第4話:はじめてのギャル

「まずはレイのアバンテからだ」


 マシンを少しバラさせてもらう。

 まずボディが……なんでこんなに重いんだ。

 裏返してみるとジェルネイル?的な塗料でベッタリだ、これじゃせっかく軽量のポリカーボネイトボディが台無しになってしまう。

 だがここは突っ込むのはやめておこう、見た目に関しては好きにやったほうがいい。

 その方が好きになれる、好きの入り口になる。


「個性的なボディだな」

「でしょー!1番力入れてるもんね」


 うんうん、わかるー。

 さて、次はギアボックス。

 ん?モーターがマッハダッシュなのか。

 ギアが3.5:1ハイスピードギア、それにマッハ……

 ギア比の考え方はモーターが3.5回まわると1回タイヤが回る、これが3.5:1となっているが、これだとギア比が重くパワーが出ない。

 自転車のギアと同じで、ギアが軽いと楽に漕げて、ギアが重いと漕ぐのが大変、こんな関係だ。

 しかもピンクスペシャルは大径ローハイト、タイヤ径は最大種の30mmオーバーだ。

 スピードが乗るまで時間かかるし、乗ったら乗ったで制御できない。

 こんな構成、初心者が使うべきじゃないな。


「なんでマッハダッシュモーターなんだ?」

「え?だって1番速いんでしょ、そのモーター」

「速いよ。ただこのマシンには合ってないな」

「合う合わないがあんの?」

「あぁ。1つ1つ説明していくと、まずこのマシンはタイヤが大きい。タイヤが大きいとそれを回すためにモーターにトルク、つまりパワーが必要になる。でもモーターがマッハダッシュ。こいつは速度は速いが最大回転に達するまでに時間がかかるんだ。ギアも3.5:1でこれも1番速いギアで最高速は伸びるがその分、パワーがない。ギアとモーターがパワーを出せない組み合わせなのに、パワーが必要なタイヤを使ってる。チグハグなんだ」

「マジかー。速いパーツを組み合わせたら速くなると思ってた」

「実際、最高速度は速くなるのは確かさ。ただその美味しいところを使うのが難しいし、速度が出過ぎでコントロールも難しいだろ」

「確かにうちのコースでも飛び出しちゃうんだよね」

「だろうな、速度が乗ったらどんな改造しても飛び出すだろう」

「はあ〜!まっじかぁー……」


 レイは机に突っ伏し、「あー、そういうことねー」と呟きながら手足をバタつかせる。


「……でもすごいね、走らせてないのに見ただけでわかるんだ」


 この程度ならミニ四駆をある程度やってればわかることなので、羨望の眼差しを向けられると少し困る。


「ねね、じゃどんな風にしていくのがいいと思う?」

「タイヤの加工はすぐには難しいから一先ず置いておいて、モーターをハイパーダッシュに、ギアを4:1ギアに変更しよう。それだけで充分コントロールしやすくなるはずだ」

「わかった、やってみる!」


 レース用に予備のパーツもいくつか持ってきていたので、レイのアバンテに俺のハイパーダッシュ2号をつけておいた。


「このモーターはもう慣らしてあるから、すぐ使えるはずだ。フロントバンパーもFRP2枚重ねにして2段ローラーにしたから、これである程度の速度を出したままレーンチェンジも入ると思う」

「どして?」

「レーンチェンジの失敗って、バンパーに起因することが多いんだよ。バンパーが貧弱だとコーナーに当たる衝撃で反り曲がってしまう。それでコーナーのカーブをいなせずに飛んでしまうんだ。バンパーを二重にすると頑丈になるだろ?」

「あーね、反り返るのを防いで飛びづらくなるってことだ」

「そういうこと」


 軽く走らせてみるとそこそこ安定して走っているようだ。


「すっご、前までコーナーですぐ飛んじゃったりしてたのに……しっかり走ってるじゃん!ありがとう!やっぱアンタ、神だよ!」

「だからアンタとか神とかよせって」

「あっは、ごめん。でもそうだ、部活の部長さ、ジンがやったほうがいいと思うんだけど、どうかな?引き受けてくれない?」


 部活にやってきた初日にいきなり部長というのも急な話だ。

 しかしレイのマシンを見るとその方が良いかもしれないと思える。

 レイも現状の知識と経験で部長をやるのは大変だろう。


「わかったよ、俺が部長を引き継ぐ」

「そのほうがいいと思う!これからもよろしくな〜、ぶちょー!」


 そう言いながらレイはヘッドロックをかましてくる。

 俺は避けることができずにつんのめった。

 最初から気になっていたが、どうもこの子は距離が近い。

 嫌なわけではないが、こう顔が近かったり軽々しく触れられたりすると、少し恥ずかしい。

 ただでさえ、なんというか、その、レイはお胸がご立派でいらっしゃるのだ。


「はいはい、よろしくわかった、とりあえず離してくれ!」

「あっはー、ごめんごめん」


 レイのやつ、無自覚なのか分かってやっているのか……。

 俺たちの様子を見て、ハクがぷくりと頬を膨らませる。


「もー、レイちゃんばっかり!次はあたしのマシンを見てよー。烈兄貴とおんなじソニックなんだー」

「れ、烈兄貴?」


ーーーーーーーーーー


解説:


・ギアボックス

片軸シャーシはモーター横、両軸シャーシはセンターにある、ギア部分が集中している部分のこと。


・マッハダッシュ

現在は両軸のものしか販売していないが、以前は片軸もあった。

(現行ルールでは公式大会使用禁止)

両軸では最高回転数を誇る最速モーター。

その代わり消費電力がとても高い。


・ギア比

タイヤが1回転するのにモーターが何回転するのかの比率。

3.5:1であればモーターが3.5回まわるとタイヤが1回転する。

左の数値が大きいほどパワーが出るが基本的に速度は落ちる。


・ハイパーダッシュ

両軸、片軸両方に存在するハイスペックモーター。

回転とトルクのバランスがよく、もっとも使用率の高いモーターである。

両軸はハイパーダッシュプロ、片軸はハイパーダッシュ3というが、ハイパーダッシュ2という過去販売していたモーターもあり、これは現行レギュレーションでも公式大会で使用できる。


・ローハイトタイヤ

ハイト(幅)がロー、つまり幅が狭いタイヤのこと。

この名前、ほんと混乱を招く…w

基本的に主流のマルーン、スーパーハードなども全てローハイトだったりします。


・FRP

繊維強化プラスチックのこと。

バンパーなどのパーツとして売られており、加工などもラクで価格も安く扱いやすい。

カーボンと比べると柔らかく、重量も少しある。


・レーンチェンジ

ミニ四駆のコースの作り上、どうしても内側の距離が短く有利になってしまう。

なのでレーンを交代する仕組みが必要になるがこれがレーンチェンジ。

内側から大外に斜めにアーチをかけて飛び越すようにレーンを交代し、その下を他レーンが潜ることで走行レーンを入れ替える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る