　レイチェルはアレックスたちと共に行動を始めてから、一月ほど経った。その間アパートを変えて暮らしていた。

　レイチェルは学校の寮を引き払い、少ない荷物を持ってアレックスたちのアパートにやっかいになった。

　レイチェルは当初、アレックスに生活費を払おうとした。レイチェルは月に一回生活費を受け取れるのだ。

　だがアレックスはレイチェルの申し出を拒否した。これからのために貯蓄しておくように言われた。それではレイチェルの気持ちはおさまらなかった。

　ひとりぼっちになって途方に暮れていたレイチェルを、アレックスは引き取って養ってくれている。レイチェルは十八歳になると、弁護士から亡き父の多くはない遺産を受け取る事ができる。

　その遺産の一部をアレックスに受け取って欲しかった。だがアレックスはその申し出も丁重に断った。レイチェルはこれからお金が必要になる。自分のためにとっておくようにと。

　レイチェルはこれからの自分の未来が想像できなかった。恐ろしい殺人事件に巻き込まれ、常に殺人鬼につけ狙われる日常。

　アレックスは力強く言うのだ。きっと殺人鬼たちを全滅させ、穏やかな日常を取り戻せると。

　長かった夏休みが終わり、レイチェルの学校は新学期になる。レイチェルは学校を辞めるつもりでいた。殺人鬼に目をつけられているレイチェルが学校に通おうものなら、学校の人々にも危険がおよびかねない。

　レイチェルが学校を辞める事を告げると、アレックスは反対した。

「レイチェル、卒業まであと一年でしょ？学校を出ていない私が言うのもおかしいけど、レイチェルに卒業してほしいのよ」

　アレックスは田舎から家出をしてきて、学校は中退してしまったのだ。アレックスは大人になって、学校を卒業しておけばよかったと何度も思ったそうだ。レイチェルはアレックスの熱意におれて、学校に通う事にした。

　レイチェルが教室に入ると、クラスメイトたちはヒソヒソと遠巻きにレイチェルのうわさ話をしていた。

　レイチェルが殺人事件の生き残りだという事は、学校中に知れ渡っている事だろう。レイチェルはただ黙々と授業を受けた。休み時間になると、別なクラスの友人がレイチェルのクラスにやって来た。

　友人のケィティはレイチェルの顔を見るとホッと息を吐いて笑顔になった。レイチェルは苦笑してケィティと共に教室を出た。見せ物になるのはごめんだ。

　レイチェルはケィティを連れて学校裏までやって来た。ここまでくれば野次馬はいないだろう。ケィティも心得ていてくれたようで、無言でついてきた。

　レイチェルが立ち止まってケィティを振り向くと、彼女はレイチェルの首に抱きついて来た。

「レイチェル！会いたかった！無事だっていうメールはもらったけど、会えるまでずっと心配だったの！」

　ケィティのクルクルの天然パーマの髪が、レイチェルの頬をくすぐる。レイチェルは胸が熱くなって、ケィティの小さな身体を抱きしめ返した。

「ケィティ、心配かけてごめんね。会いに行きたかったけど、従姉妹がとても心配して、一人で外に出させてもらえなかったの」

　ケィティはレイチェルとエイミーの共通の友達だ。ケィティはレイチェルが事件に巻き込まれた事を知ると、すぐにメールをくれた。おそらくエイミーの携帯電話にもメールを送っただろう。

　レイチェルもケィティに会って、彼女を安心させたかったが、もし彼女と一緒にいるところを殺人鬼に見つかれば、ケィティにも危険がおよぶと思い、会う事はしなかった。ケィティにはアレックスと同居する事を、従姉妹だと説明していた。

　ケィティはしばらくレイチェルに抱きついていたが、ゆっくりと顔をあげて、涙を浮かべた瞳でレイチェルを見て言った。

「本当なの？エイミー、ずっと連絡がないけど、本当に、」

　ケィティは言葉を言い終える前に、泣き出した。レイチェルはケィティのフワフワの髪を優しく撫でながら言った。

「ええ、本当よ。エイミーは私を助けて死んでしまった、私のせいで死んでしまった」

　ケィティはガバリと顔をあげて、鋭い目でレイチェルを見て答えた。

「違う！違うよ！エイミーはレイチェルを助けたかったんだよ。だから、レイチェル。そんな事言わないで？」

　それだけ言うと、ケィティはまたレイチェルに抱きついてシクシク泣き出した。レイチェルはケィティが泣き止むまでずっと彼女を抱きしめていた。

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