第5話:爆走兄弟レッツ&ゴー
「れ、烈兄貴?」
「そうなの、あこがれなのー」
爆走兄弟レッツ&ゴーの登場キャラクターで主人公の1人、「星場烈(せいばれつ)」。
弟の豪がスピード重視なのに対し、烈は空力とコーナーリングで勝負をかける。
漫画やアニメに詳しくなくとも、ミニ四駆好きであれば知っている人も多い。
しかし、憧れ?
よく分からないけど、腐女子とかそういう感じか?
「レツゴー知ってるのか?」
「知ってるよー、ちっちゃいころずっと見てたもん」
再放送か。
90年代の作品なはずなので当然リアルタイムではないはずだ。
「でねー、烈兄貴がいっつも冷静で、カッコ良くって、大好きだったのー」
「なるほどな、たしかにカッコよかった」
「そうなの!カッコいいの!だからねーソニックでがんばるのー!」
プレミアムキットのハリケーンソニックはARシャーシ。
丈夫で扱いやすく、なかなか速い。
なるほどね、烈か……。
レイのマシンがちょうど大径で直線に強いから、この子のマシンはコーナー向けに仕上げていくのはいい考えだ。
「じゃ、ソニックはコーナーリングマシンにして行こう!」
「うん!烈兄貴と一緒だねー。でもあたし、難しいことはあんまし出来ないよ……?」
「わかった、じゃ簡易ホエイルを作ろう」
「はぁ?!ホエイル……ってあれ、めちゃ難しいやつじゃないの?」
レイが身を乗り出す。
どうやらホエイルを知っているようだ。
「そうだ、本物のホエイルはめちゃくちゃ難しい。だが今回作るのは簡易、出来るだけ簡単なホエイルっぽいマシン、それを目指す」
「ほぇぇ……でもできるだけ簡単ならがんばれるかも!」
「そうだ、簡単でもコーナリングが速いぞ。がんばって烈兄貴を目指そう!」
「あぃ!!」
在庫からパーツや工具をそろえる。
けっこうモノは買ってあるようで、このまま改造できそうだ。
「まずこの弓型のフロントワイドステーFRPを2枚重ねてくっつける。下側の端っこは斜めに切り取ってからな。くっつくの待つ間にこのミニ四駆キャッチャーを……この型紙の通り切ってみて」
「うん……けっこう硬いね、これ……」
「ちょま、これってあれっしょ?走ってるミニ四駆受け止めるやつ。こんなのまで部品にしていいの?」
レイが驚くのも無理はない。
どう見ても部品ではないからな。
しかし公式大会でも使用OKとされている以上、立派な「パーツ」なのである。
「切れたらマジックで点を打ったとこに目打ちで穴を開けて……OK!こいつをボディに開けた穴と合わせてビスで止めて……そう、いい感じだ。シャーシのバンパーは切っておいたから、裏からビスを入れて、そう、そこだ」
「よいしょ、よいしょ……」
ビスを回すのにも一生懸命な姿がかわいい。
俺は保護者のような気持ちでハクを眺めた。
きっと妹がいるってのはこんな感じなのだろう。
「よし、そのネジにバンパーをボディごと持ってって……入れる!最後はバネをネジに入れてからロックナットを逆さまにに止める」
「おりゃーーーー!」
「すばらしい。後ろも同じようにネジ入れてバンパー乗せてバネ入れてロックナットだ」
「たいへんだーーー」
「がんばれ!もう少しだ!」
「うにゅにゅ……とわぁーーーー!」
「よっし、完成!」
「やったーできたー♪」
これが簡易ホエイルだ。
ピボット式バンパーではないが、0スラスト化と上下の可動はできる。
この0スラスト化というのがホエイルの肝だ。
ミニ四駆の前後四箇所に設置するローラー。
主に機体がコーナーで飛び出すのを防いでくれる。
このフロントローラーには前方向に向かってわずかに角度がついている。
これをスラスト角という。
ローラーが壁に当たるとスラストが作用し、機体に下方向へ押さえつける力がかかる。
つまりこの下に押さえつける力を利用し、スピードを殺して飛び出さないようにしているのだ。
しかしホエイルはこのスラスト角を0にする仕組みである。
ミニ四駆がコーナーで飛ぶ。
それは機体がコーナー入り口にぶつかった瞬間に起こりやすい。
だから機体がコーナーにぶつかった瞬間だけはスラストをかけたい。
しかしその後のコーナリングでは抵抗をなくしたい。
ホエイルはそれを可能にした機構である。
飛びやすい瞬間にだけスラストをかけ、その後のコーナリングではスラストをゼロにしてコーナーで差をつける。
カーブで魅せる烈兄貴に憧れるハク。
ホエイルはそんな彼女に相応しい仕組みであると言えよう。
「さっそく走らせてみるね!おりゃー!」
モーターはライトダッシュだが軽快な走りを見せている。
ライトダッシュは初心者にも扱いやすいモーターだ。
比較的パワーはなく、速くもなく遅くもなく。
つまり誰であっても機体を飛ばさずに走らせることができるモーターだと言える。
「ほんとだ、コーナーであんまり減速しなくなってる」
「コーナーに入るとバンパーが傾いてローラーの角度がなくなるのさ。これが0スラストだ」
「それだとレーンチェンジで飛び出しそうだけど……」
「その通り。でもレーンチェンジで車体が浮くとボディも浮き上がり、バンパーとキャッチャーでくっつけてるから……こう動く」
ボディを開いてバンパーが動くところを見せる。
ボディと連動してバンパーに角度がついて、レーンチェンジでのコースアウトを防いでいる。
「マジかよ〜!これが……こうなるのかぁ。ホエイルやばー!」
「パッカンパッカンするねー!おもしろーい」
「まだまだ色々手を入れられるが、とりあえず今回はここまでかな。もっといろいろ出来るから、またやっていこうな」
「うん!」
とりあえずハクのマシンはよし……と思ったが、彼女は何か言いたげにこちらをジーッと見ている……なにか問題でもあるのだろうか。
「ど、どうしたんだいハクちゃん、俺の顔になんか付いてる?」
「……うーん、やっぱり烈兄貴みたい!なんでも知ってる!すごいね!兄貴だ!」
どういう思考回路をしているのかわからんが、褒められていると思うことにしよう。
「だから今度からお兄ちゃんって呼ぶねー!」
「「「ぶっ!?」」」
3人同時に吹き出した。
ちょっと不思議な子だ。
「最後は智さんのレイホークガンマだな」
「あ、トモでいいですよ。それとこの子はレイホークガンマなんて名前じゃないです」
……?
「ブラックウイングです!」
ーーーーーーーーーー
解説:
・爆走兄弟レッツ&ゴー
90年代にコロコロコミックに連載されたミニ四駆、アニメ化もされている。
通称レツゴー。
ミニ四駆ブームの第2期を牽引した作品。
・星場 烈
レツゴーの主人公、星場兄弟の兄。
猪突猛進な弟に対して、冷静で知略に長けている。
コーナーリングマシンが得意で、愛車はソニックと呼ばれる系統のマシン。
イタリアンカラーがかっこいい。
・プレミアムキット
以前販売されていたモノのリメイク版キットのこと。
内容が最新のシャーシなどに変更されていて、ボディもさらに洗練された物になっている。
・フロントワイドステー
幾つかの種類があるが、ここでは弓形のFRPやカーボンバンパーのこと。
使用頻度が高く、特にカーボン版は品切れが続いていて入手が難しいこともある。
・ホエイル
マシン作成の概念の1つとされている。
ミニ四駆博士おじゃぷろ氏が考案し、現在も製作が続けられている。
ホエイルがなかったら昨今のミニ四駆の技術発展はなかったのでは、と言い切れると思う。
要素としては
矢の性質
という物理的要素と
調整精度
制振性
補正力
というミニ四駆的要素の物理的な1つ+ミニ四駆的な3つの要素(と概念)がホエイルを構成しています。
・簡易ホエイル
ホエイルシステムからスラスト可変とATバンパーという仕組みだけを搭載したマシンのこと。
簡単な割に安定性が高く、速度も出る。
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