第27話 相手は化け物

 side:盗賊のギルドマスター


「いけぇ!! 分身共ォ!!」


 俺は盗賊ギルドのギルドマスター。

 強盗、殺人、犯罪だろうと何でもやる闇の冒険者。

 そんな盗賊たちの長を俺が勤めていた。


 何で俺がギルドマスターをやってるのかって?

 そりゃあ俺が一番強ぇからに決まってるだろ。


『や……め、ろ……』


『はっ、弱ぇのが悪いんだろ』


 前のギルドマスターは俺が入って二年くらいでぶっ殺した。

 えらそーに威張ってる癖に実力が大したことなさそうだったからな。


 ま、殺すのにちょっと時間がかかったから、流石はギルドマスターだと思ったけどよ。

 

 そんな経緯で俺はギルドマスターの座を勝ち取った。

 

 しかも十年。

 十年も俺の天下だ。


 こんなやべえやつらがいる中で俺が長くギルドマスターやってるって最強だろ?

 

「”アクアボール”」


「だーかーらー!! 同じ手は効かねぇんだよぉ!!」


 そんな俺に恐れもせず喧嘩を吹っ掛けるこの小僧はなんだ?

 

 憎しみとか恨みとかで来ているワケじゃない。

 ただ楽しんでやがる。


「アハハハッ!! やっばぁ、こんな挙動見た事ないや!!」


 ありえねぇ。

 こんな殺伐とした世界で笑ってられるなんて。


 現にいきなりギルドをぶっ飛ばしやがったし、本当に意味がわからん。

 こいつは何者なんだ?


「この野郎……さっさと死にやがれ!!」


 本当に不気味で気持ち悪い小僧だ。

 さっさと殺して酒の席での自慢話にしてやろう。


「だったら殺してよ」


「は?」


 お前、何言ってるんだ?


「殺すくらい本気で来てよ。そうじゃないと全然楽しめない、面白くもない」


「お前、死ぬのが怖くないのか?」


 死を恐れていない?

 ただ身を投げ出してるだけ?

 

 違う、こいつのオーラからは明らかに違う何かが……


「全然? むしろこのギリギリが最高に楽しい」


「っ!?」


 死を楽しんでいる。

 本来なら恐れるべき概念をこいつは快楽に変えている。


 不気味の正体はこれか!!

 今まで出会った事のない異質なオーラ。


 こいつは……

 こいつだけは今殺さねばならない。


「人形共ォ!! 全員突撃だぁ!!」


 展開していた分身を一斉に突撃させる。

 

 落ち着け、大丈夫だ。

 さっきは大ぼらを吹いていたが、俺に一切攻撃をしていない。


 俺という本体がわからないんだ。

 

 ”ホロシャドウ”と違って”シャドウマリオネット”は実体から生み出した俺の分身。

 つまり全員が実質本物ってことだ。


 違いは魂の有無くらい。

 

 だから小僧でも見切れない。

 見切れるわけがない。


「うおっ!!」


 攻撃がかすった!!

 いいぞぉ、そのまま追い込め。


 舐め腐ったイカれたガキをぐちゃぐちゃに斬り刻む。

 死すら生ぬるい地獄をこいつに味合わせてやる。


 ギルドマスターが負けるわけがないんだ!!


「ははは……もう終わりかぁ」


「やっと諦めたか? 現実を見た方がよかったなぁ?」


 くくく、絶望して笑うしかできないか?

 あー、面白れぇ。


 世間知らずのガキに絶望を叩き込むってなんで楽しいんだろうなぁ。

 

 おっといけねぇ。

 もっと楽しみたいから死なない程度に……


「がっ……?」


 なんだ?

 身体が……動かな……?


◇◇◇


「終わるのはお前だよバーカ」


 だから”アクアボール”で終わりだって言ったのに。

 ま、敢えて引っかかるように誘導したのは僕だけど。


「ど、うなっている……からだ、が……」


「分身達と”アクアボール”へいっぱい突っ込んだじゃん? もう忘れちゃった?」


「ただの水だろう!? あんなぬるい水で風邪を引くわけも……」


「風邪か……いい表現だ」


 死にかけているのに面白いことを言う。

 こいつって意外とセンスいいかも?


「でも惜しいね。正解は毒だよ」


「ど……く……?」


 答え合わせをした時、ギルドマスターは明らかに困惑していた。


「”アクアボール”の中に”ポイズンショット”を混ぜ込んだのさ。勿論、バレないように若干薄めてはいたけどね」


「違うタイプのスキルが二種類だと!? お前は一体……」


「何者かって? んー、無限のスキルマスターかな?」


 実際は色んなスキルをコピーしてるだけ。

 しかも最低ランクで。


 それでも使えるスキルは無限大。

 組み合わせも無限大。


 咄嗟のアドリブで言っちゃったけど、無限のスキルマスターってのは悪くない異名かも。


「けどお前、ギルドマスターの癖に弱いね。知らないスキルも見掛け倒しだったし」


「き、さまぁ……!!」


 勝手に怒ってるみたいだけどこっちはがっかりしてるんだよ。

 凄く強い分身なんだから、速さも火力も二倍!!とかめっちゃバフされてるのかと思った。


 でも実際はちょっと動きが滑らかになるくらい。

 火力も……まあうんって感じ。

 宿主のスキルが使えるのは面白いと思うけどね。


 確かに本体を見抜くのは大変だった。

 けど、正直広範囲のスキルがあれば僕じゃなくても倒せると思う。

 だって全員本物だし。

 

「ま、何を言っても終わりは終わり。じゃーね♪」


 長々と喋っててもしょうがないので、僕はギルドマスターの首をサクッと斬り落とした。


 ◇◇◇


「お疲れ様。やっぱアンタってイカれてるわね」


「そーかなー? いきなり部下を殺すギルドマスターも大概だと思うけど」


「どっちもどっちでしょ。いきなり凸して首を取るんだから」


 戦いが終わったのでエリザがこっちに来た。

 そういえば盗賊ギルドの首って売れるのかな?

 冒険者ギルドだと微妙そうだし、国に直接ぶん投げた方が良さげかなぁ。

 

 話してみないとわかんないけど。


「さてさて……誰もいないし盗賊ギルドのお宝でもいただきましょっ♡」


「あー!! それ最高!! 何かあるかなー!?」


 エリザってほんといいアイデアばっか言うね。

 最高の閃きを元に瓦礫をかき分けてお宝を探す僕達。


「きゃー、やっぱり隠れてたぁ♡ うふふっ♪」 


「凄いなぁ」


 って早速掘り当ててるし。

 盗賊ギルドだけあって、貴金属や宝石類は結構眠ってそう。

 早くしないとスラムの住人とかに取られるから急いで……


「ん?」


 なんだこれ?

 宝箱なんだけど、宝石が入ってるにしてはボロくて小さいような……


「取りあえず開けて……っ!?」


 中身を見た瞬間、僕は驚いた。


「希少種の種じゃん!!」

 

 確かテイムしたモンスターを希少種にするっていう自然の摂理ガン無視のチートアイテム!!

 イベントの上位十名しか貰えない超絶レアなドロップ品だぁ。

 それを盗賊ギルドなんかが持ってたんだ……うわー、すげー。


 ギルド潰して大正解だったわぁ。

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