎日おやつを持参して口を動かしながらもしっかり新しい機構を仕上げていく。

 ルキの持ってきた新しい機材もあり、製作はスムーズに進む。

 コース拡張用のパーツもルキが持ち込んでくれたので、3レーンコース対策もかなりできたと思う。


 そして決戦の日。

 俺たちは重要なことをまだ決めていないことに気付いた。


「チーム名、どうしよっか?」


ーーーーーーーーーー


解説:

・ワークマシン

使用していないシャーシなどを利用して、工具として使用すること。

たとえば、タイヤやギアを外しターミナルとモーターだけにして電池を入れれば、モーターをカラ回しさせられるので、育成可能となる。


・安定化電源

アダプターなどと同じで交流100Vを直流にし、電圧調整して使用できる。

安定化電源だと任意の電圧に設定できるので便利。


・ウイニングバード

ミニ四トップの主人公「九藤突風」の3&4代目愛機。

正確にはポリカ版は後継機のウイニングバードフォーミュラー。

幅広の戦闘機のような見た目でとてもかっこいい大変人気のボディです。


・シャーシサイドの羽

ほぼ全てのシャーシにはサイドに羽のような部分があり、ここからプレートを付けてマスダンなどを搭載する。

ただ、提灯を搭載する場合、基本あっても無駄なのでカットして軽量化などをする。

ちなみにシャーシ根本ギリギリまでカットすると、シャーシの剛性が落ちるので1mmくらい残すのがベターとされています。

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