第3話 彼女はキライな人だけど悪い人じゃない

ツンデレとキャラクターの見た目の一通りの説明を行った。


まあ見た目で人を判断するのはリアルでもよくある話で以外とすんなりと話は進んだ。

ブラウンの髪色を黒髪にして髪型をお団子からミディアムヘアのストレートにし、メイクも期間限定で大人しい雰囲気にすることでオーケーを貰った。


「じゃあ次に実際にアニメを見てキャラの受け答えを勉強しようか」


「ちょいちょい!なんでアニメを見る流れになってるのよ」


「今のは見る流れだっただろ」

「次は多くの人から好感を持たれる為の受け答えと性格を学んで貰う」


布教も出来るチャンスだ。

物語の沼にハマってしまえば一石二鳥だ。


「さすがに面倒くさいし興味無いんだけど」


「はいはーい、いいから続けますよと」


「オタクは人の話を聞かないから嫌なのよ」


「聞いた上で無視してるんだよ」


「たちが悪いわね」


「全部やって全く効果が出なければ、その時は僕の負けを認める」

「リアルと現実こそが最高でしたごめんなさいって謝るよ」


「そこまで言うなら観てあげてもいいけども、本当に意味あるの?」


コイツは何も分かっていない。

寿司屋に行ってサイドメニューだけで腹いっぱいになるやつくらい分かってない。


「キャラクターは性格を分かりやすく、そして魅力を最大限に相手に伝える力を持つのだ!」


首を傾げる彼女に何かいい例えは無いかと考える。


「例えばだ、科学の吉田先生と体育の平井先生どっちが人気あると思う?」


「そりゃカッコ良くてイケメンでスポーツ出来て、優しくて冗談が上手くて気遣いが出来る平井先生でしょ」

「よく女子にキャーキャー言われてるし」


「まあ一般的にそようだよな」

「じゃあ吉田先生はどんな先生だ?」


「んー、悪い先生じゃ無いわよね」

「基本笑わないし、私生活の話もしないから少し話しかけずらい感じかな。少し厳しいけど授業も教え方が上手でいい先生だと思う」


「まあそうだよな。吉田先生も悪い先生じゃないし、むしろ先生としてはかなりいい先生だ」

「でも見た目や体格の要素を抜いてもそれでも人気が出るのは平井先生のキャラクターだろ」


「それはそうね」


「そこで人気のあるキャラクターからの性格や会話の仕方を学ぶ必要がある」

「その点アニメやマンガのキャラクターは一つ一つの要素を分かり易く表現されているから学習には最適なのだ!」


「少し納得してしまいそうな自分が憎い」


悔しくそうにこちらを睨む彼女に高笑いを浮かべる。


「ふはは、これで分かっただろう物語の持つ無限の力を!」


「そのキャラクターはちょっとキモいからやめて欲しいかな」


「学んだことを生かすのはいいことだけど、その毒舌キャラは俺も傷つくからの辞めような」


気持ちよく語っていた高揚感が一気に引いて、一気に現実に引き戻される。

まあこれでとりあえずはアニメとマンガを見てくれる状況が出来ただろう。


机から一枚のプリントを持って来て彼女に手渡す。


「何これ?」


彼女が来る前に印刷しておいた物で、キャラクターの情報を整理する為の物だ。

普段から自分で使っている物ではなく、彼女用にした物だが。


これに今から見せる映画に出てくるキャラクターの情報を埋めていってくれ。


「えっと、性格にキャラクターの譲れない物。そのキャラクターの好きなセリフ?」


「そう、その3つ。簡単だろ?」


「まあこれくらいならね」


今回アニメ映画を選んだ理由は、1話ごとに集中力が切れる心配がないし、いきなりいろんなキャラクターが出てこないからだ。


「じゃあまずはこれからだな」


選んだのは、テレビでも話題になっていた天気の子。


「あ、これは見たことある」

「友達も見た人いるし」


「だと思ってな、これなら見やすいだろ」


まずは親見やすくて話題作りにもなる作品から入っていった方が良いだろう。


「これは元々興味あったし普通に楽しみかも」


「よし電気消すぞ」


明かりを落として再生の準備をする。


「わざとやってる?」


「わざと…?こっちの方が発色が良く見えて余計な情報が入らないからな」


「手元が見え辛くてプリント書けないんだけど」


「あ、それは悪かった」


明かりをつけてプリントの置いてあったデスクの方に座る。


「じゃあ俺は終わるまでこっちで作業してるから」


「え、一緒に見るんじゃないの?」


キョトンとした目でこちらを見つめる。


「いやソファー結構ちっちゃいから、横に座ると流石に嫌だろ」


「いや別に気にしけど。それに一緒に見た方が楽しくない?」


「いや別に…」


そう言うと彼女は慣れた手つきで又フィギュアに手を伸ばす。


「分かったよ。分かりました」


渋々諦めて彼女となるべく間を開けて横に座る。


いくら興味の無い相手とは言え自分だって年頃の男子だ。

少しドキドキしてしまう。


「よろしい、楽しさを一緒に味わう楽しさをあんたもこれを期に学びなさい」


「1人で没入して見るのが好きなんだけどな」


「何事も経験よ」


映画の再生が始まった。



再生してからしばらく、驚いたことがあった。


それは映画を見る集中力だ。

最近では倍速やケータイ片手に見る人も少なく無い中で彼女の視線は画面から一切それない。


渡したプリントには半分程度書いてくれれば良い方だと思っていたがこの調子なら余裕で空白を全部埋めてしまうだろう。


映画の緊張するシーンを終えた所で彼女に話かける。


「面白いか?」


「まだよく分からないかな。絵は綺麗ね」


顔は会話を初めてもなお、画面を見つめ続ける。


「さっきから食い入るように観てたからさ、面白いのかと思って」


「私はね、一度やると決めたことは全力なの」

「そうやって私は生きて来た。それにこの映画を作るのって凄く大変なんでしょ?」


「大変だな」


「ならそれがどんな物でも全力で私は向き合いたい」


彼女から画面に目を戻す。


この世界を見下し諦めをつけ、蔑んでいた自分が少し矮小に思え、それに反比例するように今の彼女は今この時だけは世界の何よりも美しく見えた。








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