治療

 レイチェルは不安な気持ちでかたわらのジネットを見つめていた。ジネットは小刻みに震えていて、一言も言葉を発しない。キティは厳しい表情で、ジッとジネットの肩に手を置き続けていた。


 突然ジネットが激しくせき込むと、口から大量の血を吐いた。レイチェルは驚いて悲鳴をあげてしまった。


「大丈夫!ナイフが肺を傷つけていたんだ。まずは肺の血を抜かないと、」


 キティはしっかりした声で言うと、ポケットから鉄製の棒を取り出した。その棒はストローのように真ん中に穴が空いていて、先は鋭く斜めにカットされていた。レイチェルはそれが何なのかわからずジッと見ていると、視線に気づいたキティが説明してくれた。


「これはね、アレックスに作ってもらったんだよ」


 キティは少し笑ってから、倒れているジネットの左肩にぶすりと鉄のストローを突き刺した。レイチェルはあまりの事にヒッと小さく悲鳴をあげた。その直後、ストローから勢いよくし血が吹き出した。


「この人は肺に血がたまって呼吸がしづらかったんだよ。だから血を抜いたの」


 キティが説明してくれる。レイチェルにはよくわからないが、キティはいつも難しい医学書を読んで人体の勉強をしている。キティの治癒の能力を最大限使うためなのだそうだ。


 ジネットを見ると、少し状態が良くなったようにも感じる。これなら助かるかもしれない。キティは慎重に、ジネットの背中のナイフを抜くようレイチェルに指示した。


 レイチェルはうなずいてジネットの背中に刺さっているナイフのつかを握って引いた。ビクリとジネットの身体がけいれんする。


 傷口からは血がドボドボと流れ出る。ジネットの身体が激しくけいれんしだした。


「まずい、ショック症状を起こしてる!」


 キティが舌打ちしながら叫ぶ。レイチェルはパニックになりながら質問した。


「どうしらいいの?!」

「・・・。輸血、するしかない」

「輸血?だってここじゃあ。早く病院行かないと」


 ここは森の中、輸血できる設備なんてない。レイチェルがキティを見ると、下唇をグッと噛んでいる。レイチェルは悟った、ジネットはもう助からないのだ。


 ならば今ここで、レイチェルたちにできる事をするしかない。レイチェルはジネットの手をぎゅっと強く握って叫んだ。


「ジネット!ジネット!聞こえる?!何か言いたい事はない?!」


 レイチェルはジネットの唇に意識を集中した。ジネットは震えながら何かを言った。声は出ない。レイチェルは唇の動きを読んだ。


 ママ。ジネットは最期に自分の母親を呼んだのだ。ジネットには愛する家族がいるのだ。


 ジネットはそれきり動かなくなった。彼女は死んでしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る