　ショットガンを構えたままのアレックスが小さくため息をついてから言った。

「ふうっ。レイチェル、猿男の拘束お疲れ様。それにしても困ったわ。猿男を燃やしたくても、急いでいたから予備のガソリンを持ってきていなかったわ」

　ガソリンはアレックスの愛車のものしかなかった。これからレイチェルたちのアパートに帰るために、車のガソリンは使いたくない。レイチェルは辺りを見回すと、ジネットたちが乗って来たと思われるワゴン車が目に止まった。

　レイチェルはワゴン車に念動力をかけると、車はものすごい勢いでタイヤが回転し、いも虫のようにうごめいている猿男に激突した。

　レイチェルの意図を理解したアレックスは、ショットガンを消して拳銃を取り出すと、ワゴン車に向かって発砲した。弾丸は見事ガソリンタンクに命中し、火柱が上がった。しばらくすれば猿男は燃えつきるだろう。

　アレックスは拳銃からショットガンに持ち変えると、横目でジネットに視線を向けてからキティに言った。

「キティ。ジネットの傷を治してあげたのね？ありがとう。ジネットたちは家族のもとにかえさないといけないわ。キティ、ロッジの中の人たちの傷も治してくれる？」

　アレックスの頼みに、キティは無言でうなずいた。アレックスはすばやくレイチェルに視線を送った。キティについていけというのだ。

　レイチェルはこの場をアレックスに任せて、キティと共にロッジの中に入って行った。

　ロッジの中はこうこうと明かりがついていた。仲間同士で騒いでいるところを殺人鬼に襲われたのだろう。玄関先には、アレックスが投げたと思われる手榴弾の爆発の跡が黒々と残っていた。

　レイチェルはキティの手をつないで、ジネットの友達がいるであろうメインルームに向かった。きっと恐ろしい惨劇の後のはずだ。

　本来ならば小さなキティにそのような場面は見せたくない。だが、傷ついた彼らを元に戻せるのはキティしかいないのだ。

　一室からむせるような生臭いにおいがした。血のにおいだ。レイチェルは無意識にキティの手をギュッと握っていた。

　リビングは血の海だった。ジネットの友人たちは執拗に切り刻まれ、無惨な姿になっていた。レイチェルはハッと息を飲んだ。

　覚悟していたよりずっと酷い。レイチェルは心配そうにキティを見下ろした。キティは何の表情も浮かべずに、手近に倒れていた女性の側に近寄った。髪が長いので、かろうじて女性とわかった。

　キティは顔がグシャグシャになった女性に手を置いた。しばらくすると、女性の顔が修復され、綺麗になった。その表情はおだやかで、まるで眠っているかのようだった。

　キティは次に、女性の頭部と胴体を近づけようとしたが、女性の顔が重く血まみれだったため、うまく近づけられないようだった。

　レイチェルはキティのとなりにひざまづくと、血まみれの女性の頭部を持ち上げた。キティは驚いた表情でレイチェルを見上げた。

「レイチェル、いいよ。血がついちゃう。やるなら念動力を使って？」

「ううん、大丈夫よ。この人たちは人間だもの。ちゃんと敬意をはらいたいの」

「うん」

　レイチェルとキティは黙々と死者たちの修復を続けた。

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