第37話 必然の出会い
ブッカを離れて一週間。途上の街で情報収集に励みつつ、僕たちは順調にノルドミードの首都へと近付いていた。
僕は自分の世界に帰還する為に、カナデさんは鬼精霊の制御の為に、それぞれ手掛かりになる情報はないかと聞き耳を立てながらの旅だ。……もちろん僕たちが指名手配されていないかどうかの確認もしている。
だが、情報収集の成果は振るわなかった。
僕の世界に関する情報は皆無であり、鬼精霊持ちと思われる人間の情報も出てこない……というより、最近ではどこの街に行っても同じ話題ばかりとなっている。
聖剣によって選ばれた今代の勇者、逆説的に実存が推定されている魔王。人類の存亡に関わる話という事もあって、どこの街を訪れても勇者の噂話ばかりが聞こえてくる状況だ。まぁしかし、それも仕方ないと言えば仕方ない。
勇者は魔王を探す旅をしているそうだが、現在はこの国――ノルドミードを訪れているとの事だ。世界的有名人が自国に来訪しているのだから話題になるのも当然だった。そして勇者がノルドミードを訪れている理由は、僕にも関係していた。
「…………いやまさか、僕が風魔術を使ったせいで勇者が調査に訪れるとは思いませんでした。なんだか申し訳ないです」
勇者は魔王探しの一環で各地の異常現象を調べているとの事だが、ベケ近郊で発生した『サンドキャタピラー失踪事件』に関心を抱いてしまったらしい。
ベケを襲うはずだったサンドキャタピラーの大群。その魔物の群れが突如として消え去っただけでなく、その移動経路では大地が抉り取られていたという怪奇現象だ。
立ち寄った街で怪奇現象の噂を聞いた時には気まずい思いをさせられたが……まさか他国から勇者までやって来るほど大事になるとは思わなかった。
「先の街で聞いた話では、魔王が食事の為にサンドキャタピラーを狩ったと言われていたな……」
真相を知るカナデさんは複雑そうな顔だ。魔王が厄介な魔物の群れを狩ったとなると、必然的に魔族の地位向上に繋がる事にもなる。
魔族に友人を持つカナデさんとしては望ましい状況のはずだが、僕が責任を感じている事を知っているので素直に喜べないようだ。
「僕のせいで魔王が傍迷惑な狩りをする人物という事になってしまいました……。いずれ魔王と会う機会があった時に悪印象を持たれなければ良いんですが」
僕の風魔術が『魔王の仕業』だと誤解されるなんて想定外にも程がある。確かに普通では考えられない現象ではあるが、異常な現象を全て魔王のせいにするのは乱暴と言わざるを得ないだろう。
「ふふん。そのような心配をせずとも、コールが魔王と
どのみち魔王と会える可能性は低いので無用な心配だろうという話だ。僕は常に最悪を想定しているので異論を唱えたいところだが、しかしカイゼル君が気を遣ってくれているのが分かるので無粋な反論はしない。
「勇者かぁ……。僕のせいで無駄足を踏ませてるとは言え、ちょっと会ってみたくはあるんだよね。勇者一行は三人組って話だったかな?」
「いかにも。奇しくも我らと同じであるな」
僕の首にぶら下がっている王子君を一人として数えていいのかはともかく、確かに僕たちと似たようなパーティー構成ではある。
ただ、その実情は全くの別物だ。僕たちは成り行きで三人組になっているが、勇者一行は厳選した上で三人組を選んだと聞いていた。
「セイントザッパ軍の『戦士長』と聖教会の『聖女』であったか。余も勇者一行とは会ってみたいものだ」
好奇心旺盛なカイゼル君は勇者一行にも興味津々だ。セイントザッパ軍の中で最も腕の立つ者、聖教会の中で最も高い能力を持つ者――それが『戦士長』と『聖女』であり、勇者の旅の同行者である二人だ。
人族の中でも選りすぐりの人材が揃っていると言えるので、好奇心の強いカイゼル君でなくとも興味を抱くというものだろう。
――――――――
なんだかんだと、僕たちは和やかに雑談しながら人通りの少ない旧街道を進む。魔物であるカイゼル君を忌避する人間も存在するので、僕たちは無用なトラブルを避けるべく他の旅人と遭遇しない道を選んでいた。
寂れた街道を進むと魔物や野盗に襲われるリスクが高くなるが、僕にせよカナデさんにせよ腕に覚えがあるので障害にはならない。敵は
だが、結果的にそれは甘い考えだった。
もう少し僕が上手く立ち回っていたら別の結果を得られたかも知れないが、この時の僕は愚かにも慢心していた。
それは必然の出会い。ベケを発って旅をしている僕たち、ベケ近郊に向かっている勇者一行――――そう、僕が勇者と出会ったのはある種の必然だった。
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