第7話:ヤンキー烈風隊

「あと一人、部員が足りないの!」


 なん……だと……。


「部活としては動けるんだけど、全国高校生大会の予選には5人1チームで登録する必要があるんだよぉ」

「予選の登録、最終日はいつなんだ?」

「……月末の金曜が締め切り」


 残り1カ月切ってるじゃないか!?

 いくらブームと言われていても高校生でミニ四駆をやってるやつはそうそういないし、現に俺の周りのヤツらはみんな辞めてしまっている。


「わかった、とりあえずビラを作って部員募集とか、やれることをやってみよう。俺も周りの元レーサーな友達に聞いてみる」

「ビラなら作ってみる!あたし絵とか得意なんだよー」

「助かる、ありがとうハク」


 週明けからビラ配りや声かけを開始する。

 しかし目ぼしい返事は得られない。

 もともとミニ四駆を知らないという人もいるし、高校生にもなってオモチャにうつつを抜かすのは……という人もいる。

 ミニ四駆ファンがいないわけではなかったが、いずれも部活動としてチームで競技会に参加することに、ピンときていないようだった。

 俺の周りの元レーサーも他の趣味や部活に忙しく、簡単にはいかなさそうだ。


 このままずるずるとタイムリミットを迎えるのか?

 そんな焦りが胸を燻り始めた水曜日の夕方。

 部員みんなでGsガレージに買い物に行ったとき、「そいつ」は現れた。

 龍の刺繍が入った青いスカジャン。

 さっぱりとしたウルフカット。

 アシメの前髪にはブルーのメッシュ。

 チュッパチャプスをくわえて佇むその姿は、長身なのも相まってかなりの迫力だ。

 そう、こいつはGsガレージ店舗レースで最速と言われている女子。

 町田最速の女ーー通称「青い稲妻」。

 俺も何度か勝負してはいるが、勝ったことは一度もない。

 たしか名前は「RUKI」。

 今日も練習しているようだが、よく見るとスカジャンの下に着ているのはうちの制服じゃないか。


「おい、レイ、あの子知ってるか?うちの学校の制服だよな?」

「ほんとだ、リボンの色からして…2年生だね、先輩じゃん」


 2年であれば校内で会ったことがないのは仕方がない。

 少しヤンキーっぽいルックスなので声をかけるのにも勇気がいるな……。

 そう考えていたらレイがいとも簡単に声をかけていた。


「先輩、初めまして!わたし町田宮1年の早見玲子っていいます!レイって呼んでください!」

「……おぅ、なんか用か?」

「あの。今度、全国高校生ミニ四駆選手権に出ようと思ってるんだけど、あと1人、メンバーが足りないんです」

「へぇ……ってことは部活が出来たのか」

「はい」


 傍から近づいてみるとRUKIと目が合った。


「アンタも部員なのか?」

「あぁ、同じ学校だったんだな」

「オレはおまえのこと、知ってたけどな」


 お?こんな実力者に知られていたとは、俺とリバティも有名になったということか?


「もしよければ、一緒に大会に出てくれませんか?」

「おぅ、いいぜ、部員になってやっても」

「本当ですか!」

「あぁ、ただし1つ条件だ。オレと勝負して勝てたら部員になってやるよ」


 それは不可能と言えるレベルの条件だ。

 何度かレースで当たっているが、こいつのサンダードラゴン、はっきり言ってバケモノだ。

 MSフレキにGシステムというスライドダンパーをオートトラック式に改造した組み合わせ。

 MSフレキというのはMSシャーシをフレキブルに動かすサスペンションのような仕組みだが、これがまぁ強い。

 その強さは「フレキの存在が今のミニ四駆人気を作った」と言わしめるほど。

 そしてGシステム、外見からそうと判別はできるが、内部構造は公開されていないものだ。

 制作できているだけでもすごいが、その上でノーマスダンで制振している、マジでありえない代物だ。

 電池やモーターの育成にも精通しているのか、作業用のテーブルの上には見慣れない専門的な充電機などがならぶ。


「わかった!勝負ですね!」

「待て待て待て待て、ちょっと待てレイ」

「え、なになに?部員になってもらうためっしょ?ここは勝負しなくっちゃ」

「いいから見てみろ、今走ってる青いマシンがあいつのマシンだぞ」


 Gsガレージに置いてある常設5レーン。

 このコースは2016年ジャパンカップのレプリカコースとなっているが、難易度が高いことで有名なコースだ。

 そんなコースを見たことないような速度で駆け抜けている、青い雷龍。


「めっちゃ速い……」

「だろ?俺も何度か店舗レースで対戦したことがあるが、勝った記憶はない」

「うは〜、ヤバ〜!」


 他の案を考える必要がある。

 ただこいつが仲間になってくれるのであれば、これほど頼りになるやつはいないのは確かだ。

 どうしたものか、と考えているとまたレイが話を進めてしまう。


「じゃさ。月末の水曜日に、ここで勝負でいいですか?」

「わかった。まぁ、がんばってな」

「待て待て待て待て、ちょっと待てレイ」

「んもー、なに?」

「さっきの見ただろ?アレに勝つのがどれだけ大変かわかってるのか?」

「でもここで勝てない程度だったら全国大会でも勝てないじゃん」


 確かに、正論だ。

 こんなクレバーな思考ができる子なのか。


「……わかった、レイの言う通りだ」


RUKIがくっと笑ってみせる。


「いい根性してるよ、気に入った。勝負はアンタとしたい。レイ、受けてもらえるか?」

「わかった」

「待て待て、マジかおい大丈夫か」

「あと2週間くらいあるし、やるだけ気合いでやってみる!みんなも協力してくれるっしょ?」

「わかったにゃー!」

「あ、私もできることならなんでもするよ」

「はぁ、じゃあこの勝負、レイに賭けるぞ!」

「うん!」


 意気揚々と店を出たところで、レイがぴょんっとジャンプしてこちらを振り返った。


「わたし、このマシンを作ってみたい!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・ブーム

1次ブームがダッシュ四駆郎時代で80年代、2次ブームがレツゴー時代で90年代。

3次ブームがジャパンカップ復活から。

現在では4次ブームとなっているのか?


・サンダードラゴン

漫画「ラジコンBOY」登場のドラゴンシリーズ第3弾。

それまでのシリーズと違い、直線的なフォルムがまたかっこいい。

今でも人気のあるボディだが、スリムすぎて幅広の両軸シャーシには乗せにくい。


・MSフレキ

両軸シャーシで現在最強のシャーシと言われているMSシャーシ。

最強の理由がこの「フレキ」。

正確な名称は「フレキシブルなんちゃら」というみたいですw

3分割できるMSシャーシの特徴を活かし、隙間にバネを仕込むことで捻れるように。

そのバネの中にゴムリングなどでショックアブソーバーを入れることでサスペンション化もする。

これにより着地もスムーズになる。

近代ミニ四駆の技術の結晶のような仕組みです。

制作難易度も高く、上級者への登竜門とも言えるかと思います。


・Gシステム

スライドダンパーとATバンパーを組み合わせ、さらに制振機構を併せ持つ仕組み。

昨今のスタンダードと言える改造に近いが、ノーマスダンでも着地がいい特徴を持つ。

ただし組み方はどこにも載っておらず、幻のギミックとされている。

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