殺人鬼から逃げ切ったら超能力が目覚めた件

新たなターゲット

　キティがデザートのゼリーを腹におさめて一息ついた頃、アレックスが声をあげた。

「特定できた。名前はジネット・バートリー十八歳。父親は貿易商をやっていて、かなりの金持ちね。たちの悪い友達も何人か特定したわ」

　レイチェルはアレックスのノートパソコンをのぞき込んだ。画面には人工的な髪色のジネットと、頭の悪そうな男女が楽しそう笑っていた。

　場所はどこかのバーだろうか。アレックスは画面からレイチェルに顔を向けた。

「ジネットはレイチェルと年齢が近いわ。友達と言えば怪しまれない」

　レイチェルは気を引き締めてうなずいた。ジネットとその友達は、殺人鬼のターゲットになっている可能性があるのだ。

　次の日は土曜日だった。レイチェルは学校から帰った後、アレックスとキティと共にジープである場所に向かった。ジネットのいる場所だ。

　移動には三時間かかった。辺りは夕闇に包まれている。アレックスとキティは車の中で待機し、レイチェルだけが外に出た。

　バー、ローグはケバケバしいライトで装飾された下品な店だった。レイチェルはタバコの煙に顔をしかめながら店内に入った。

　店内には酒に酔った若者たちが奇声をあげて盛り上がっていた。レイチェルはバーテンダーにジンソーダを注文してから話しかけた。

「ねぇ、ドムって来てる？」

　無愛想なバーテンダーは、ジンソーダをレイチェルの前に出してからある場所を指差した。

　レイチェルが視線を向けると、テーブル席に座っているずんぐりむっくりの若い男がいた。何がおかしいのかヒステリックに大笑いしている。

　ジネットと一緒に写っていたドムだ。どうやらレイチェルは一人目で当たりを引いたようだ。

　レイチェルはドムの側に立って、魅力的に見える笑顔を浮かべた。

「はぁい、ドム。私の事覚えてる？」

　ドムはいぶかしげにレイチェルを見上げた。無理もない、初対面なのだから。

「ああ、覚えてないか。私ジネットの友達、レイチェルよ。あの時ドムすごく酔ってたから」

「ああ、そいつはすまなかったなぁ。あんたみたいな美人、しらふなら絶対覚えてるぜ」

「まぁ、みえすいたお世辞。でも、ほめ言葉として受け取っておくわ」

「本心だよ」

　ドムはニヤニヤとしまりのない笑顔を浮かべ、馴れ馴れしくレイチェルの手を取ってとなりに座らせた。

　レイチェルはドムのエールのジョッキに軽くグラスを当ててから一口飲んで言った。

「ジネットったらひどいのよ？私のメッセージ無視するんだから」

「ああ、そりやぁ仕方ねぇよ。ジネットの奴はお気に入りのケビンと取り巻きとロッジに行ってるから」

　レイチェルはハッと息を飲んだ。もうジネットたちはもうロッジに出発してしまったのだ。レイチェルは焦って言った。

「そうなの！私もロッジに誘われてたのよ？それなのに、いざ連絡したらつながらないんだもの。ドム、ロッジの場所知らない？」

「・・・。だいたいはわかるがよ。でもジネットはレイチェルをロッジに招待するってのは本心じゃなかったはずだぜ？」

「どうして？」

「レイチェルがジネットよりも美人だからさ。ジネットはハンサムな男と自分よりもランクの低い女しかはべらせないんだ。俺なんか野良犬扱いだぜ」

　ドムは悔しそうに顔をしかめる。確かにドムはお世辞にもハンサムとはいえない。どうやらジネットは中々の女王さまのようだ。

　レイチェルは、もっと一緒に飲もうとしつこいドムを置いてバーから飛び出した。