第2章:俺と予選とライバル出現

第11話:魔女っ子メグちゃん

「んなっ!?」


 俺の幼稚園時代の呼び名じゃねぇか。

 なぜそれを知ってやがる!?


「めぐ……たん……?」

「おにいちゃん、めぐたんなの?」

「いや、あの、それはな」

「こいつの名前は仁って書いてメグミって読むんだよ、知らなかっただろ?」

「くっ」


 めぐみ。その響きは俺にとっては女性的すぎて、名乗るのに毎度気恥ずかしい思いをしている。

 だからこいつらの前ではジンで通していたのに、こんなところでバラされちまった。

 なんだか無性に恥ずかしい。

 しかしレイ達は俺の名前についても「へぇ〜」ぐらいの感想しか持っていないようだった。

 それもなんだか悔しい。

 気にしている自分が馬鹿みたいじゃないか。


「まぁそんなことはどうでもいいんだけどよ、大会に向けての調整とかしてくんだろ?オレの持ってる機材とか部室に持ってってやるから、明日放課後、ミーティングな」

「はい、ありがとうございます」


 その後、それぞれ帰路についたわけだが。

 瑠姫……なぜ俺のこと……幼少期に会ってるってことなのか?思い出せない。

 鬼龍院……珍しい苗字だがこれも聞いた覚えがない……いったいどこの知り合いなんだ。

 しかしあの目、少しキツい感じの目つきに覚えがある気がするのだが……思い出せん。

 一個上だろ……そんなやついた記憶はないぞ……。


「お、狭間、持ってきたぞ」


 翌日、部室に向かっているところで瑠姫に声をかけられた。

 彼女の両手は大きな袋で塞がれている。


「ん、あぁ、そういえば工具とか、貸してもらえるんだったな」

「おぅ、とりあえず使ってないリューターは部室に置いておいて、充電器のX4ももう使ってないからこれも置いとこうと」

「X4!?使ってないのか?」

「おぅ、後継機も持ってるしもっとマニアックな充電器もあるぜ」


 さすがにガチ勢は違う。

 X4はミニ四駆の充電器の中は高級な部類に入る、高性能充電器だ。

 充放電を細かく設定でき、電池のリフレッシュなども可能だ。

 袋の中を見せてもらうとリューターもプロクソンのものだった。


「これプロクソンか?これだって業務用というか、高級なリューターだぞ?」

「これより小型でパワーのあるリューターも旋盤もあるし、もう使ってないから有意義に使ってくれよ」


 ありがたすぎる。

 そういえばさっき、俺のことを狭間って呼んだな。


「なぁ……なんで俺の名前を知ってたんだ?俺たち会ったことあるのか?」

「やっぱり覚えてねぇか……まぁ仕方ねぇな」

「とりあえず、めぐみ呼びは……」

「わかってるって、だからさっきから苗字で呼んでやってんだろ」

「う、うん、ありがたい」

「しかし覚えてないか……まぁそれはそれでおもしろいからいいか」

「……すまない、しかしどこでの知り合いなんだ、おs」

「あ、ぶちょー!」


 瑠姫に迫ろうとしたところを、すんでのところでレイの大声に遮られる。

 レイ、ハク、トモが校舎脇の細い通路をぱたぱたと走ってくるのが見えた。

 揺れるレイの短い夏服のスカート。

 こんなにも暑いのに、今日もトモは真っ黒いタイツを履いている。

 ハクは両腕いっぱいに菓子パンを抱えていた。

 何も言えなくなった俺に、瑠姫はフッと微笑んだ。


「まぁほら、思い出した時にでも教えてくれよ、そん時にでも話すわ」

「ぐぬぬ……」

「どうしたの、ぶちょー。何か話してたみたいだけど?」

「あぁ、瑠姫がいろいろ持ってきてくれたぞ」

「えっ、あっ、これ全部ですか……?!」

「わー!本格的な道具がいっぱいだぁー!」

「こんなに道具が揃ったら、全国大会でも勝てちゃうんじゃない?!」


 いろいろわからんがまぁとりあえずだ。

 今大事なのは全国大会!これに焦点を絞っていかなければならい。

 全国大会には地区予選を勝ち抜く必要がある。

 昔は県内に2校くらいしか部活がなかったらしいが、今はウチを入れて4校もミニ四駆部あるらしい。

 最低でも2回、勝たないと全国への切符は手に入らない。

 また対戦相手、コース内容などはその時までわからない。

 なのでどんな相手でもどんなコースでも戦えるようなチームを作っていく必要がある。

 さっそく部室に行ってミーティングを行うことになった。


「瑠姫さん、工具とか、ありがとうございます」

「礼には及ばないぜ、うちでは使ってないものだし、好きに使ってくれ。あ、あと、さん付けはいらないよ、ルキでいい」


 ガレージでは孤高のレーサーといった風情だったが、仲間には優しい気質のようだ。

 トモはルキを前にするとやや緊張していた様子だったが、工具を提供されてすっかり絆されてしまったようだ。

 レイなんかは「ルキまじ太っ腹、かっこよすぎじゃん?」なんてボソボソ言っている。

 ハクはあんぱんとジャムぱんを交互に頬張っている。

 たくさん食べて大きくなれよ。

 

「よし、それじゃ大会に向けての方針、戦略を考えていこうと思う」


 場の空気を切り替えようと俺が発言すると、トモがぴっと右手を挙げた。


「あ、あの、私、少し考えてきました」

「聞かせてくれ」


ーーーーーーーーーー


解説:


・X4

ハイテック製の充電器。

アドバンス3、アドバンスEX、MINI、PROなどバリエーションも多い。

充電、放電の機能にサイクル充電という充電と放電を繰り返す機能、デルタピーク認識、その他機能も豊富で、電池育成、管理ができる。

価格は5000〜30000円ほど。

3万円の充電器!?となると思いますが、もっとすごい充電器は沢山あります。

充電器沼という世界もあったりw


・リューター

小型の電気ドリルのこと。

2mmとか細い穴を開けるのに便利で、ミニ四駆改造のFRPやカーボン加工に必須な道具。

実はリューター沼という世界もあり、ミニ四駆界隈は業が深いw


・プロクソン

キソパワーツール社の工具製品群の名称です。

リューターや旋盤などの工具を古くから製作販売しているメーカーです。

渋いグリーンにカラシ色のワンポイントが目印。

日本製で精度も高く、価格も比較的安いので入手しやすいです。

東急ハンズなどでもよくみかけます。

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