疑惑のロッジ
レイチェルは助手席に座り、身じろぎせずに正面を向いていた。アレックスはいつもより荒っぽい運転で愛車を走らせている。キティは後部座席で毛布に包まって眠っている。
レイチェルは心の中で強く願っていた。どうかジネットのロッジでは何も起きないように。たとえ殺人鬼に襲われていたとしても、レイチェルたちが間に合うように。
レイチェルの悲痛な表情を見て取ったのだろう。アレックスが優しい声で言った。
「大丈夫よ?レイチェル。まだジネットたちが殺人鬼に襲われると決まったわけじゃなし。もしかしたら、バカな若者たちのらんちき騒ぎに腹を立てる結果になるかもしれないじゃない」
「そうね。きっとそうね」
レイチェルたちがくだんのロッジに到着したのは、深夜二時を過ぎてからだった。
湖畔近くのロッジは、ひっそりとして人っ子一人いなさそうな静けさだった。電気はついているのに、物音一つしないのが逆に不気味だった。
アレックスは車を停めると、手に拳銃を出し、レイチェルに渡した。レイチェルは無言でうなずいて後ろのベルトにはさんだ。
アレックスは優しい声でキティを起こす。キティは機嫌悪そうにうなってから起き出した。無理もない、いつもならば夢の中にいるはずなのに。レイチェルはキティを可哀想と思いながらも、そのまま寝かせておくわけにはいかないのだ。
もしジネットたちが深傷を負っていたら、キティしか助けられないのだ。アレックスはキティにも拳銃を手渡した。
車から降りると、アレックスは手にショットガン持ち、注意深くロッジに近づいた。
突然ロッジのドアがバタンと開き、中から髪を振りみだした女が出て来た。女はヨロヨロと酔っぱらっているようにアレックスに近寄って来た。
レイチェルは女の不自然な挙動を注意深く見て気づいた。彼女は全身血まみれだった。
「キティ!」
「わかった!」
レイチェルの悲鳴のような声に、キティは鋭く答えた。レイチェルとキティは女に駆け寄った。レイチェルが女の背中を見ると、深々とナイフが刺さっていた。これはいけない、レイチェルは女をゆっくりと座らせてから横向きに寝かせた。キティはすぐさま女の状態を確認する。
「出血がひどい。背中のナイフはまだ抜かないで」
キティはブルブルとけいれんしている女の肩に手を置いた。きっと治癒を始めているのだろう。レイチェルはかたずを飲んでキティと女を見守った。
ふと女の顔に見覚えがあった。写真で見たジネットだ。ジネットの金髪の髪にはべっとりと血がついていた。顔は夜目にも蒼白なのが見て取れた。
SNSの写真を見るかぎりでは好感の持てなかった少女だが、いざ弱りきった姿を見れば、憐憫の感情が湧いてくる。
レイチェルはジネットの氷のように冷たい手を握った。
ジネットの状態を見ていたアレックスがレイチェルたちに声をかける。
「キティ、レイチェル。この娘の事を頼むわ」
「ええ。アレックス、気をつけて」
レイチェルの言葉に、アレックスはうなずいてロッジに入っていった。おそらく、ジネットをこのような目にあわせた殺人鬼が中にいる。
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