第226話 疾風迅雷の平和力
「グリードガーデンでは……いや、この世界では資源の枯渇化が大きな問題になっています。現在の情勢下で未知の新大陸を見逃すとは到底思えません。付け加えると、精霊を宿していない人間は迫害対象という事もあります。この大陸はグリードガーデンにとって格好の獲物と言えるでしょう」
「コール君の言う通りだね。更に言えば、この世界には獣人や魔族は存在していない。彼らにとって怪奇な存在が富を抱えているなら強奪に動かないはずがないよ」
すかさず僕の推察を補強してくれるフィース君。この大陸存亡の危機にも平素通りの涼しい笑みを絶やしていない。むしろ普段より上機嫌に見えるくらいなので頼もしい限りだった。
「とは言え、十中八九は無理でも対話の可能性を諦めるつもりはありません。とりあえずグリードガーデンに渡って中から働きかけたいと考えていますが……その、フィース君とエディナさんに融和工作をお願いしてもいいかな? もちろん無理のない範囲で構わないんだけど……」
友人の権力に頼らざるを得ない事を不甲斐なく思いながらお願いすると、フィース君はなんのてらいもなく「コール君がそう望むなら、もちろん構わないよ」とにっこりしてくれた。これは嬉しくなってニコニコと笑みを交わしてしまうのも仕方ない。
「…………私も構いません」
平和主義者のエディナさんも熱意を溢れさせるように声を上げてくれた。何度も顔を合わせているのに肉声を聞いた事がなかった列席者はぎょっと驚いているが、これは声出しの
ただ、エディナさんは当主ではないので父親に働きかけるという事になるが……なんとなく家族仲は良くなさそうだが大丈夫なのだろうか? そもそもエディナさんに説得が出来るのだろうか?
説得より『切腹!』の方が得意そうな気がしないでもないが…………いや、大丈夫だ。国に戻れば専属従者のチーフさんが付いている。あの如才がないチーフさんなら上手くやってくれるに違いない。
「今後の魔王放送については如何されますか? 場合によっては敵性国家にこちらの情報が流れる事になりますが、急に放送を止めると大陸の情勢が揺らぎかねません」
「放送は継続で構いません。この大陸の存在は遅かれ早かれ察知されます。それならば、異種族でも純人と変わらない暮らしをしている事を周知しておきましょう。……まぁ、放送機器が数世代は違うので普通に魔波負けしそうなんですが」
「件の大国は北方との事ですが、当大陸の北側は切り立った崖。やはり警戒すべきは西か東からの侵攻でしょうか?」
「ええ、そうですね。飛行船などの航空戦力もあるにはありますが、航続距離が短いので山越えの侵攻は考えにくいです。西の小国か東のセイントザッパからの上陸が濃厚ですね。沿岸部に異変があれば即座に情報が届くようにお願いします」
当面の方針を決めた後も会議は続いた。
これまでの戦績が連戦連勝だった事もあって『有無を言わさず先手を取るべきでは?』という先制論もあったが、それは将来に禍根を残しかねないので却下した。
先制攻撃で四精暗殺などの手段は短期的に見れば悪くない。しかし、卑劣な手段で勝ちをもぎ取ると『四精がまともに戦っていれば』と怨念が残りかねない。僕や女性陣が居なくなった頃に恨みが爆発してしまうと致命的だ。
だからこそ、グリードガーデンと戦争になるなら正々堂々と正面から叩き潰す。
こちらはあくまでも融和を求める。それを無視して侵略戦争を選択したとなれば、相手の敵愾心も多少は抑えられるはずだった。
まぁ実際、やる事はセイントザッパの時と似たようなものだ。天下泰平の実績はあるので、今回も平和力でやり切るしかないだろう。
――――――――
組織の肥大化は全体の動きを鈍くする。
人が増えれば増えるほど責任者が増えれば増えるほど、指揮系統は煩雑化してフットワークは重くなっていく。
その点において、魔王国ことライルダムは圧倒的だ。良くも悪くも魔王に権力が集中しているという事で、意思決定の早さや実行力の高さは他国の追随を許さない。
対策会議の後の動きも早かった。
会議を終えたその日の夜にはヒューッと北の空へと旅立ち、防空態勢の整っていないグリードガーデンの僻地に上陸を果たす。
その後は何食わぬ顔で最寄りの地方都市に入り込み、一介の旅客のように首都行きの魔導トレインに乗っていた。
「…………うむ。飛行球の速さに比肩する物ではないが、魔導トレインの利便性は認めざるを得ぬ。これはライルダムにも導入すべき利器であろう」
窓に張り付きながら魔導トレインの導入を求めるのは王子君。その姿からすると利便性より娯楽性の方に惹かれている気がしないでもないが、文明の利器を積極的に取り入れるという方針には同意だった。
「う~ん、魔導トレインは便利なんだけど……専用のレールを敷設するのに莫大な費用が掛かるし、向こうの魔物は大きいからすぐに破壊されそうなんだよね。それよりは大型の魔導モービルを定期運行させる方が現実的かな」
口ではそう言いながらも、僕は内心で魔導トレインの可能性を模索していた。
カイゼル君をぬか喜びさせたくないので軽々しく言えないが、王都とパレットの区間なら魔物も少ないのでやってやれなくはないだろうか……?
国の発展に伴って街道の交通量が激増しているという事もある。この情勢が丸く収まった暁には真剣に検討してみるとしよう。
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