ハードモードなゲーム世界に転生したけど、【スキルコピー】の隠し効果で自由な人生を楽しんでいく

早乙女らいか

第1話 ハードな始まり方

「リオ!! また私の仕事を邪魔したな!!」


 髭を生やしたガタイのいい男にぶん殴られる。 

 

 5mは飛んだかな? 

 飛びすぎて壁に激突した僕に構わず、ガタイのいい男は僕の首根っこを掴む。


「いった!! 邪魔ってなんだよ!?」


「お前の存在だ!! お前という約立たずがいるせいで仕事に熱が入らないんだよっ!!」


 それは八つ当たりって言うんじゃ……

 理不尽すぎる男の態度に呆れてしまう。


 ……というかこいつ誰だ?

 ここはどこなんだ!?


 疑問に思う中、ドアの向こうから女性と青年が現れる。 


「何故あいつが貴族なの?」


「リオには才能がないのに、生まれて欲しくなかったよ」


 え、こんなボロクソに言われることある?

 一体僕が何をしたんだよ。


 もしかしてお漏らし隠してたとか、勝手に他人のスマホを弄ったとか、そーいう細かい積み重ねが爆発しちゃったってワケ?


 いや、そんなショボい事で殺意レベルの恨みを買われるとは思えない。


「ちゃんと聞いてんのか!? この野郎おおおおおお!!」


「うわあああああああっ!?」


 考える余裕もなく、僕は壁へと投げつけられる。

 また5m……いやそれ以上に飛んだなあ。


 って投げられた場所、めっちゃ角じゃん!?

 ヤバいヤバいヤバいヤバい!!

 あーーーーーー!!


「いって!!」


 石でできた硬い角に頭がごっつんこ。

 殴られた時より強い衝撃に思わず頭をおさえる。


「思い……出した……?」


 その時、不思議な事が起こった。


 投げ飛ばしたのが父親であること。

 ボロクソに言っていたのが母親と兄であること。


 そして僕が何故酷い目にあっているのか。

 僕は何故ここにいるのか。


 僕は全部理解した。


「あー……なるほどなるほど」 


 まずは「何故僕はここにいるのか?」という問題から答えよう。

 答えは一つ、前世で死んで異世界に転生したからだ。  


 ◇◇◇


『めんどい働きたくない休みたい……でもお金ないから働かないとあああああああああ……』


 前世はまあクソ忙しく働いていた。

 ブラックって言うほど終わってる会社ではないけど、それでも一日が終わる頃には死んだ魚のような目をしている。


 疲れた、休みたい、でも寝たら明日がまた来る……

 土日なんてあっという間だし、遠くに行く気力もない。


 もっと色んなことに挑戦して自分の未来を変えたいとは思っていたけど、いつの間にか諦めてしまった。


 その結果、僕はトラックに引かれて……

 いや、トラックに引かれたのはただの事故でしょ。

 信号は守ってたし仕事関係ない。


 とにかくその事故が原因で僕はこの世界に来たという事らしい。


(しかもゲームの世界じゃん!! 最高だね!!)


 頭の中に流れてくる、聞き馴染みのある専門用語。

 それが前世でやり込んでいたゲームである事を僕は瞬時に理解した。


 レバティ・フロンティア

 魔王軍が倒された後のファンタジー世界を旅するMMORPGだ。

 大きな戦いのその後から始まるという少し変わった世界観から注目を集め、僕は休みを全てこのゲームにつぎ込んでいた。


 そのやり込み期間なんと五年。

 大人になると新しいゲームを始めるのも気力がいるからね。

 ずーっと同じゲームばっかやっちゃう。 


 で、僕はそのゲームのとある貴族の息子に転生したってことらしい。


「全く、”スキルコピー”なんてゴミにしか使えないスキルを持ちやがって。私のような優れたスキルを持って生まれて欲しかったな!!」


「ほんとほんと。コピーってなんだよ意味わかんねえ」


 そして僕がボロクソに言われてる理由はスキルにあるらしい。


 待って? ”スキルコピー”がゴミ???

 一体何を言ってるんだ。

 レバティ・フロンティアじゃ最強クラスのスキルだったのにどうして……


「……ああ、そういう事か」


 そういえばそうだ。

 ”スキルコピー”の効果説明文だけ読んだらゴミに見えるわ。


 スキルっていうのはあらゆる技のベースになるもの。

 例えば”炎帝”というスキルなら炎に関する技が出せるようになる。

 これが水とか風とか、後は透視だったり力持ちだったりとスキルには色々ある。


 で、問題の”スキルコピー”だ。

 これは非常にクセのあるスキルで、SNSで実装発表した時も、


 『ゴミすぎて草』

 『ネタスキル乙』

 『配信者向けのマゾスキル』

 『無能運営死にやがれ!!』


 ってボロクソに叩かれていた。

 

 というワケで、そのスキル説明文がこちら。


 ”スキルコピー”

 相手のスキル発動を見た際、発動者のスキルを一番低い段階で習得する。

 ※習得スキルの進化はできません。


 うん、ゴミだね。


 一番低いってことは初級段階だし、進化というスキルが更に強い能力になる事も起きない。

 つまり成長もしないし、いつまで経っても初級のスキルが増えるだけ。


 僕も最初見た時は「こんなもんに時間を使うなクソボケが」って叫んだのを覚えている。


(でも、これさえあれば人生を変えられる)


 実装直後、有志の検証によってこいつは化けた。

 スキル説明文に書いていない隠し能力というのが発見されたのだ。

 その隠し能力というのが、レバティ・フロンティア史上でもぶっ壊れと名高いもので……


(あ、でも早速”スキルコピー”を使ってみたいな)


 どうやらこのリオという男、スキルコピーの真価に気付いてなかったらしく習得スキルも一つしかない。


 記憶を探ったら貴族の恥さらしだとずっと部屋に閉じ込められたらしいし。

 引きこもってる間にも筋トレはやってたから、それなりに動けそうだけど。


 まあいい。

 とりあえず”スキルコピー”を使おう。


 ”スキルコピー”を使うには、相手がスキルを使う所を見ないといけないから……


「……どうせ皆もゴミスキルなのに」


「今なんて言った?」


 散々言ってくれたクソ家族を煽ってみよう。


「私達がゴミスキルだと!? 貴様のような雑魚の分際でよくそんな事が言えるな!!」


「えー、でもちゃんと見た事はないし……あっ、もしかして触れちゃいけない話だった?」

 

 てへぺろーとわざとらしく舌を出して、目をキュルン(多分)とさせながら家族を見つめる。

 クソムカつく言葉とクソウザい顔、そしてあざとくて気持ち悪い僕の仕草!!


 あらゆる不快要素を目撃した結果、家族は……


「生意気なことを……!!」


「思い知らせてやる!!」


「爆ぜろ、そして死ね!!」


 一斉にブチぎれた。


「”剣聖斬”!!」


「”炎帝”!!」


 兄と親父がスキルを発動する。

 うお、結構攻撃的だな。


 これを習得できるなんてラッキーラッキー……

  

「あっ」


 待って。

 これ、どうやって防げばいいの?


「うあああああああああ!?」


 ドォオオオオオオオオン!!

 防ぐ手段もない僕は二人のスキルをモロに喰らい吹き飛ばされた。

 これで吹き飛ばされるのは三回目。


「”聖なる祈り”……をすると思わせてしなーい♪」


「貴様のような生意気な息子にはうんざりだ!! 二度とウチの門をくぐるな!!」 


 完全に怒った家族は倒れた僕の身体を掴んで家の外に追い出す。

 そして門を固く閉じ、僕は二度と入れなくなってしまった。


「……”ヒール”」


 ぷるぷる震える身体で習得したスキルで身体を回復する。

 癒しの波動が全身を包み、徐々に傷が治っていく。


 死ぬかと思った……

 手加減していたのか頑丈だったからかわからないけど、とりあえず生きている。


 完全にゲームの感覚でやってしまったなぁ。

 今度から気を付けなきゃ。


「お、結構治るじゃん。流石は”スキルコピー”」


 あんだけ派手に喰らったのにもう動ける。

 手足が動かせる事を確認した後、僕は家族に絡まれたくないのでさっさと移動する。


 あばよクソ家族。

 僕は旅に出るぜ。


「これでスキルは四つか、カスタム無限大で楽しくなってきたなぁ」


 無一文で追い出されたけど僕はゲームの知識があるし、何より”スキルコピー”の特性を理解している。

 つまり、何となる自信はあるってこと。

 先の事は考えるなって自己啓発本でも言ってたし!!


「割とピンチだけどこれも経験かな。第二の人生こそ頑張ってみよー」


 散々な幕開けだけど、僕は結構ポジティブだった。


 新たな場所、

 新たな冒険、

 新たなスキル。


 こうしてリオ・ウェイカムという一人の青年の旅は始まった。


「これでクソ息子はいなくなったな!!」


「育てる手間もイライラする時間もなくて幸せ!!」


「俺がいればウェイカム家は大丈夫です!! あんなヤツの事は忘れましょう!!」


「「「わはははははははははは!!」」」


 ……なんかムカつく声が聞こえるな。

 もう関わる事はないけど、不幸でも起きろと祈りながらここを去ろう。


※現在の習得スキル

スキルコピー、ヒール、ファイア、スラッシュ


◇◇◇


新連載です。

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m(_ _)m

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