第5話 モンスター達に襲われたけど

「「「グゥオオオオオ!!」」」


「新規は三体のマッスルベアか……その辺のワーウルフも厄介だね」


 赤黒い皮膚に覆われた熊みたいなモンスター、それがマッスルベア。

 スキルこそないが身体能力が高く、場合によっては一撃で殺されかねない。


 ハッキリ言って序盤の森で登場してはいけない中級レベルだ。

 確か推定ランクもBとかじゃなかったっけ?

 特にハードモードとなれば隙が少なく、数多のプレイヤーもこいつを前に倒された……


「ま、やることは変わんないんだけどね!!」


「グゥオ!?」


 囲まれた瞬間、”ウィンドショット”を発動して目の前のマッスルベアを吹き飛ばす。

 巨体が風のスキルによって宙を舞う。


「更に”連続ファイア”!!」 


「「「グォッ!?」」」


 モンスター軍団へ向けて”ファイア”の連続攻撃をぶちかました。

 ズダダダッ!!とガトリングのように連射される”ファイア”を前に、モンスター軍団は前に進むことすら出来ない。


「マスターばかり頑張らせない。”ツイントルネード”」


 と、”ステルス”でモンスター軍団の後方に回っていたオルルが羽を羽ばたかせて二つの竜巻を巻き起こした。

 二つの竜巻がモンスター軍団を飲み込み、上空や岩壁、地面へと身体を投げつけていく。


 おいおい、結構エグい火力じゃん。

 希少種の恐ろしさを目の当たりにしてしまった。


「グゥウウウウ!!」


「これだけ喰らっても立ち上がるんだ……すごいね」


 流石はハードモードと言ったところか。

 マッスルベアは傷だらけなのに頬をニヤりさせており獲物である僕達から視線を離さない。

 ワーウルフも何体か生き残っているし、闘争心が衰えることを知らない。


 勝つか死ぬか。

 獣の本能を目の当たりにした僕は思わず背筋をゾクりとさせる。


「「「ワォアアアアアア!!」」」 


「わっ、ちょっ、あぶなっ」


「オルル!! あんまり無理しなくていいよ!!」


 ワーウルフ達が飛び回るオルルに襲いかかる。

 オルルは”ステルス”以外のスキルを使う時に透明が解除されるからその隙を他のモンスターに狙われやすい。


 ただ本人が素早いからか、ワーウルフ達の攻撃は一切当たっていなかったが。


「グォオオオオオ!!」


「っ!!」


 ガシャアアアアン!! とマッスルベアが地面を叩いて土を舞い上がらせる。

 まるで波のように襲いかかる土を後ろに引いて避けるも、残り二匹のマッスルベアは土の波を突き破って僕へと迫る。


「「グォオオオオオ!!」」 


 マッスルベアの爪が僕の目の前に振り下ろされた。

 流石に致命傷か?

 僅かな時間の間に流れていく記憶と考えの数々。 


「っ!!」


 が、その心配は必要なかった。


 鼻先5cm。

 風圧が余裕で届くほどの距離でマッスルベアの爪がかすめた。


「……」


 激しい轟音の後に訪れる静かな時間。

 感情の起伏が激しく状況だって混沌としている。


 少しでも前に出ていたら終わっていた。


 あまりにも近い死の瞬間。

 これがモンスターを目の前にするという事。


 その危険信号を前に僕は。


「へぇ……」


 笑っていた。


 今まで味わったことの無いヒリついたサバイバルの感覚が僕の全身を震わせる。

 思わず頬がニヤけてしまって、このギリギリの感覚を味わいたいと本能が求めていた。


 バンジージャンプやパルクール等、スリル満点で危険なチャレンジを好む人間の気持ちを理解して……


 いや、理解しすぎている。


 ゲームでは絶対に味わえない。

 リアルの生死がかかった体験を前に僕は恐れるどころか興奮していく。


「結構楽しいじゃん!!」


 近づいてきた二体のマッスルベアに”ウィンドショット”をぶちかまして距離を離す。

 風のスキルがマッスルベアを吹き飛ばし、その反動で僕の身体まで後ろへ飛んでいく。


「グォオオオオ!!」


 二体が動けなくても残りは動ける。

 土の波を作っていたマッスルベアが僕へと飛びかかり、鋭い牙で喰らいつこうとした。 


「”ファイア”」


 その大きく開いた口が弱点になるとは知らずに。

 僕はマッスルベアの口内へと全力のファイアを注ぎ込む。


「グォオオオオオオオ!?」


 体内の器官が炎によって焼き尽くされる。

 それがどれほど苦痛なのかは想像できた。

 

 マッスルベアは仰向けで倒れ身体をジタバタと動かしながら苦しむ。

 その隙に僕はマッスルベアの心臓部へと”スラッシュ”を付与したナイフで突き刺す。


「やり返すよ!! そーらよっ!!」


「「ッ!?」」


 僕は”ウィンドショット”を地面に向けて打ち込んで土埃を舞い上がらせる。

 もう一体のマッスルベアの視界が土に覆われ身動きが取れなくなった時。


 僕はマッスルベアへ一気に近づいた。


「”アクアボール”」


「グァッ!? ゴボボボ!?」


 生成した”アクアボール”を固形にしてマッスルベアの顔面程のサイズにする。

 そしてそのままマッスルベアの顔を覆うように”アクアボール”を押し込んだ。


 顔全体が水に覆われ、呼吸が出来なくなったマッスルベアは必死に水を取ろうと腕で払おうとしている。

 しかし、水がこぼれ落ちる事はなかった。


「最後ォ!!」


「ォオオオオオ!!」


 残り一体の懐へ潜り込み、ウィンドショットの連続発射で空中へと吹き飛ばす。

 

「そして連続ファイアああああああああ!!」 


 渾身のファイアを何十発も発射し空中のマッスルベアへと打ち込み続ける。

 ズドドドドドッ!!という連続した爆発音が森中に響き渡り、やがてマッスルベアの身体は黒焦げになった。


「ゴホホボ……」


「あ、溺れ死んだ」


 アクアボールを喰らっていたマッスルベアもダウンしたらしい。

 これで全員か……なんだかあっさりしてたな。


「ふぅ……」


 けど、凄く楽しかった。

 命をかけたスリル全開のアトラクションを前に僕は今までにない快楽を知ってしまった。


 もう現実には戻りたくないな。

 こんなスリルは現実では味わえないと思うから。


 さて、後はオルルを襲っていたワーウルフ達を……


「マスター、終わったよ」


「……流石だぁ」


 どうやらオルルも一人でワーウルフ達をボコしていたらしい。

 パタパタと飛び回るオルルの周りには、風系のスキルで切り刻まれたワーウルフ達の死体がいくつも転がっていた。


 わお、頼もしい。

 頼りになるモンスターを仲間にしてしまったね。

 さーて、解体して魔石を取り出すとしよう。


「マスターはどうだった?」


「うん、刺激的で結構楽しかった。こういうスリルは悪くないね」


「……もしかして戦闘狂?」


「かもねー」


 自由な人生の合間に挟まる刺激的な体験というのも悪くない。

 最初はハードモードを前に不安を感じていたのに、この感覚を味わってしまった僕は新たな戦いを求めている。


 新しい世界でのスリルが僕の人生を更に楽しませてくれる……そんな気がした。

 その考えがこの世界に適合しすぎていたという事実を知るのは、もう少し後の話。


「さて、モンスターを解体しよ……」


「マスター、これは何?」


「ん?」


 地面に転がっているモンスター達を解体しようとした時、オルルが羽を羽ばたかせて僕を呼んだ。


 何かの入口? 穴?

 激しい戦闘で掘り起こされたらしい。

 

「ダンジョン? いや、この小ささは……」


 このゲームのダンジョンはもう少し大きくて派手なオーラがあった気がする。

 これは宝とかそういう類が眠っていそうな……あっ、


「隠し部屋だ!? もしかしてレアドロップがあるかも!!」


 隠し部屋。

 それはレアドロップやレア武器が眠っている可能性が高い場所。


 こんな序盤に出会えるとは想像していなかった!!

 いやぁ、どんどん楽しくなるねぇ。


◇◇◇


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