ケイティ
レイチェルはケィティのフワフワの髪をずっと撫でていた。ケィティは本来ならば、レイチェルたちと一緒にロッジに行く予定だったのだ。
だがどうしても抜けられない用事ができて、ロッジ行きを断念した。レイチェルはケィティがロッジに行かなかった事を心から感謝した。
ケィティはようやく落ち着いたのか、レイチェルから身体を離した。何故かレイチェルの身体を頭から足先まで見つめて口を開いた。
「レイチェル、太った？」
「えっ！そうかしら？！」
「ううん。太ったとは違うのかな。なんか前よりがっしりしてる感じ」
それはそうだろう。レイチェルの近頃の毎日は、格闘技と銃器と能力の訓練に加えて、夜中のケンカだ。レイチェルは以前よりも確実に身体がしまっていた。だがケィティにこの事は言えないので、ぼかして説明する。
「ああ、そうかも。従姉妹が心配して、外に出れない間、暇だから筋トレばかりしてたの」
「え？！運動音痴のレイチェルが筋トレ？！」
「ちょっとぉ、それ失礼じゃない？」
「だって本当の事じゃない。小雨が降ってきたから、軒下に入ろうって、私とエイミーとレイチェルでかけたら、レイチェルだけ何もないところで転んで泥だらけになったじゃない」
「うん、まぁ。そんな事もあったわねぇ」
「そうそう、レイチェルったら顔面から転ぶから、顔まで泥だらけになっちゃって。私とエイミー、申し訳ないけど吹き出しちゃった」
「本当、あの時の貴女たちったひどいんだから！」
「あはは、ごめんごめん」
レイチェルとケィティはひとしきり笑いあうと、寂しそうにほほえんだ。もうもう一人の親友はこの世にいないのだ。レイチェルとケィティの思い出の住人になってしまったのだ。
レイチェルは学校の生徒たちから、好奇の目にさらされていた。殺人鬼の魔の手から、一人だけ生き残った。生徒たちはコソコソとうわさをして面白おかしく話していた。
中にはぶしつけにレイチェルに質問してくる者もいた。そんな時、ケィティが間に入って、いつもレイチェルを守ってくれていた。
休けい時間やランチの時は、いつもケィティが側にいてくれて、レイチェルの学校生活は穏やかに過ぎていった。
それまで疎遠になってしまっていたクラスメイトたちも、ケィティが間に入る事により、打ち解ける事ができた。
レイチェルとケィティが食堂で昼食をとっている時の事だった。
「レイチェル、店長も心配してたよ？」
ケィティはサンドイッチにかぶりつきながら言った。店長とは、レイチェルとケィティ、それにエイミーがアルバイトしていたハンバーガーショップの店長の事だ。
レイチェルが事件に巻き込まれてから、メールだけで行けないむねを伝えて数ヶ月が経つ。レイチェルも店長に会って、あいさつをしたかった。だが中々アレックスの許可がおりないのだ。
絶対に夜一人では外出してはいけない。これはアレックスから見て、レイチェルがまだまだ一人で戦えないと考えているからだろう。
レイチェルはチキンのバケットをそしゃくして飲み込んでから口を開いた。
「うん。今度必ずごあいさつに行くわ」
「ねぇ、私が一緒に付き添ってあげるよ。それなら従姉妹さんも安心するでしょ？」
「それはダメ！」
レイチェルは思わず大きな声を出してしまった。ケィティが驚いた顔をしている。レイチェルは取りつくろうように紅茶を一口飲んでから言った。
「従姉妹のアレックスがね、まだ私の精神状態は完全じゃないって言っているの。夜に外に出ると、事件の時の記憶を思い出して、パニックになる事が心配なんだって」
「そっかぁ。一緒に暮らしているアレックスさんが言うんだから、そうかもしれないね」
素直なケィティは、うんうんと納得してくれた。
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