第3話:おしえて先生!
「みんな、ミニ四駆の先生連れてきたよ!」
音楽室にいた2人の部員から注目を浴びて俺は顔が熱くなるのを感じた。
「ミニ四駆の先生」はやめて欲しい、かなり恥ずかしい。
「あー、レイちゃんお帰りー!おー?男子だー」
「あ、え、男子……」
音楽室内の広い教壇スペースの上にはコースが置いてあり、いつでもマシンを走らせられるようになっていた。
パイプ机を6個くっつけて作業台として使っていて、そこにはマシンや工具が広げられている。
机に向かっている部員たちは2人とも女子、つまりミニ四駆部は俺以外全員が女子だ。
「紹介するね。こっちの小さいのが琥珀、向こうの黒髪ロングが智」
「んもう、ちっちゃくないのにー。初めまして、1年の小日向琥珀です!ハクって呼んでくれたまえー!」
ハクと名乗った女子が勢いよく立ち上がった。
栗色の髪がふわふわと揺れる。
レイの紹介の通り背が小さい。
幼い顔立ちや柔らかそうな髪も相まって小動物のような印象を受けた。
首元の黄色いスカーフがなかなか似合っている。
リスにたんぽぽを持たせたらこんな感じだな。
ふにゃふにゃした喋り方だが、元気でかわいらしい子だ。
「あっ、初めまして、伍代智です。あの、みんなはトモって呼びます」
こちらの女子は清楚な感じだが、黒髪、黒ぶち眼鏡、黒タイツと、すべてが黒かった。
レイとは違って制服をかっちりと着ている。
全体的に線が細く儚げな面持ちだが、太眉が素敵で大変すばらしい。
しかし男子が苦手なのか少しおどおどしているようで、俺は申し訳ない気分になる。
初めまして、狭間です。
そう言いかけると、横からレイが口を挟んだ。
「この人、さっきGsガレージのステチャン出ててさ、めちゃ速かったんだよ!」
「すてちゃん?お店のレース大会のことー!?」
「あ、ステーションチャレンジ……。タミヤ公式大会の予選みたいなものらしいけど」
「すごいなー!ジャッパンカップ以外にも大会があるんだねー!」
速いと言っても、さっきの決勝で負けたんだけどな。
そう自分で付け足して、俺はちょっぴり落ち込んだ。
今回のショップ予選、是が非でも勝ちたかった。
お姉さん!貴女のリバティで勝ちました!本戦もこのまま走り抜きますよ!
……なんてな。
予選前はそんなことを彼女に宣言する妄想をしていたものだ。
それは自信があったからこそなのだが、実力はまだ届かない。
「それでもすごいじゃん!わたしらからしたら神だよ」
「神!おーまいがー!讃えちゃおー」
「あ、神ですか……素晴らしいです」
「神とか先生とかやめてくれ……恥ずかしい。とりあえずみんながどんなマシンを作ってるのか、見てみたいんだが」
すると3人は使っているマシンを机に並べてくれた。
まずはレイのマシン。
アバンテMK2ピンクスペシャル。
このキットはMS強化シャーシ、ポリカの軽量ボディ、大径ローハイトのハードタイヤが付いているたいへんお得なセットだ。
その名の通り、鮮やかなピンクでかわいらしいマシン。
ポリカボディをネイルシールやラメ塗装してデコってあり、ギャルらしい誂えになっている。
FRPーー繊維強化プラスチックでバンパーも補強もされているし、ローラー周りもしっかりしているように見える。
ハクのマシンはハリケーンソニック。
ARシャーシってことはプレミアムエディションか。
初期に発売されたものではなくリメイク版で、最新の片軸シャーシであるARシャーシになっている。
頑丈で初心者にも扱いやすい、いいシャーシだ。
コーナーリング時にマシンを支えるためのスタビライザーは一応付いているが、それ以外ほぼ素組みのようだ。
モーターはライトダッシュ、それならばこのセッティングで十分走れそうだ。
トモは……これ、レ、レイホークガンマか!?なんとレアな……こんな古いマシンどこから手に入れたんだ。
2012年に再販されているとはいえ、もう入手する手段は少ないレアマシンだ。
しかも改造がすごい。
フルカーボン、バンパーレス、フルベアリング、しかも緩衝機構のマスダンパーがノリオ。
マシン後部、シャーシの下側からサイドにプレートを伸ばしマスダンを付ける仕組みを通称「ノリオ」というが、現在では使用者をほとんど見ないようなレアな改造でもある。
これはパッと見ただけで速そうな感じだ、どこでこれだけの改造方法を覚えたのか。
コーチなんて必要ないようにも思われるが。
しかしマシンまで黒を選ぶとは……。
「どう?わたしたちのマシン見てどんな感じよ」
「とりあえず1人1人、話しながら方向性を決めていくのがいいだろう。所持金や手先の器用さ、やりたいことなんかもみんな違うと思うし」
なるほど、と頷く3人。
「まずはレイのアバンテからだ」
ーーーーーーーーーー
解説:
・ステーションチャレンジ
タミヤ認定ショップで定期的に開かれている大会。
優勝するとタミヤ本社で開催される本戦への参加権を得られる。
・アバンテMK2
RCカーで有名なアバンテの2代目となるマシン。
初代の丸みを持った形状から一新し、鋭利なスタイルで現在も人気のボディである。
・MSシャーシ
3分割できる特殊なシャーシ。
フレキと言われるギミックを搭載でき、現行最強シャーシと言われている。
・ポリカ
ポリカーボネード製の透明なボディのこと。
薄く軽く、柔らかいため衝撃にも強い。
・大径ローハイトのハードタイヤ
ミニ四駆のタイヤには小径、中径、大径がある。
大きいほど最高速が速く、小さいほどパワーがあり加速がいい。
ローハイトは幅が薄いタイヤで、跳ねにくく高性能。
ハードタイヤはミニ四駆のタイヤで3番目に固く、グリップとコーナーリング時のスライド感とのバランスがいい。
・ハリケーンソニック
爆走兄弟レッツ&ゴーの主人公、星場 烈の3代目のマシン。
サイクロンマグナムと対になっている人気のあるマシン。
・ARシャーシ
片軸シャーシでもっとも固いシャーシ。
ホイールベースが長く、直進安定性が高い。
全シャーシ中、唯一、シャーシ裏側から電池とモーターが変えられるのでボディを外す必要がなく、メンテ性が高い。
・スタビライザー
コーナーリング時のマシンの横転を防ぐパーツ。
実車のモノと違い、コースの壁に当てて遠心力に耐えられるようにする、要するにつっかえ棒です。
・ライトダッシュ
ダッシュ系モーターではもっとも扱いやすいモーター。
初心者におすすめ。
・レイホークガンマ
ダッシュボーイ天に登場する岩魔零のマシン。
薄く、戦闘機のようなシルエットがとてもかっこいいです。
再販してほしい……
・フルカーボン
全ての補強パーツをカーボンで製作すること。
手間もお金もかかる。
・フルベアリング
ローラーや足回り全ての回転軸にボールベアリングを搭載すること。
ガチマシンなら必須の装備となっている。
・マスダンパー
着地衝撃を吸収するための錘パーツ。
元々はF1で実用化されたものが始まりです。
・ノリオ
本文説明通りのちょっと古いギミック。
ただその制振性は侮れないです。
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