第7話 兵士のおかしな態度

「ここが街?」


「みたいだね」


 いやでっかいね。

 先の見えない壁に囲まれた街に外から人が集まっている。

 馬車も結構な数が集まっているみたいだけど……


(あの馬車の装飾、やけに凝っている……いや、あっちの馬車もだ)


 明らかに貴族以上の人が乗っていますよ、いう雰囲気。

 ただの街じゃないな。

 貿易を生業とした商人や会談の場として集まった貴族ってところか?


 そんなクセのありそうな身分の人間がやって来る場所ということは……


「ホムーンだ」


 ゲームではこの世界の中心都市として描かれていた場所。

 それがホムーン。

 世界中から人が集まり、素材が集まり、あらゆる文化が体験できる場所。


 最高だ……

 まだレバティ・フロンティアを始めたばかりの記憶が蘇ってきた。

 あの時の新鮮な感覚は未だに忘れていない。


 未知のものが多すぎて、何から何まで輝いて見えた。

 その感動がこうして現実として蘇り、僕の前に現れたのだから感動的だ。

 

「テンションあがってくるなぁ……行ってみよっか!!」


「うんっ」


 上機嫌なオルルと共に城門の前まで早歩きで向かう。

 ん? 何やら看板が立ててある。


「通行証がある方はこちら、無い方はこっちへ……」


 通行証? 身分証みたいなものかな?

 ほぼ何も持たずに追い出された僕に通行証なんて便利アイテムはない。

 一応、多少のお金は持っているけど……これで通れるかは疑問。


 ま、行ってみるしかないか。


「こっちは人が少ないんだ……」


 通行証がある人向けの通路はかなりの人数が並んでいるのに、こっちはすぐ受付みたいな所に辿り着いてしまった。

 つまりこの世界では通行証があるのが当たり前。

 持っていないのは常識外れな子供か犯罪者、もしくは貧乏人くらいかな?


「すみませーん。この中に入りたいんですけど」


「あ?」

 

 うわ、めっちゃガラ悪いな。本当に兵士?

 突如現れた僕を前に、一人の兵士があくびをしながらこちらへ近づく。 


「へぇ……」


 明らかに人を見定めるような目。

 髪の毛からつま先まで。

 一通り見終わった後、兵士はニヤりと怪しい笑みを浮かべながら僕の前に手を差し出す。


「五十万マニーだ」


「ん?」


 ここを通るのに?

 五十万といえばとてつもない額だ。

 ただ街の中に入るだけでそんなに取られるとは……


「払えないなら払えないでいいんだぜ? その時は不法侵入者として独房にぶち込むだけだが」


「独房に?」


「勘違いするなよ。俺たちだって変な貧乏人を入れるわけにはいかないからさ?」


 ほーん、一応それっぽい理由はあると。

 周りの兵士達が僕を見下すような目で見てニヤニヤ笑っているのが気になるが。


 こっちに人が少ない理由はこれか。

 だいたい理解した。


「さっすがハードモード、人間までもハードにしてくれるとは仕事熱心でいいねぇ」


「「は?」」


 やっべ、明らかに変なこと言った。

 それは一旦置いといて、ここの突破方法だ。


 いきなり殺しとかはやんない方がいいだろうし、むしろ兵士とかは味方につけておいた方がいい。

 この門番たちの腐ってる態度から察するに、ホムーンの治安は相当終わってると見た。

 

 汚職、裏切り、時には殺人。

 まともな法も監視カメラもないこの世界では黒い事だって平然と行われてるだろう。


 で、ここをどうするかだが……


「マスター、こいつら殺してもいい? ムカつく」


「落ち着いて、いきなり揉め事を増やすのは……ん?」


 その時、通行証アリの入口前で不思議な光景を見た。

 

 ほんの一瞬の出来事。

 馬車に近づいた兵士の手元に金貨が一枚握られた。


 この世界の兵士たちがどれくらいの地位なのかは知らない。

 が、一日で五十万を稼ぐほど恵まれた仕事だとは思えない。

 

 ということは……


「なるほどね」


 見えた、ここの突破方法が。

 僕が再び兵士たちの方へ振り向くと、懐から”とあるもの”を取り出しながらゆっくり近づいた。


「んー? 大人しく五十万マニーを払う気に……っ!?」


「んだこれ!?」


 明らかに態度が変わった。

 素直すぎるその反応に思わず頬がニヤけてしまう。


「これは森で探索中に見つけた宝石。具体的な価値は分からないけど……まぁ五十万は超えるでしょ」


 隠し部屋で見つけた大量の宝。

 その一部に兵士達はくぎ付けとなる。

 最も、僕はこれをただで渡すような真似はしないけど。


「多分だけど遊ぶ金が欲しいんでしょ? だったら一つ頼まれて欲しいんだけど」


「な、なんだ!?」


「通行証が欲しいなー、なんて?」


「通行証を!? それはちょっと難しいかと……」


「あっそ」


 完全に立場が逆転した。

 見下されていたのに、今では宝石を盾に僕がものを言う立場になっている。

 

 金と力があれば大抵のことは頼める。

 本当面白いよね。

 

「じゃあ追加でもう一個……これでやる気出ない?」


「「っ!!」」


 ゴトンと大きめの宝石をテーブルの上に置く。

 先程まで宝石とは比較にならない価値があるだろう。

 その宝石の輝きを前にして腐りきった兵士たちの態度は……


「わ、わかった!! 通行証はなんとかするから!!」


「ここも通っていい!! だから宝石を俺にくれ!!」


「しーっ!! 騒いだら他の兵士に没収されるよ?」


「「ご、ごめんなさい……」」


 これで解決かな?

 正直宝石はまだまだストックがあるし、三個くらい失ったって構わない。

 

 揉め事ナシでここの突破と通行証をゲットできるんだ。

 今後につながる高い買い物をしたと思えばいい。


「そうだ、あんた冒険者か?」


「んー? 一応ギルドに行くつもりではあるけど」


「だったら推薦状も書いてやるよ!! これがあれば冒険者のテストがパスできるハズだ!!」


「マジ? 助かるぅー♪」


 しかも冒険者ギルドに対する推薦状まで作ってくれるとは。

 金さえ払えば基本的な事はコントロールできるかも?

 まあやりすぎるとカモられるし、定期的に実力は見せびらかして金だけじゃないアピールはするけど。


「これが通行証だ!! あー、真っ白のやつがあって助かったぁ」


「そんなに取るの大変なの?」


「手続き自体は俺達でもできる。ただ素材に使う特別な紙が減っててあんま発行してくれないんだ」


「あー……」


 それも治安悪化が原因なのかな?

 ホムーンの中がどうなってるかは知らないけど、森の中と同じくらい警戒しながら歩いた方が良さそうだ。


「これが通行証、こっちが推薦状だ」


「ありがと、また機会があったらよろしくね~」


「「是非とも!!」」


 すっかり元気な子分と化した兵士達に見守られながら、僕達はホムーンの中へと入った。


 さぁて、まずはどこに行こうかな~。

 推薦状を貰ったし、ギルドに向かうのもよさそうだ。

 後は宝石を売ったり宿屋を確保したり……色々やる事あるな。


 ま、時間はたっぷりあるんだ。

 散策しながらゆっくり考えるとしよう。


◇◇◇


面白かったら、フォロー・♡応援・★レビュー して頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る