第2話:GALS!
「キミ、ミニ四駆部に入らない?」
突然の出来事に対応できずにいると、女の子が話し出した。
「あ、あの、いきなりごめんね!いやぁさっきのショップレース、わたし見てたんだよね。バリ速かった!」
さっきのレースを見られていたのか。
ということは勝負が決まった瞬間の嘆きのプラトーンポーズも見られていたということになる。
……恥ずかしい、オリバーストーン監督に謝りたい。
よくよく彼女のことを見てみると、俺が通う町田宮高校の制服を着ている。
セーラー服のリボンはあえて外し、短いスカートを覆うように腰にカーディガンを巻いている。
ピンクに染められた髪はハーフアップでまとめられ、ヘアピンやらネックレスやらブレスレットやら、ポップでキラキラしたアクセサリーが全身を飾っている。
制服のルーズな着こなしやアクセサリー使いはギャルのような雰囲気を醸し出していた。
しかし、ギャルのような出立ちの女子の口からミニ四駆の話題が飛び出すとは。
俺は少したじろいだが、彼女はそれに構わず捲し立てるように話し続ける。
「えっと、そういや名前言ってなかったね。わたしは玲子、早見玲子。町田宮高校のミニ四駆部の部長やってるんだけどさ」
「待て待て待てちょっと待て、うちの学校にそんな部活あったのか?聞いたことないぞ」
入学時に全ての部活をチェックしていたが、そんな部活はなかったはずだ。
あれば当然だが入っている。
「だよね。実は最近立ち上げたばっかでさ」
「ミニ四駆部なんて、よく設立の許可が降りたもんだな」
「や、設立っていうか、復活だったから。割とすんなり申請通ったかな」
「復活?ということは以前は存在した部活なのか?」
「らしいよ。わたしもびっくり。なんかぁ、昔に大会で優勝とかしたこともあったんだって」
「大会って……」
「えっと、全国高校ミニ四駆競技大会ってヤツ」
全国高校ミニ四駆競技大会ーーそれは高校生だけが参加できるミニ四駆の大会である。
高校生大会と聞いて侮ることなかれ。
そこでは全国津々浦々から猛者が集まり、ミニ四駆ジャパンカップなどと遜色ないレベルの高い戦いが繰り広げられている。
そんな大会で優勝とは……かつてはミニ四駆を極めんとした生徒が町田宮高にいたのだ。
……そんな部が今まで途絶えていたのも謎である。
高校全国大会、町田宮高にはミニ四駆部がないからすっかり諦めていた。
もしもミニ四駆部に入ることができていたなら、俺は迷わず全国大会に挑戦していたことだろう。
チャンスが増えればチャンピオンになれる可能性も増える。
チャンピオンになればお姉さんとのお付き合いが叶う。
そう、それは俺が目指すべき舞台なのだ。
俺は少し身震いした。
目の前のギャルは話すのに夢中で俺の様子に気づいていない。
「部活を立ち上げたのはいいんだけどさ、初心者ばっかで何をどうしたらいいか全然わかんないわけ。だから詳しい人を探してたんだけどさ、レース見学してたらうちの学校の制服のやつが出てんじゃん。しかもめっちゃ速いし」
今日の午前中は学校で補講があった。
レースはその帰りに行ける時間だったから制服のままで来ていたが、同校のヤツが来るなんて考えてもなかった。
店は学校から徒歩5分もかからない場所。
鉢合う可能性は十分あったわけだ。
「マシンを速くしたいのか?」
「当たり前じゃん!最初は組み立てるだけでも楽しかったけどさ、こういうのは欲が出てくんの!」
「まあ、気持ちは分かるな」
「でしょ?だからさ、うちの部活に入って一緒にミニ四駆やんない?コーチして欲しいの。ね、お願い!」
「コーチねぇ……さっきのレースを見てたなら分かると思うけど、俺はステーションチャレンジも通過できてないぞ?それでも良いのか?」
「わたしはノーマルコースを完走させるのすら難しいの!そんなレベルの高いこと要求しないよ」
まぁ、それならば断る理由はない。
部活ともなれば大手を振って校内でミニ四駆ができる。
囲碁将棋同好会の幽霊部員をしているよりずっと有意義だ。
レースでは実績を残せていないがこれでもミニ四駆の知識はある方だと思う。
YouTubeもミニ四駆ブロガーのサイトもすべてチェックして、あらゆる情報を集めている。
初心者にノーマルコースを走らせるくらいの手助けは俺にもできるだろう。
「校内でミニ四駆が出来るのであれば、こんなに嬉しいことはない。協力するし、部活にも入らせてもらいたい」
「本当か!マジか、やったー♪じゃさ、まだみんな部室にいるから顔合わせにちょっと寄ってかない?」
「かまわんが……本当に部活なんだな。ちゃんと部員がいるだなんて」
もしかしたら、ミニ四駆に再びブームが来ているのかもしれない。
これから同じ高校の生徒とマシンを走らせられるのかと思うと少し不思議な感じがした。
俺のミニ四駆人生はそのほとんどがGsガレージ24で編まれたものだ。
でもこれからは店の常連さんたち以外と愛機を並べるのかも。
そう、ミニ四駆仲間ができる!
「部員って言ってもまだ少ないけどね。わたし含めて今、3人。アンタが来てくれればこれで4人!」
「アンタ呼びはよしてくれ、俺の名前はジンだ、町田宮1年」
「じゃタメじゃん、わたしもレイでいいよ。んじゃちょっくら部室行こ!」
「わかった」
彼女の馴れ馴れしさにちょっと抵抗はあるが、ミニ四駆仲間ができるのは正直うれしい。
さっそくショップのすぐ近くにある学校に戻る。
グランド脇の狭い通路を抜け、校舎の裏側に抜ける。
校舎裏には現在では使われていない旧校舎がある。
資料置き場になっていると聞いていたが、こんなところを部室にしているのか。
確かに旧校舎はミニ四駆部の部室としてはもってこいかもしれない。
モーター音もタイヤの音も馬鹿にはできなくて、本校舎で走らせたならきっと騒音被害で他の生徒から訴えられただろう。
1階奥の音楽室の前につくと、レイは勢いよくドアを開けた。
がらがらがら。
「みんな、ミニ四駆の先生連れてきたよ!」
ーーーーーーーーーー
解説:
・全国高校ミニ四駆競技大会
今作オリジナル、架空の大会ですw
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます