第2話 森に入ります
「まずは街に向かおう。えーっと、実家に近い場所だとまた追い出されそうだし、ちょっと離れている場所を……」
記憶の中のマップを無理やり思い出す。
この屋敷は確かゲーム内だとモブ貴族のものだったような?
でも景色は見たことある。
近くには森と平原しかないけど、確かどっかから町に行けたはず。
「あっ、そういえばこの森の向こう側に町があったな……決めた、そこに行こう!!」
町に行けば人はいるし施設もそれなりにある。
森を挟んでいるから実家から変な干渉をされる心配もないしちょうどいい。
この森を抜けて町へ行こう。
そう決めた僕は森の入り口へと足を進める。
ん? なんだ?
入り口に看板があるな……
『注意!! この先はモンスターが出現します!!』
なるほど。
ゲームの世界だから当然モンスターもいるよね。
でもちょうどいい。
お金は最低限しか持ってないし、スキルだって四つしか覚えていない。
この森でモンスターと戦って、いっぱいコピーしまくろう!!
「冒険者一名入りまーす♪」
ギルドに登録してないから正式な冒険者ではないけどね。
どうせ町に着いたらやるし、気分だけでも冒険者になっておこう。
「まずは新しく覚えたスキルを試したいけど……お?」
『ぷるぷる〜』
森を歩いていると、目の前にぷるんとした身体のモンスターが現れた。
この綺麗な水色は……スライムか。
序盤の頃はスキルのレベリングと素材集めでいっぱい狩ってたな~。
新人ゲーマーだったあの頃を思い出す。
『ぷるぷる〜!!』
「うおっと!! いきなり攻撃か……」
スライムは僕の姿を見た瞬間、体の中心から水のようなものを飛ばす。
僕は右側に体を回転させ攻撃を避けた。
パシャッ!!
ジュワァ……
「……現実だと溶ける液体ってすげー怖いな」
スライムの吐き出した液体が当たった岩をドロドロに溶かしていく。
あれがスライムのスキル……てか意外と早いな。
ゲームだとちょっとダメージを食らう程度だったけど、現実だと肉体は余裕で溶けそう。
思い返せばヤバそうな攻撃を喰らってもHPが減るだけで済むのは何故だろう?
でもここは現実。
気を引き締めないと、スライムだろうと殺されかねない。
『スキル”アクアボール”を習得しました』
お、スキル習得のアナウンスだ。
えーっと効果は?
溶かす効果を抜いた水属性の最弱スキルか。
何かに使えるかな?
ま、これでスライムのスキルはゲットできた。
後は倒すだけだ。
「いくぞ……」
僕は攻撃準備に入る。
スライムにターゲットを定めて、兄貴が使っていた炎系のスキルを手に宿す。
「”ファイア”」
ドォオオオオオオオン!!
瞬間、炎の弾が勢いよくスライムの方へと飛んでいき、スライムの身体を一瞬で消し飛ばしてしまった。
「うお、すっげ……」
爆発って間近で見ると迫力あるな。
まるで特撮の撮影をしているみたい。
「やっぱ”スキルコピー”ってやっべぇな」
僕が使ったスキルは最低ランクだ。
スライムが相手とはいえ、普通ならあそこまでの威力は出ない。
じゃあなんで倒せたのか?
答えは”スキルコピー”の隠し能力にある。
下馬評では最低ランクだとバカにされた”スキルコピー”が一瞬にして環境を取った理由。
その隠し能力がこれだ。
【習得したスキルのレベルを100にする】
レベルというのはスキルごとに設定された数値だ。
レベルを上げることでスキルの威力や使い勝手、発動に必要な魔力量も減らせたりできる。
普通ならレベルMAXにするスキルというのは進化済みで、しかも最終段階に到達したものが多い。
だってその方が強いし。
そもそも低ランクのスキルをあげたところで限界はある。
でも多種多様なスキルを保有できるなら?
あげる手間を省いて100レベルにする事ができたら?
このゲームでスキルを増やすのはかなり難しい。
生まれた時に持てるスキル一個と巻物などのアイテムで付与できるのがいくつか。
でも巻物系は高くて希少だし、結局核となる生まれた時に得たスキルが一番強いんだよね。
そのスキルで無限に増やせて、
しかもレベルが100なら……
お分かりいただけただろう。
ゲームバランスが崩壊しました。
「これのせいでレバティ・フロンティアの環境が”スキルコピー”だらけになったからなぁ」
1vs1のPVPの上位六〜七割がスキルコピーを使用してた。勿論僕もその一人だ。
最低ランク限定でスキルが何でも習得可能という高すぎる汎用性。
レベル100でそこそこの威力と安い消費コストという使いやすさ。
以降に登場するスキルは完全に”スキルコピー”の為の材料としか見られていなかった。
でも環境的には面白かったんだよね。
可能性が無限すぎて毎週メタや戦術が変化していたし、戦い方も人それぞれで見ていて飽きない。
まあぶっ壊れである事に間違いは無いから、ナーフしろとは何度も言われてたけど。
「おっと、魔石も拾わないと」
倒したスライムからドロップした魔石を拾う。
レバティフロンティアでは魔石を売って換金したり、武器や道具に錬成したりしていた。
この世界は現実ベースに変わっている部分もあるけど、魔石の価値に関しては多分同じようなものだろう。
っとそうだ。
せっかくだし新しく習得したスキルを試してみるか。
「”アクアボール”」
おぉ、手の平に丸い水の塊が生成された。
ツンツンしたら指が水の中に入る、でも水球として形は保っている。原理はどうなってるんだ?
これも投げたらすげぇ威力になるんだろうなぁ……投げる相手がいないからやらないけど。
で、飲み水としては……ぬるいけど全然飲める。
これなら水の心配はしなくて大丈夫そう。
火もあるし、後は寝床を確保したいんだけど……
「土系のモンスターっていたっけ? あーでも探すより自分で組み立てた方が早いか」
少ないとはいえスキルはある。
その辺の木や石を使えばテントっぽいものは建てられそうだ。
えーと、確か木を切るならこのスキルが……
「”スラッシュ”」
懐に入れていたナイフを取りだして振ると、目の前の木がズバッと斬れた。
おー、切れ味抜群だ。
これなら寝床を作るのも簡単そうだ。
ってヤバ!?
「き、木がこっちに倒れてくる!!」
ドォオオオオオン!!
切り倒された木がこちらに倒れてくる瞬間、僕は遠くに飛んで何とか避けることができた。
「死ぬかと思ったぁ……」
そうだよね!!
木ってうまく倒さないと事故るよね!!
林業の人ってすげーな……今度からちゃんと見ながら切っていこう。
反省しつつ僕は切り落とした木を細かく解体していく。
「よし、こんなもんでいいかな」
細い木を集めて骨組みにする。
そしてその辺に生えていた丈夫そうなツルを使って固定。
……テントに被せる布がない。
どっかにあるかな。
「探しに行くか」
問題が一つ解決すれば、また新たな問題が現れる。
試行錯誤の冒険だけど僕は意外と楽しくやれていた。
仮組みで作ったテントを放置して、僕は再び森の中を探索し始める。
新しいモンスターにも出会えたらいいな〜
◇◇◇
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m(_ _)m
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