戦いの終わり
火柱は真っ暗な夜空を赤々と照らし、熱風は容赦なくレイチェルたちに襲いかかった。あまりの熱気に、レイチェルな呼吸が苦しくなった。
羊男はギャァギャァと断末魔の叫び声をあげる。アレックスはショットガンを取り出すと、後ろを振り返らずにレイチェルとキティに言った。
「レイチェル、キティ。もっと下がって」
レイチェルとキティはアレックスの言葉に従い、燃え上がる羊男から離れた。アレックスもゆっくりと下がって行く。
「羊男はこれで死んじゃうかなぁ」
キティがポツリとつぶやくように言う。レイチェルとアレックスに質問するというよりは、ひとり言のようだ。
「それはわからない。だけど羊男が燃えつきるまで、見届けなければいけないわ」
アレックスが羊男から目を離さずに言った。アレックスの顔は炎に照らされて赤くなり、彼女の髪は本当に燃えているように熱風にそよいでいた。
しばらく時間が経つと、ひっきりなしだった羊男の叫び声が徐々に小さくなっていった。アレックスは小さくため息をついてからレイチェルたちに振り向いて言った。
「貴女たちは車の中で待っていなさい」
レイチェルは首を振った。自分もアレックスと一緒に羊男の最期を見届けたかった。レイチェルはキティだけでも車で休ませようと、彼女を見下ろした。
キティは火柱から目を離さず、レイチェルの手をぎゅっと握った。キティもレイチェルと同じ気持ちなのだ。レイチェルはアレックスに小さくうなずいた。アレックスは苦笑してから火柱に視線を戻した。
火の勢いはようやくおさまり、辺りは明るくなって来た。レイチェルは耐えきれずに眠ってしまったキティを抱っこしていた。
アレックスはフウッと大きなため息をついてから口を開いた。
「羊男は死んだ、と言っていいかもね」
「死んだ？！本当に？！」
アレックスの言葉に、レイチェルは思わず大声で聞き返してしまい、眠っているキティを起こしてしまった。
キティはむずがるようにレイチェルの首に顔をすりついてから、みじろぎした。おろしてほしいといっているのだ。レイチェルがゆっくりとキティをおろすと、キティは目をこすりながらくすぶっている羊男を見つめて言った。
「あいつは死んだんだね」
「うん。そうみたい」
アレックスはショットガンを持ったまま、灰になった羊男に近づくと、胸ポケットから試験官を取り出し、灰を採取した。殺人鬼たちに遭遇すると、彼らの身体の一部を持ち帰って調べているのだ。
アレックスは笑顔でレイチェルたちに振り向いた。
「さぁ、帰りましょう？」
「お腹すいた！」
「うふふ、私も」
アレックスの言葉に、元気なキティとレイチェルも続く。車に乗り込むと、アレックスはエンジンをかけ車を発車させた。
森を抜けて道路に出てから、レイチェルはリュックサックの中の潰れたハンバーガーを配った。
「冷めてて潰れてるけど、このハンバーガーすっごく美味しいね！」
キティは口の周りをケチャップで真っ赤にしながらご満悦だ。レイチェルは運転で手が離せないアレックスの助手席に座り、彼女にハンバーガーを食べさせながら答えた。
「そうなのよ。マスターの作るバーガーは冷めてても、潰れてても美味しいの」
「本当に美味しいわ」
アレックスも嬉しそうに言った。アレックスはレイチェルが食べさせたバーガーを飲み込んでから言った。
「レイチェル、今日は学校休む？」
「いいえ、行くわ。今日休んだら、きっとケィティが心配するもの」
「オーケー。じゃあすぐ家に帰って支度しましょう。学校まで送ってってあげる」
アレックスは車の速度をあげた。レイチェルはアパートに着くとシャワーを浴びて学校に向かった。
案の定授業はすべて居眠りしてしまったが、レイチェルは晴れやかな気持ちだった。
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