夕食

 それからのレイチェルの生活は穏やかなものだった。学校に通い、戦闘訓練をし、たまにスラム街で腕試しをする日々が続いた。


 ソファに座りスマートフォンとにらめっこしていたキティが口を開いた。


「ねぇ、アレックス。これなんかどうかな?」


 アレックスはキティのとなりで仕事のパソコンをたたいている。


「どれ?キティ」


 アレックスはノートパソコンを保存して閉じると、キティのスマートフォンをのぞきこんだ。レイチェルは夕食の準備をしながら二人の会話に耳を傾けている。


 今夜はキティの好きなミートスパゲッティだ。ミートソースはナベの中でグツグツと美味しそうなにおいをさせている。


「この書き込み。怪しいと思わない?今度の休みに友達とロッジに行くの!とっても楽しみ!だって」

「そうねぇ、とりあえず調べて見ましょう」


 アレックスはキティの言葉にうなずくと、スマートフォン片手にノートパソコンを開いた。レイチェルはナベの火を消してからアレックスの後ろにまわる。アレックスはキティの指摘した人物のSNSの書き込みから、その人物の所在を特定しようとしているのだ。


 SNSは世界中の人々が自分の趣味や生活を発信している。だが気をつけなければいけない、SNSにあげた画像だけで人物の居場所を特定してしまえるのだ。


 アレックスはSNSに不用意な発言をした相手の特定にかかった。何気ないスナップ写真。歳の頃はレイチェルと同じくらいだろうか、ブロンドで青い瞳。だがブロンドは染めていているようだ。化粧が濃くて、遊んでいる感じがした。


 彼女が数名の友達と写っている写真の背景を拡大する。そこには道路の標識が写っていた。アレックスは素早いタイピングで、情報のカケラを拾い上げていく。


 レイチェルはアレックスの手腕を驚きの目で見つめていた。キティは早くも飽きて、お腹が空いたと騒いでいる。


 アレックスが調べ物を始めると、他の事は手につかないので、レイチェルとキティは先に夕食を取る事にする。


 キティはミートスパゲッティに粉チーズをたっぷりとふりかけ、口の周りをソースまみれにして美味しそうに食べていた。こんなに喜んで食べてもらえるのは、作った者としてこれほど嬉しい事はない。


 レイチェルも自分でスパゲッティを食べてみる。ゴロゴロとした肉と、玉ねぎの甘みがあいまってとても美味しい。次にサラダも食べてみる。シャキシャキとしたレタスと甘みのあるトマトが美味しい。


 キティは生野菜が嫌いなので、レイチェルはフォークでトマトを突き刺し、キティの口元に持っていく。キティはプイッとそっぽを向く。


「あーあ、いいのかな?デザートのゼリーはいらないのかな?美味しいオレンジの手作りゼリーなのに」

「食べる!」

「じゃあ、野菜も食べなさい」


 キティはうらめしそうにレイチェルを見てから、トマトを食べた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る