第10話 始めての収入は……
「え? この剣一本で三十万もするの?」
買取が終わる間に立ち寄った武器屋で見たのは、バカ高い武器の数々だった。
最低でも十万を超え、更に高いヤツに至っては億に到達していた。
これが高級な武器とか最高クラスのスキルを持っているのなら分かるよ?
でも……明らかに普通の剣なんだよね。
「高いの?」
「これ一つと宝石どっちが高いと思う?」
「なるほど……ここもぼったくり?」
「いや、ぼったくりにしては堂々としすぎてる気がする。これに関しては適正価格で売ってると思うよ」
騙し取るのなら値札の方から偽装するハズだ。
それなのにぼったくりと思われても仕方ない値段って言う事は……
「すまねえな、素材も需要も何もかもねぇんだ」
「何もない?」
奥の方から店主らしき男が現れ、色々と説明してくれる。
「魔王と戦ってた時は皆が武器を求めていたのに、終わった途端にこれだ。需要がなくなった上に冒険者の質も低くて素材も手に入らねえ」
「冒険者が? さっき戦ったけど結構強かったよ?」
「誰と戦ったかは知らんが昔はもっと強いヤツがゴロゴロいた。けど、そいつらはみーんな魔王軍との戦いでいなくなっちまった」
あーなるほど、大体わかった。
魔王軍に勝ったのはいいけど、その代償が大きすぎたんだ。
魔王との戦いに向けて色んなものをかき集めたはいいものの、終わってしまえばそれらの需要は減ってしまう。
おまけに武器を使うであろう冒険者や兵士も数を減らしてしまい、更にはその武器を作るための素材を集める人材すらいなくなってしまった。
仕方ないとはいえ深刻だよなぁ。
「というワケだ。素材さえあればここにあるヤツらより安く作れるから気が向いた時に来てくれ」
「わかった。色々説明してくれてありがとうね」
「ありがとー」
これもハードモード仕様ってことかな。
ゲーム内はもう少し安かった気がするけど、現実ベースに落とし込んだ結果がこれ?
このままインフレし続けるなら、流石の僕も頭抱えるけど……
まあいいや。高いならその分を稼げばいいだけの話。
冒険者にもなったんだし、これから”スキルコピー”を使ってガンガン稼ごう。
あっ、そろそろ買取の精算終わったかな?
ギルドに戻ろー。
◇◇◇
「こ、こちらが今回の報酬になります……」
「「……」」
ギルドに帰った僕達を待っていたのは予想以上だった報酬の額。
見たまんまを話すと硬貨がたったの四枚だけ。
それだけ聞くと少なく見える。
けど、受付のお姉さんが涙目で手をプルプル震わせて運んできたので、ただの硬貨でない事はわかっている。
「えっと、この金貨一つで十万マニーだよね?」
「それが三枚あるから三十万?」
「凄い額だなぁ……」
森を探索しただけで三十万。
前世で真面目に働いていた時間がバカみたいに思える。
けど宝石やら魔物の素材やらを合わせて三十万、と考えるとちょっと少ないように感じる。
それなりの量はあったし宝石なんて一個辺り結構な値段する。
で、その金貨ですら前座に思える硬貨が一枚、不思議な輝きと共に僕を迎え入れる。
「この不思議な硬貨はー?」
「白金貨かな? 確か価値は……いくらだっけ?」
白金貨はゲームだと称号みたいな立ち位置だったハズ。
物の売買に使えた記憶がないんだけど……
「い、一千万です……」
「「えっ」」
そのあまりにも桁違いな額に僕達は固まった。
ついでに受付のお姉さんも顔を青くさせながら俯いた。
「え、ほんとに? ほんとに一千万貰っていいの?」
「貰ってください。じゃないと私達が不正会計で捕まります……」
「あぁ……」
一千万を運ぶなんてそりゃ緊張もするよね。
酷な作業をさせてしまってごめんなさい。
「間違いはないと思います。でも額が額なので何かあったらごめんなさい……ひぃん」
「だ、大丈夫。こっちで何とかするから安心して」
「ありがとうございますぅ……」
ホッと落ち着く声がお姉さんから聞こえたと同時に、僕は渡された硬貨を持ってギルドを後にする。
「一千万かぁ……」
とんでもない額だし何ならしばらく遊んでられるくらいの金額だと思う。
でも支払いに使えるかは……ちょっと難しい。
何せ硬貨一つで一千万だ。
こんなん渡されても相手は困惑するし、お釣りで大量の金貨を出されてもこっちが困る。
ゲーム内の売買に使えない称号っていうのは妥当な立ち位置だったんだなぁ。
「ま、三十万はあるし大丈夫か」
少なくとも明日飢え死にするような状況は回避した。
白金貨に関しても色んな所に旅して行く内に使い道がわかるだろうし。
ただ奪われないよう気をつけないと……
この世界は銀行とか無いのかな?
後で探してみよ。
◇◇◇
side:受付のお姉さん(名前はリサ)
「もうやだぁ……疲れたよぉ……」
テーブルに頭を伏せる。
私はやった、やり切った。
これ程までメンタルがゴリゴリ削られるなんて久しぶりだ。
冒険者や男性職員からの嫌がらせやセクハラがマシに思えるくらい今回の仕事はハードだった。
「どうしたのリサちゃん?」
「聞いてよぉ!! 私、一千万運んだんだよー!? 運んでいる時に暗殺者とか冒険者に見つかって殺されないか怖くてさぁ!!」
「わわ、落ち着いて落ち着いて」
同僚に声をかけられて、思わず内に抱えたものを全てぶちまける。
「例の新人くんだよね? 宝石とか魔石とかいっぱい持ってきて凄いよねー」
「うん……」
「で、一千万だっけ? この宝石にこれだけの価値があるなんて……」
私も最初はそう思っていた。
こんな宝石いくらするの?
計算する度にその額の大きさに震えていたくらいだ。
「違う……」
「え?」
しかし、本当にヤバいのは宝石ではなかった。
「宝石類は合計で三百万ちょっとなの。でもこの魔石が ……」
「ん? なーんだろこの魔石」
防衛スキル付きの高級ショーケースに入れられた魔石。
この蝶ケースを使うのはギルドが創設されてから数えるほどだとギルドマスターから聞いていたけど、まさか私が使う羽目になるなんて。
「調べたらビッグミミックの魔石らしいの……で、希少性とAランクという強さから一個七百万の査定がついて……」
「はいっ!?」
そういう反応になるよね。
私だって周りの査定担当の人と何度も顔を見合せたし。
「魔石一個で七百万!? え、じゃあ彼って」
「ビッグミミックを倒したんだと思う。少なくとも、Bランクのボルダーを抑え込む実力はあるし可能性は高いよ」
「なーるほどねぇ」
ビッグミミックを倒した張本人。
新人の報酬で白金貨を渡された人。
そして問題児だが中堅のボルダーをあっさり倒してしまう実力者。
たった一日に押し込むにはあまりにも濃すぎる。
というか何日かに分けて!!
私の心がもたない!!
「世界が変わるってこういう感じなんだね」
「かなぁ……」
期待の新星、なんていう言葉では測れない存在。
リオくん……貴方は何者なの?
◇◇◇
面白かったら、フォロー・♡応援・★レビュー して頂けるとモチベになります。
m(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます