第9話 火力は高いケド

「”パワーインパクト”!!」


「うわっ!? このギルド壊れるよ!?」


「ハハァ!! 壊したらテメェに全部押し付けるから安心しな!!」


 何も安心できないんだけど!!

 この世界の住人は壊すことしか考えてないの!?


 でもこいつの攻撃、そんなに速くないね。

 一撃は重いけど、これなら全然かわせそう。


「すばしっこいヤツだな……ならこいつで!!」


「でっかぁ……その斧何キロあるの?」


 とか思っていたらバカデカい斧が出てきた。

 こいつと同じくらいの大きさはありそうだ。

 流石にあれを喰らったらヤバい気がする。


「”ダークショット”!!」


「ぐおっ!! め、目が見えねぇ!?」


 というワケで目くらまし。

 闇の塊をボルダーの目元に向かって発射し、視界を奪った。


「隙だらけだよ!! ”ウィンドショットキック”!!」


「うぐぅおおおおお!!」


 ”ウィンドショット”を足から発射しそれをキックと共に放つ。

 ゼロ距離で僕の蹴りと風の吹き飛ばし効果が同時発生し、それを腹にぶち込まれたボルダーは巨体を浮かせてぶっ飛んだ。


「なんだこいつ!? 初級スキルばっかなのにダメージがハンパねぇ!!」


「自慢は怪力だけかな? ボルダーさーん♪」


「舐めやがってぇ!!」


 僕の煽りに更に怒り出すボルダー。

 踏みつけるだけで、石の地面にヒビをいれる。


「フルパワーでぶっ殺してやる!! うぉおおおおおおお!!」


 ボルダーが叫び出した瞬間、石どころか建物全体がグラグラと揺れ始めた。


 意外とやるねぇ。

 でも僕だって見ているだけじゃないよ。


 炎系スキルを発動しそれをボルダーに向けて何度も発射するが……

 

「”連続ファイア”!!」


「今更やられるか!! ”フルパワータックル”!!」


「えっ」


 全部弾かれた?

 全弾命中したハズなのにボルダーは怯みもせずに直進し続ける。


 少しびっくりしたけど慌ててはいけない。

 先程までと同じようにボルダーの攻撃を見切り、タックルの直撃を回避する。


「へへへ……どうだぁ?」


「イカれてるねぇ。傷だらけなのに突っ込むなんてさ」


「これが俺様の力だ!! まだまだ行くぜぇ!!」


 息は荒いし血も出ている。

 ほぼ痩せ我慢じゃん。

 でもあの耐久力を前にチマチマ殴っても意味はなさそうだ。


「ドラドラドラァアアアアアア!!」


「ほっ、よっ、はっ」


 斧を振り下ろし、蹴り飛ばし、思いっきりタックルをしてくるボルダー。

 一つ一つの威力は凄まじいが速度が極端に増したワケでもない。


 冷静に全ての攻撃を対処し、ボルダーとの距離を保ち続けた。


「逃げてんじゃねえ!! 俺様と戦え!!」


「えー? 逃げるのも戦いの内でしょ? それにこんなスリルは中々味わえないし楽しみたいじゃん♪」


「た、楽しむだと!? おままごとじゃねえんだぞ!!」


 このスリルを楽しんでいるのは事実。

 でも僕だってただ逃げているだけじゃない。


 狙っているんだよ。


「もう我慢できねぇ!! これで全部終わらせてやる!!」


「ボルダーさん!? それはマズイって!!」


「周り全部吹っ飛ばすつもりか!?」


「うるせぇ!! こいつは俺様を馬鹿にしたんだぞ!!」


 お、そろそろ来るかな?

 ボルダーは先程以上に力を溜め込み、自分の全身を使って斧をハンマー投げのようにぶんぶん振り回す。


「”トルネードハンマァアアアアアア”!!」


「うわあああああああああ!?」


「こいつやべぇよおおおお!?」


 渾身の叫び声と共に放たれたそれはギルド内に巨大な竜巻を巻き起こし、周りにいたガヤの連中ごと吹き飛ばしていく。


「うぉっ、結構ヤバそうな攻撃じゃん」


 避けられるなら避ける隙間を無くす、か。

 これはさっきみたいな小賢しい方法でかわすのは難しいかも。


「”グラビティ”」


「っ!?」


 ま、避けるつもりもないけど。  

 重力波をボルダーの足元に向かって放ちバランスを崩させる。


「流石はハードモード。当たってたら確実に即死だったね」


「な、なにを……!?」


 その隙に僕はボルダーへとグッと近づく。


「でも残念!! やり込みが足りないよっ!!」


 今までとは真逆の大胆な行動。

 それがこの戦いにおいて最初で最後の賭けである事をボルダーは知らない。


「”怪力”……」


 先程得た怪力スキルを発動。

 そして手元にはハンマーに変化させたマルチエッジの姿が。


「からの”トリプルインパクト”!!」


「ぐわああああああああああああ!?」


 ”ファイア” 

 ”ウィンドショット”

 ”グラビティ”


 三つのスキルを込めたハンマーの一撃がボルダーの顔面目掛けて打ち込まれた。

 ドォオオオオオオオオン!!という激しい轟音と共にボルダーの身体は吹き飛ばされ、ギルドの壁を越えて外へと放り出されてしまう。


「あがっ……がは……」


「え? これで終わり?」


 もう一発……とハンマーを構えていた時、遠くの方でボルダーが気絶するのを確認した。


 やっぱ連続ファイアも我慢してただけだったのね……

 少しだけびびったよ、あの行動は。


「マスター、全員倒したよ」


 オルルの声がした方に振り返れば、周辺で倒れている冒険者達の姿が。

 オルルもオルルで片付いたらしい。

 バラバラ死体になってないのは一安心かな?

 

「お疲れ様。よく頑張ったねー」


「んっ♪」

  

 ご褒美に頭を撫でてちょっといいエサを与える。

 どうやら高級な干し肉が好きらしく、これをあげるといつも以上に機嫌が良くなるみたい。


「ボ、ボルダーさんがやられた……?」


「あいつBランクの最強格だろ!? ぽっと出の新人になんで!?」


 ただ見学していただけの冒険者達はこの状況を全く理解できていない。

 Bランクの最強格って……それってただBランクで威張ってるだけだし最強じゃないでしょ。


「お姉さん、手続きは終わった?」


「え? あ、はい!! こちらをどうぞ!!」


「おー、結構かっこいいねぇ♪」


 そこそこ時間が経ったと思ったので再び受付(全部破壊されて何も無い)に行くと、お姉さんから震えた手付きで冒険者証を手渡される。


 これが冒険者証かぁ。

 高級感があって気に入った。


 正直デザインだけなら免許証より好きかも。


「壊した部分はボルダーに弁償……でもいいけど、僕も少し壊しちゃったからなぁ」


 全部押し付けてもいいけど暴れたのは僕も同じ。

 壁とか壊しちゃったからなぁ……多少はお金を出さないと。


 ってそうだ。

 僕にはアレがあった。


「そうだ、これの買取とかって出来る?」


「買取ですか? 勿論、ギルドでは素材の買取等を……ってうえぇ!?」


 ゴン!!とお姉さんの目の前にありったけの宝石類を置く。

 後はモンスターの魔石とか使えそうな素材とか。


 急に出てきた物量を前にお姉さんは口をパクパクさせながらその場で固まってしまう。 


「あ、あの……物が物なので、またお時間を頂いてもよろしいですか?」


「んー? 大丈夫だよ」


 やっぱ宝石は高いもんね。

 いきなりお金を用意するのも難しいだろうし、気長に待ちますか。


「テストも合格かな? 色々ありがとねお姉さん」


「い、いえ、こちらこそ……よい冒険者ライフを……」


 さーて、精算が終わる間にもう少しブラブラしますか。

 武器や道具とか見てみたいし。

 どんな物が置いてあるかな~♪


◇◇◇


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