第8話 冒険者になろう

「まずは冒険者登録じゃない? 持ってたらいい事ありそうだし」


「マスターが決めたことなら何でもいいよ」 

 

 というワケで冒険者ギルドへ向かうことに。 

 ご丁寧に兵士さんがギルドまでの道を書いた紙を渡してくれたから迷うことはなかった。


 ドォオオオオオオン!!


「ヒャッハー!! 店ごとぶち壊してやったぜぇ!!」


「ういういうーーーい!! 最高だぁ!!」


「止まりなさーい!! 止まらないとスキルを使うぞー!!」


 ガラの悪い男二人が近くの店を破壊し、それを追いかける真面目な兵士達。

 これだけの事が起きてるのに周りの反応がやけに静かだ。


 これがこの世界の当たり前なのかな?

 いくらなんでも適応しすぎでしょ。 


「あっちでも強盗だね」


「うわぁ……日本じゃありえないよ」


「にほん?」


「あぁいや、なんでもない」


 少なくとも治安は終わってる。

 スリルが多いのは面白そうだけどさ。


「マスター、ここじゃない?」


「あ、ほんとだ」


 なんて考えていると目的地に到着した。


 うわ、結構立派な建物だ。

 普通の民家の二、三倍は大きいんじゃないかな? 


 てことは冒険者も相当な数いるって事だ。

 気を引き締めていこう。


「お邪魔しまーす」


 ドアを開けるとそこには大勢の冒険者らしき人達がいた。

 圧が凄い!!

 皆の目付きが鋭いし何より殺気立っている。

 

「このやろぉ!!」


「やんのかてめぇ!!」


「いいぞー!! やれやれー!!」


 というかやり合っている。

 冒険者同士の殴り合いをドリンク片手に楽しむ他の冒険者達。


 脳筋しかいないのかな……

 くだらない揉め事は避けつつ、僕は存在感を消しながら受付へと向かう。


「すみませーん、冒険者になりたいんですけど」


「冒険者ですか? 何か推薦状はお持ちですか?」


 お、やっぱり推薦状を求められた。

 この世界だと冒険者になるのは少し大変なのかな?

 一応あるけど。


「じゃあこれで」


「はいわかり……えっ?」

 

 まさか持っていると思わなかったのか、僕が懐から取り出した推薦状を二度見する受付のお姉さん。

 問いかけて断るまでが定型文だったらしい。


「か、確認しますね……ほ、本当に推薦状? いやでもサインは王国兵士のものだし……」


 ぎこちない手つきで推薦状を確認していく。

 どうせ偽物でしょ? と疑っていたお姉さんも段々本物であるという事実に表情が固くなっていく。


 そんなに驚くこと?

 王国とのツテがあるようには見えないと思ったらしいけど……まあ賄賂でゲットした推薦状だから間違いではない。


「そ、それでは冒険者のテストをパスして登録を始めますね……こちらに記入を」


「はいはーい」


 サラサラっと渡された紙にサインをしていく。

 こんなにあっさり冒険者になれるんだなぁ。

 ここから本格的に依頼を受けられるし、知らない世界がどんどん広がっていく。


 物凄く楽しみだ。


「お!! ドラゴン退治とかあるじゃん」


「ドラゴンって美味しいのかなー?」


「ドラゴンも肉だからなぁ……どんな味なんだろ」


「い、いきなりドラゴンは流石に……ってモンスターが喋ってる!?」


 手続きが終わるまでオルルと楽しく談笑していた時。

 後ろの方から重い足音が近づいてきた。


「おいガキ。悪いことは言わねぇ、今すぐここから出ていきな」


 なんだこいつ?

 僕の二倍くらいはある大男が僕を睨みつけている。


「マスター、こいつ嫌い」


「正直すぎるよオルル。もう少し本音と建前を……」


「おうおう俺様に喧嘩売ってんのかぁ!? クソガキィ!!」


 バキィ!!と近くの机を蹴り飛ばす大男。

 おぉ、机が一瞬でバラバラに……

 見かけ通り相当パワーがあるね。


「いいか? お前みたいなクソガキは冒険者ギルドにいらねぇんだ、そうだろぉ!?」


「そうだそうだー!!」


「冒険者は遊びじゃねえんだそー!!」


 近くのテーブルで呑んでいたヤツらもヤジを飛ばす。

 なーるほど、こいつはガキ大将みたいな立ち位置だ。


 チラッとお姉さんの方を見れば、目線を逸らして気まずそうな顔をしているし。


 実力も地位も確かにある。

 けど素行の悪い問題児、ってとこかな?


「オルァ!!」


「「ッ!!」」


 なんて考察していると大男はいきなり僕目掛けて殴りかかって来た。

 僕がいた所のカウンターテーブルが粉々に砕け散る。  


「ボルダーやっちまえー!!」


「ヒューヒュー!!」


「ハハァ!! どうだ、俺様のパワーにビビったか!?」


「いくらなんでも脳筋すぎでしょ……」


 こいつはボルダーとかいうらしい。

 名前とかどうでもいいけど。


 まあ結果的に煽ったのは僕達だし、自分で蒔いた種は自分で片付けるとしよう。


(これってギルドのテストだったりする?)


 これだけ派手に暴れているのにギルド内は妙に落ち着いている。

 この騒ぎが日常だと証明してるみたいだ。


 推薦状があればテストはいらないってお姉さん言っていたけど、もしかしたら建前で本当はテストがあるのでは?


 だったら本気でやらないと。


「”ウィンドショット”!!」


「ブォ!?」


 強力な風スキルがボルダーの身体を吹き飛ばす。

 ボルダーは向こう側の壁まで吹き飛び、身体ごとめり込んでしまった。


「こ、こいつ!!」


「いってぇ……お前らやっちまえ!!」


「おぉ……ってうわぁ!?」


 起き上がったボルダーの号令で取り巻き達も武器を持って立ち上がる。

 が、立ち上がった瞬間、何かにぶつかって地面に転んでしまう。


 こんな事ができるのはあの子しかいない。 


「マスター、こいつらバラバラにして食べるね」


「カニバリズムは賛同はできないかな……まあ倒すだけならいいけど」


「残念。だけどわかった」


 再び透明になるオルル。

 多人数戦でも透明化ってやっぱ強いなぁ。

 気配も消せるみたいだし、これじゃワンサイドゲームは確実だね。


「”パワーボム”!!」


「うおっ!!」


 ドゴォオオオオオオン!!

 僕がいた場所目掛けてボルダーが全身を使って突進を仕掛けてきた。

 今度はテーブル……どころか受付のカウンター全てが全壊する。


 やりすぎでしょ!!

 こいつギルドをぶっ壊すつもり!?

 それが許されるなら炎スキルとか使うよ!?


『スキル:怪力を習得しました』


「お、やったぁ」


 色々騒がしくなっている間に新しいスキルをゲットした。

 ここで身体能力系は熱い!!

 戦ったのは正解かも!!


「僕も結構イカれてきたなぁ……ま、後で弁償すればいっか!!」


「なーに笑ってんだこの野郎!! ぶっ殺してやる!!」


 新しいスリルとスキルを前に僕は興奮を抑えらない。

 さぁ、戦いだ!!

 

◇◇◇


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