第17話 愚かな父親
side:ナンス・ウェイカム(リオの父親)
「ククク……遂に、遂にリオを追い出したぞおおおお!!」
今まであいつの存在がウェイカム家にとって邪魔だった。
スキルの才能がない癖にウェイカム家を名乗っている情けない息子。
周りから下に見られるようなスキルのせいで、私が隠すのにどれほど苦労したことか!!
今までどうやって消してやろうか考えていたが……私に足りなかったのは思い切りだった。
後付けでも何でもいいから追い出してしまえばよかったんだ。
これでウェイカム家の障害は消え去った……!!
「流石だよ父さん!! あのリオを追い出すなんてさ!!」
「これでウェイカム家も安泰ですね!!」
「フハハハ!! 安泰どころか大繁栄だぞ、お前たち!!」
これ程まで清々しい気持ちを味わったのはいつぶりだろうか。
今までウェイカム家が伯爵家から成り上がれなかったのはリオが原因だったのか?
そうだ、そうに違いない。
現に我々は幸せな気持ちでいっぱいだから!!
「さぁてパーティの準備だ!! いっぱい飲むぞー!!」
これから訪れるのは輝かしい未来。
誰もがそう思っていたのに。
◇◇◇
「息子を追い出すような家とは婚約関係を結べませんね……それでは」
「ま、待ってください!!」
今日は息子のエンテとローゼス侯爵の一人娘との婚約に関する会談をする予定だった。
しかし、顔を合わせて早々に話を打ち切られてしまい、私は困惑していた。
「ど、どこでその話を?」
「貴族の情報網を舐めていますね? 相手の家を探るのは常識ですよ」
「ぐっ!!」
まさかここまでしてくるとは……
この会談で地位などの向上を狙ったというのに。
ま、まぁいい。
こんなのは序章にすぎない。
イレギュラーはあって当然だからな。
「財務書類の改ざん、他貴族への賄賂で隠蔽工作、そして息子さんはウチと親しい公爵令嬢に暴言を吐いたことが……」
「ま、まてまてまて!? なんだと!? 何故そこまでの情報が!?」
思い当たる事しかない。
思い当たる事しかないのだが、全て完璧に隠蔽したハズだ!!
なのに目の前にいるローゼス侯爵は全てを把握している。
一体どこで、どうやって!?
「昨日は門番も巻き込んで盛大なパーティをしたそうですね。気持ちよさそうに飲んでいたからか、警備が薄すぎて笑っちゃいましたよ」
「あ、ああ……」
最悪だ。
あのパーティの日にローゼス侯爵はスパイを送り込んでいたんだ。
我々が楽しく騒いでいる時に弱味を握れる情報を得るために。
「汚いぞぉ!? そんなっ、そんなのが許されてたまるかぁ!?」
「貴族社会を舐めているのは貴方ですよ? どんな手を使っても成り上がる、その過程で相手を蹴落としたとしても」
叫びながら詰め寄る私をローゼス侯爵は淡々といなしていく。
「ま、自業自得ですね」
その言葉を最後に、私は侯爵家の門番によって追い出されてしまった。
◇◇◇
「私は間違っていない……間違っていない……」
馬車に揺られながら私は一人、頭を抱えていた。
何故あそこまで弱味を握られなければいけないのか。
何故たった一日でここまで追い込まれているのか。
これは罠だ、陰謀だ。
私に待っているのは幸せのハズなのに。
「おい、アイツ……」
「貴族じゃね? やってしまおうぜ!!」
「ヒャッハァ!!」
「な、なんだお前たち!?」
突如、外が騒がしくなる。
窓から覗けば、武装した集団に馬車が囲まれていた。
あいつら冒険者か!?
首から下げているネームプレートがそれを証明している。
冒険者は野蛮で癖が強い連中が多いから関わりたくなかったのに……!!
「ぼ、冒険者だぁ!!」
「逃げろぉ!!」
「こら待て!! 私を置いていくな!!」
冒険者に恐れて馬車に乗っていた者達は私を置いてどこかへ逃げてしまう。
仮にも護衛だろう!?
主人の為に命を尽くすべきだ!!
しかし、この場にいるのは私一人。
やるしかないな……
「貴様らは喧嘩を売る相手を間違えたな……私の”炎帝”の前に恐れるといい……!!」
「へ……?」
苛立ちに任せてスキルで手から炎を出して脅す。
ふふふ、こんなヤツら私のスキルで十分だ。
現に冒険者たちも私のスキルに恐れている。
そう思っていたのに。
「「「ぶはははは!!」」」
何故か冒険者達は笑い始めた。
「え、炎帝!? そんなゴミスキルで自慢してんのこいつ!?」
「どんだけ世間知らずなんだよー!! 腹いてぇw」
「つーか、”炎帝”って事は兄貴のスキルでボコせんじゃね?」
「な、なんだと!?」
”炎帝”がゴミスキルだと!?
リオと同じような事を言いおって……!!
「貴様ら……伯爵家をバカにするのもいい加減にしろぉ!! ”炎帝”!!」
世間知らずのガキ共に教えてやる!!
私は勢いのままに炎を冒険者達に向かって撃つ。
「はっ、おっせぇなぁ」
「なっ!?」
しかし、その炎はあっさりとかわされ逆に距離を詰められてしまった。
「本当につえぇスキルってのはなぁ……こーいうのだよ!!」
「ぐぁああああああ!?」
謎のスキルによって身体が飛ばされる。
なんだこのスキルは!?
威力もスピードもケタ違いだ!!
たった一発喰らっただけなのに、身体が動け……
「オラオラ!! 好き放題やっちまえ!!」
「や、やめっ……」
こいつらには勝てない。
そう思った時には既に遅かった。
「ドラァアアアア!!」
「身ぐるみ剥いでからにしろ!! 価値が下がる!!」
「全裸のオッサンをボコろうぜぇ!!」
「あがっ!! ごほっ!! うごぉ!?」
好き放題ボッコボコにされていく。
全身の痛みが強くなり、出血も激しくなる。
私のスキルが弱い?
私のスキルはゴミ?
ありえない。
そんなのありえない。
何故、私はこんなヤツらにやられているんだ……
「た、助け……」
「ぶっ飛べバーーーーカ!!」
「ッア!!」
私を一撃で沈めた冒険者に思いっきり蹴り飛ばされる。
重い身体が再び宙を舞い、泥まみれの地面に激突した。
「あー、よえぇなぁ」
「さっすがAランクは違いますねぇ」
「まーな。つか、”炎帝”なんてCランクのゴミスキルを自慢してんのマジ面白かったわ!!」
「それな!! 早く仲間に話そうぜ!!」
飽きたのか、満足したのかわからない。
冒険者は殺しもせずにその場を去った。
「ふざけるな……」
ここまで言いたい放題されるなんて。
強いと信じていたスキルも大した事がなくて。
「ふざけるな……ふざけるな……」
何もできない一方的な戦いだった。
自分の愚かさと惨めさを突きつけられたかのような、無意味な戦い。
こんな現実があっていいのか?
こんな理不尽があっていいのか?
「ふざけるなぁーーー!!」
あっていいワケがないだろう!!
「ああああああああああああああっ!!」
現実を否定したかった私だったが、できる事といえば怒りのままに泣き叫ぶことだけ。
今までの不幸を一気に受けたような気分だった。
◇◇◇
「ウェイカム家の次男は見つかったか?」
「まだです……が、”例の兵器”を動かしているので問題ないかと」
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