タッチの差
櫻井
第1話 タッチの差
タカシは水泳の全国大会で優勝をして、次は世界大会、オリンピックと噂されていた、だがタカシにはドーピングの噂が持ち上がった。先月の全国大会で使用してはいけないという薬が大会後発覚したという、タカシからすると直近二か月は薬なんて飲んだ覚えはなかった、二か月前まではストレスでの不眠から睡眠導入剤を飲んでいたが医師からはドーピング検査にも引っかからない睡眠導入剤だと言われていたし、二か月あれば薬は消えるとも言われていた、タカシは誰かにはめられたと思った。
全国大会の決勝ライバルとされる金井とタッチの差でタカシが優勝した、金井とは永遠のライバルで勝敗が50対49で一個だけタカシが上回っていた。誰が俺を嵌めたんだ。。。タカシは考えたが金井しか見当が付かなかったが金井がそんなようなことするやつだとは思わなかったし、思いたくもなかったが見当もつかなかった。
一週間後また検査をすることになり、検査所に呼ばれ行くとそこには金井もいた。
「お前ここでなにやってるんだ?」「おまえこそ?」と二人ともドーピング検査で引っかかったことを知らなかった。全国大会といってもそこまで知名度もないので特段と報道されることもなかったので気づかないのも当然だった。
「お前もドーピングか?」と金井が聞くのでタカシは頷いた、金井は不思議な顔をする。「もしかして矢代のじいさんに医者紹介されなかったか?」と金井が聞くので「あーされた。それで睡眠導入剤のんでたけど、二か月前だぞ」
うーんと金井は難しい顔をする。「俺も矢代のじいさんの紹介で二か月前まで飲んでたんだよ」と金井が何かを納得したかのように言う、金井の考えでは矢代は誰かを勝たせたくて二人に睡眠導入剤を飲まさせて、しかもドーピング検査でひっかかるような導入剤を、矢代は全国水泳協会の代表で裏では勝敗をかけて掛け金を集めているという噂も耳にする、金井は矢代のじいさんが大嫌いだった。
2年前の夏の全国大会で矢代のじいさんに「今回三位になってくれないか」って言われて矢代のじいさんをはったおそうとおもったことがあったが「わかったよ」と言ってタカシを抜かして優勝した、その時の矢代の悔しそうな顔は忘れない。
今年で矢代は会長を引退を宣言していて、その最後の年にドーピング疑惑が生まれた、今までもドーピング疑惑があった訳ではないが二人もドーピング疑惑にひっかかることはなかった。一方タカシも三年前の冬の全国大会で矢代に「二位になってくれ」と頼まれタカシは矢代を殴った、事件にはならなかったものの半年の出場停止処分が言い渡された。タカシは俺は間違ってないと思い半年間休まずプールで泳ぎ続け体力トレーニングにも力をいれ半年後の全国大会で優勝を果たした。その時の矢代も悔しそうにしていた。二人とも矢代から因縁がありその二人が勧められた医者からもらった導入剤から陽性反応がでたとなれば、矢代の仕業でしかない。
二人はドーピング検査を終え喫茶店に入り、そのことについて話をすることにした。
自分たちでは絶対にドーピングに陽性反応がでるものには口をつけないとスポーツマンだと全員気を付けている。それに関わらず陽性反応が出たのはおかしいとなり二人で話していたのだが拉致があかなくなり、矢代と仲が悪い副会長を喫茶店に呼び先ほどの話をした。「これが本当なら大問題でもう一度大会がやり直しができるかもしれないぞ」「だがしかし、八百長の録音とかないだろ?」と副会長が聞くと金井がバッグから一つのボイスレコーダーを取り出した、金井は矢代と話す時はいつもボイスレコーダーを胸ポケットにしまっておいていた、二年前以外にも矢代に八百長を持ち掛けられたこともあり、ボイスレコーダーを持ち歩いていた。
それを聞いた副会長は「これを記者とテレビ局に持って行っていいか?」と金井に問いかけると金井は首を縦に振った。副会長からしても、これは挑戦になる、この爆弾を放り投げることによって組合全体の存続もかかわってくることもあるからだ、副会長も無事でいれる保証なんかない、副会長の首も飛ぶかもしれないが腹を決め知り合いのテレビ局と記者に話を投げると喜んで食いついてきた。
各社の報道から三日後、矢代の記者会見が開かれることが決まった、世間は大激怒した、八百長や選手にドーピングをさせた挙句三日間逃げていたことに世間は許さなかった。矢代はこのまま逃げ切る気でいたが、副会長が「このままじゃ、組合の存続にも関わります、自分も同席しますんで」といって矢代の会見を納得させて、報道がでてから三日間は関係者にもどこにいるかも知らされず、副会長だけが知らされていた。矢代と副会長は仲は悪いが信頼はしているという不思議な関係だった為、副会長のみ所在を知らされていた。会見の場所はホテルの会議室になり17:00から始まった、出席者は矢代と副会長のみで司会者などは設けなかった。
「記者からの質問には全部答えて、素直に頭さげよう」と言ったのは副会長で矢代は静かに頷いた、100人以上の記者などあ集まり大事なことに矢代も気づかざるおえなかった、記者からは「このことは本当なんですか?」「何故こんなことをしたんですか?」と同じような質問が飛んでくる、一つ違う質問と言えば「八百長をしてかけていたってことは暴力団も絡んでますよね?という質問だった、この質問には答えを用意していなかったし、副会長も知らなかったことだった、矢代は3分ほどだまり口を開いた「はい、確かに暴力団との関係はありましたが団体名は伏せさせていただきます」と言った。腹はくくったが団体名までは出せないってことだ、それは当たり前だ、団体名まで言ってしまえば自分の命まで落としかねない、そこまでは腹を括れないということだろう。「副会長は何も知らないんですか?」と矢を向けられるが
本当になにも知らないので「知りません」というしかなかった。
会見は会議室を借りていた5時間たっぷり行われ、二人は疲れていたがこの後役員会をして会長を解雇という形をとる決済をし、代理で副会長が会長を務めるという会議をしなければいけないので休むこともなく会議室を後にした。
会見から三日後、矢代の自殺のニュースと全国大会決勝のやり直しのニュースが同時に報道された、矢代はきっと暴力団に殺されたんだろうとタカシは思ったが関係ないことだった、決勝は3か月後にきまった、そこまでに体力を増加させよりスピードを上げなければ金井には勝てないと思った、前回もタッチの差なのだから、今回は激戦になるに違わない、絶対この決勝にかって世界大会に行かなければいけない理由があった、昨年亡くなったタカシの祖母がオリンピックに出る事を一番に願っていた。
お祖母ちゃんっこだったタカシはなんとしてでもオリンピックにでたかった。
世界大会で2位までに入れば確定でオリンピックに出れると言われていた、タカシは全て一位で終わらせたかった、勿論亡くなった祖母に金メダルを見せるためにこの勝負に勝つしかなった。
三か月後 某水泳競技場
矢代の件もあり注目は数十倍にもなった、いつもなら観覧チケットも余るくらいなのだが、即完売するほどの注目を集めた。
「タカシこの人数緊張しないか?」って声をかけてきたのは永遠のライバル金井でタカシも同じことを思っていたので頷いた、声を出すと余計緊張しそうで声を出せなかった、それを察してか金井は拳を出してきてグータッチをして勝負に臨む、水の中ではライバルだが地上では仲間である。
6人の選手がコースに並びスタートの銃声をまっている、タカシは心の中で3・2・1と数え銃声が聞こえた、スタートは他の選手が早かったが、金井とタカシの方が強った25mを切った時点でタカシと金井の一騎打ちとなっていた。残り15mでは後方の選手の存在なんて忘れられるくらいになっていた、観客たちも二人に注目していた。
3m手前ではタカシが手だけが前に出ていた、これはタカシが勝ったかと観客は思った、一番手のゴールと共に銃声がなった。観客は息をのんだ、タカシだ、絶対タカシだという空気が会場を包んだが、結果はタッチの差で金井が勝利をした。
タカシは悔しさでその場で涙した、一位だけがいける世界大会でタカシは行くことすらできない、オリンピック選考会はまだ残っているが、理由があるにしても暴力事件を起こした、タカシが選ばれるわけもないと思っていた。タカシは涙で地上にあがることができなかった。先に上がっていた金井がタカシに手を伸ばしその手をつかみようやく、地上にあがることができたがそのまま泣き崩れた、みっともないとかそういう話ではなかった、タカシの夢がここで敗れた瞬間だった。タカシは泣き止むこともせずに表彰台に立ち静かに準備室で支度をして静かに帰った。
報道陣の質問などもどうでもよくなり、無視をして会場を後にした、金井から着信なども入っていたが全て無視をして帰宅をして布団にはいった。
プロローグ
オリンピックの選考会にはタカシは訪れなかった、それ以前にタカシと連絡取れるものはいなかった、金井さえも連絡取れずにいた。タカシが選考会に訪れなかったのは話題にはなったが二か月たったらタカシの存在など忘れられている。タカシは現在コンビニのバイトをしながら生計を立てていた、泳ぐのを諦めたわけではない、力をつけるための休養期間でいまは誰とも連絡をとるつもりはなかったが、今でも古びたプールで泳いで再起をかけている。
タッチの差 櫻井 @usamimi0923
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